第237話 魔力の種

「さてと、今日は何をしようかしら」

 調合をするか、と思って振り返ってみる。すると、マーカスがポーションを調合中だった。

 ルックは今日は学校がお休みらしい。彼はマーカスの横でビーカーを出したり、下処理をしたりといったお手伝いをしている。

 二人で間に合ってそうね。


 ならばと、パン工房まで足を運んで様子を見てみる。

 すると、ミィナの指示のもと、アリエルとウーウェンがせっせと働いている。

 そして、ふわふわと宙に浮くピーターとアリスが、イートインで食事をしているお客さんのおしゃべり相手をしていた。

 多分、こちらも人手は足りていそうな感じだ。


 ……なら、畑の様子を見に行こうかしら?


 そうと決まれば話は早い。

 まずは、栄養剤入りのお水をやる必要があっても困らないように。私は、保管庫から栄養剤入りの瓶を取り出して、ポシェットに入れる。


 次に、いつも畑のお世話をしてくれている精霊さんと妖精さんのために、お礼のジャムを持っていこう。

 私は厨房に行って、小さなお皿とスプーン、そしてジャムの入った瓶をいくつか取り出した。


 厨房の窓から差し込む日差しは、暖かな春の日差しだ。

 それを見て、私は思いついた。


「春だから、作りたてのいちごジャムにしようっと」

 私はそう呟いて、ジャムの瓶の蓋を開けた。

 そして、小さなスプーンでジャムを数回皿に移す。


「よし、行こう!」

 私はジャムを盛ったお皿を手にして畑に向かった。


「みんな、おはよう!」

 少し遅い朝の挨拶を畑へ向かって投げかけると、わぁっと妖精さんや精霊のリコが近づいてくる。

「「「おはよう、デイジー!」」」

 私の周りを舞うように彼らがクルクルと辺りを飛び回る。


「いつも畑のお世話をありがとう。今日は、旬のいちごのジャムを差し入れに持ってきたわ」

 そう言って私が彼らにお皿を差し出すと、わっとみんながお皿を覗き込んだ。


「わぁ! あまーいジャムだ!」

「いちごだ!」

「美味しそう!」

 みんなの目が赤いジャムに釘付けになる。その瞳はキラキラと輝やいていた。


「じゃあ、棚の上に置いておくから、みんなで仲良く食べてね」

「「「はーい!」」」

 とは言いながらも、押すな押すなとお皿に群がる妖精さん達が微笑ましい。私は彼らを横目に見ながら、くすりと小さく笑うのだった。


 そんな私は、不意に肩をトントンと小突かれた。

 リコだ。

「ねえねえ、デイジー。私達に特別にジャムをくれたんだもの。植物達にも、栄養剤入りの特別なお水をあげたらどうかしら?」

 そう言ってリコが片目でウインクする。


「……そうねえ」

 私が、どうしようかな、と思って植物達の状態を見ようと思って畑を見回す。


 すると、青と赤の二色のマンドラゴラさんが、嬉しそうにお花を揺らして歌い出した。

「「栄養剤入りの、美味しいお水〜♪」」

 ばっちりと私達の会話を聞かれていたらしい。


「聞かれちゃったわ」

「もう、あげないわけにはいかないわね」

 私とリコは顔を見合わせ、肩をすくめて笑いあう。


 私とリコは、ジョウロが置いてある棚に向かう。

 そして、ジョウロの中に栄養剤を入れて、水魔法で作り出した水を足していく。


「「デイジー、早く〜♪」」

 待ちきれないといった様子のマンドラゴラさんが、私に催促してくる。まずは彼らに特別製のお水をあげないと、大人しくはしてくれなさそうね。

 私は、まずはマンドラゴラさん達が植っている場所へと移動する。


「お待たせしました。たっぷり飲んでね」

 サアァッとジョウロのくちから溢れる水が、彼らを、そして彼らが植っている土を濡らしていく。


「「わーい!」」

 マンドラゴラさん達は、嬉しそうに体を揺らした。

 さて、他の子達にもたっぷり美味しいお水をあげないとね。


「リコ、一緒にまわりましょう」

「いいわよ!」


 そうして、二人で順番に水を撒いて回った。

「最後はあべこべの木ね」

 そう思って、水を撒こうとしたときだ。


 ……あれ?


 どうも、見たことのない形をした実が成っていた。

「ねえ、リコ」

「どうしたの? デイジー」

「……あべこべの木に、おかしな実が成っているわ」

「えっ?」


 あべこべの木というのは、同種族の植物の交配に適した木で、他の木で交配を行うよりも新種ができる成功率が高い。

 そう考えると、新しい新種の実が出来ていても不思議ではないのだ。


「一体何が出来ているの?」

 リコが私に尋ねてきた。

「ちょっと待ってね……」

 私は、鑑定の目に切り替える。


【魔力の種】

 分類:種子類

 品質:高品質

 レア:A

 詳細:一時的に魔法威力が上がる。

 気持ち:魔導師垂涎すいぜんの品だね!


 それは、やっぱり新種の種だった。

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