第238話 体力向上の種の問題

「これは『魔力の種』っていう新種らしいわ」

「じゃあ、以前と同じように、この種がしっかり木になるように、お世話してあげないといけないわね!」

 私がリコに鑑定結果を伝えると、彼女は俄然やる気になったようだ。


「まずは、小さめの鉢植えで芽が出るまで育てるのよね」

 私がかつての作業を復習するように口にすると、リコが頷きながらついてきた。


「そうそう。確か前に使った鉢が残っているはずよ。……あ、デイジー、こっち!」

 ふわふわと宙を飛びながら、リコが鉢植えを置いてある場所まで案内してくれた。


「じゃあ、この鉢に植えましょうか」

 前に新種の種が出来たときに使った覚えのある鉢を手に取った。

「そうね! 発芽させるには、まずそのサイズがちょうど良さそうよ」


「じゃあ、種を植えるための土をここに入れないとね」

 土と錬金術で作った栄養豊かな豊かな土、それを掬うのにスコップがいるなあと思って、まずは作業道具がしまってある戸棚に向かった。


 スコップを手に持って、豊かな土の入った大きな麻袋を置いてある場所まで行く。

「土に、豊かな土を混ぜてっと……」

 麻袋の隣の空いた場所の土を掘って解して、豊かな土を混ぜていく。


「混ぜる割合はこれくらいでいいかな……」

「前と同じくらいだったし、大丈夫じゃないかしら? 私達もちゃんと面倒見ているから、何かあったらすぐに教えてあげるわよ」

 私がちょっと悩んでいると、リコが私にアドバイスをくれた。


「ありがとう、リコ!」

 私はチュッと彼女の頬に感謝のキスをする。

 すると、リコはほんのりとその頬を染める。


「ほらほら。土ができたのなら、早く種を植えなさい。そうしたらお水やりよ!」

 照れ隠しなのか、リコが急にあれこれと忙しなく私に指示をするので、その様子にちょっと笑ってしまったのだった。


 そして、私とリコで、新しい種を植えた鉢を陽当たりのいい場所に置いてから、水やりをした。

 あとは、他に実っている既存の種類の実もあったから、それらを収穫して回る。


 色とりどりのカラフルピーマンのような実の外側は、食用としてミィナに渡すためにカゴに入れていく。そして、その中の種子は日陰で乾燥させるために、ザルの上に広げたのだった。


 ◆


「というわけで、また新種の種が出来ちゃったのよ」

 それを夕飯時に報告しながら私がフォークで刺したのは、もちろん、今日収穫したカラフルピーマンだ。

 ミィナが早速とグリル焼きにしてくれた。


 その他の今日のメニューは、メインはルックの希望でホワイトソースのパン粉焼き。

 小麦粉とバターと牛乳で作った白いとろりとしたソースの中に、具としてお肉やお魚なんかを混ぜる。これを平たいお皿にたっぷり入れて、パン粉で覆ってオーブンで焼く。

 チーズを作った時は、贅沢にパン粉のかわりにチーズをかけちゃうこともあるわ!


 今日は、マッドチキンの肉を細かく切ったものと、玉ねぎの薄切りを炒めたものがホワイトソースに混ぜてあった。


 ルックはこれを、ちぎったふんわりパンにつけて食べるのが好きなようで、今もハフハフしながら笑顔で頬張っていた。


 ちょっと話が逸れちゃったかしら。

「新種ですか。今度はどんな効果がある種なんですか?」

 一緒にテーブルを囲むマーカスが、私に尋ねてきた。


「魔力の種っていうのよ。一定時間魔法の威力が上がるらしいわ。今はまだ一つしかできていなかったから、鉢に植えて、発芽を待っているところなの」

 私が鑑定した結果と、今の状況を説明した。


「……デイジー様。それ、ご実家の皆様……いや、またそれ冒険者や軍の皆様が欲しがったりしませんかね?」

「そうよねえ。前に素早さの種と力の種をアトリエの商品として出したら、大変だったのよね」

 私は、素早さの種の力の種を新商品として売り出した時の騒ぎを思い出してため息をつく。


 商業ギルドに根回しをして、栽培に成功したので売り出すという報告と値段を伝えたのはいいものの、その後が大変だった。


 未だかつてこれらの能力向上系の種の栽培に成功したものはいない。

 だから、売っているのは私のアトリエのみ。

 だから、初めて売り出した時は、噂が噂を呼んで、軍からも欲しい、常連の冒険者さん達も欲しいと奪い合いになってしまったのだ。


 私の畑は世界樹、精霊さんや妖精さん等がいるおかげで、どんな季節でも常春状態。

 そして、植物の成長サイクルも早いので、季節に関係なく、一定の期間が経てば種は収穫できるのだ。


 収穫をして、食べられるように陰干しして乾燥させたら商品として出す。そして毎度毎度、黒板や張り紙で『○○の種、あります』と告知するたびに、大変なことになったのだ。


 結局、軍へ売る分と冒険者さん達に売る分の配分について揉めそうになってしまった。だから、商業ギルド長のオリバーさん(カチュアのお父様)に間に入ってもらって、軍と冒険者ギルドで配分について話し合いの場を設けてもらったほどだ。


 そして今は、国の軍にと決められた量をまず除き、そして残りを、十粒入れた袋にして、一人一袋までと決めて冒険者さん達に売っているのだ。


 あの騒ぎを考えると頭が痛くなった。


「デイジー様。魔力の種が加わりそうなのに加えて、もっと大きな問題がありますよ」

「え?」

 マーカスに真面目な顔で、「もっと大きな問題」と言われて、私は思わず眉根を寄せてしまう。


「体力向上の種です。あれは、大騒ぎになるからと扱いを保留にして、保管しっぱなしです」


 ……そうだった!


 まずは、ドレイクとの再戦の目的で、私とリィンとアリエルで全部食べちゃったんだけど、その後収穫した種の扱いを決めていなかったのだ。マーカスのいうとおり、保管しっぱなしである。


 だって、食べただけで恒久的に体力が上がるのだ。「そんなもの世に出したら大変だ!」ということになって、つい、後回しになってしまっていた。


「あれは前線で戦うお父様や、将来そうなるお兄様やお姉様に一番に食べて欲しいのよね……」

 家族びいきと責められるかもしれないけれど、正直、国のために戦う家族を持つ身としては、それが本音だった。仮にもし他にどんな大義があっても……どうしたって、私にはまず家族が大事だった。


 ……だって、魔導師の職を頂けなかった私に、優しく接してくれた家族がいたから、今の私があるのだから。


「……まずは、実家に一度戻られて、お父様に相談してみてはいかがですか?」

 罪悪感というか申し訳なさというか。そんな気持ちで顔を曇らしていると、マーカスはそんな私を察してくれたのか、意外にも優しい声で提案してくれた。

 私が気に病むようなことは、何も責めないでくれた。


「……それがいいかもしれないわね」

 そうしよう。

 そう決めて、私は実家に手紙を送ることにしたのだった。


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近況ノートでご報告済みですが、

「王都の外れの錬金術師」書籍3巻と、コミック1巻(あさなや先生著)が、

12/10に同時発売されることになりました!"(ノ*>∀<)ノ

これも、ひとえに皆様の日頃の応援の賜物です(*´▽`*)

これからもよろしくお願いします!

なお、すでにどちらも一部通販サイトでは予約開始しておりますので、

ご検討いただけましたら幸いです!

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