第231話 アトリエの新メンバー
無事に検問を終えた私達は、真っ直ぐにアトリエに向かった。
「お帰りなさい!」
孤児院の私塾から帰ってきたらしいルックが、アトリエの前を掃き掃除していた。そして、店の外に出ている彼を守るかのように、魔導人形のピーターとアリスがふわふわと飛んでいた。
ルックは、もうすぐ開校する国民学校の錬金術科に入学予定だ。
「ルック、お掃除ありがとう。ピーターもアリスも、お店のみんなの護衛をありがとう。後で紹介するけど、今日からこの子、ウーウェンが仲間入りするからよろしくね」
「ルックです! 錬金術師見習いです。よろしくお願いします!」
「ピーターです」
「アリスです」
「ボクはウーウェン! よろしく!」
挨拶をする間も、ルックはウーウェンの側頭部に生えている丸いくるんとしたツノが物珍しいのか、彼女の顔とツノを見比べていた。
パン工房を覗くと、ミィナとアリエルが忙しそうに店内を歩き回っている。
「あ、デイジー様! お帰りなさい!」
そんな中、ミィナが私を目に止めて、声をかけてくれた。
「お帰りなさい!」
ミィナの声で気がついたアリエルも私に挨拶をしてくれた。
「この子はウーウェン。アトリエの新しい仲間になるから、後で紹介するわね!」
「「はぁい!」」
揃って明るい返事が返ってくる。まあ、アリエルは既に彼女のことを知っているのだけれど。
「ミィナ。夕食はこの子の分もお願いね」
「わかりました!」
お店も閉めて、落ち着いて食事を取るときにゆっくり紹介しようと思っている。だから、ウーウェンの分の食事もお願いしておいたのだ。
あとはマーカスね。
ウーウェンを誘って、二人で練金工房の方へ歩いていく。
表の通りの方、お客さん用のドアを開けて店に入る。チリンとドアベルの音がして、それに気づいた作業中のマーカスが、その手を止めて振り返った。
「いらっしゃいま……ああ、デイジー様。お帰りなさい!」
来客用の笑顔よりも、より柔らかい笑顔になったマーカスが挨拶をしてくれた。
「ただいま、マーカス。この子はウーウェン。後でゆっくり紹介するけど、これからアトリエの仲間に加わるからよろしくね」
「ボクはウーウェン。よろしく!」
軽い挨拶をしてその場の紹介を済ませる。
あとは、……畑のみんなね!
入ってきたドアを開けて外に出て、ぐるりと表から裏の畑へと回る。
「……何ここ」
畑に足を踏み入れて、その光景を目の当たりにしたウーウェンが絶句する。
「あれはマンドラゴラ! グエンリール様だって手に入れるのに苦労していたのに!」
私の畑で楽しそうに歌っているマンドラゴラさん達が、歌うのをやめて、ウーウェンに声をかけた。
「「こんにちは!」」
「こ、こんにちは……」
そして、妖精さんや精霊のリコもウーウェンの周りを囲む。
「この子はだぁれ?」
妖精さんの一人が首を傾げながら、彼女のツノをツンツンと突いている。
「やだ、デイジー! 今度は誰をお友達にしちゃったの⁉︎」
リコは、なんだか私のしてきたことを察している様子で尋ねてくる。
「この子はウーウェンよ。実は赤竜の女の子なの。ご先祖さまが彼女を育てたらしくて、私と一緒に来たいと言ったのよ。だから、アトリエの仲間になってもらうことにしたの!」
「ウ……ウーウェン、です。それにしてもこの妖精と精霊の数って……」
自然を司るもの達が、この畑に無数にいることに、ウーウェンが再び絶句している。
「だぁって。デイジーは緑の精霊王の愛し子だもの! 精霊や妖精が彼女のそばにいたいと思うのは当たり前でしょう? あ。愛し子っていうのは他所で喋っちゃダメよ」
ウーウェンの疑問に、リコが答えた。
「え? 精霊王の愛し子⁉︎ 神の愛し子⁉︎」
そこまではウーウェンでも気付いてはいなかったようで、口をパクパクしながら私を見て瞠目する。
……うーん。彼女も面識のあるリィンもそうなんだけどな。
とは思ったものの、驚愕続きらしいウーウェンにさらに今追い討ちをかけることもないか、と判断して、そこはまだ秘密にしておくことにした。
さらに、この様子だと、世界樹さんもここにいるっていうのを教えるのは、また後日にしたほうがよさそうね。
◆
そうして、夜になってアトリエを店じまいしたあと、みんなで二階の食卓でウーウェンの紹介をすることにした。
「え? 赤竜⁉︎ 守護竜⁉︎」
マーカスが、口にしようとしていた一口大のお肉をぽろりと皿の上に落とした。
そんな彼を含めて、みんなの顔が驚きでまんまるだ。
「ええと、最近街にふれが出た、『ザルテンブルグの守護竜』のことなんでしょうか?」
ミィナがナイフとフォークを皿に置いて、気を取り直したように私とウーウェンの顔を見比べている。
「正確には、ボクは『デイジー様の守護竜』だけどね! デイジー様のお仲間なら、ボクはみんなのことも守るよ! よろしく!」
ミィナの言葉を若干訂正しながら、ウーウェンが食卓を囲むみんなに友好的な笑みを浮かべた。
「はわわわ。竜さん……! そのツノはやっぱり竜さんだからなんでしょうか?」
やや頬を紅潮させたミィナがウーウェンに問いかけた。
「そうだよ! うーん。流石にここじゃ本当の大きさにはなれないけど、小さめならいいかな?」
そう言って、ウーウェンが手に持っていたフォークを皿に置いて、椅子から立ち上がる。
そして。
ぽふん、と赤い子竜の姿に変化した。
「はわわわ! かわいい! 本物の竜さんです!」
がたんとミィナも椅子から立ち上がって、子竜姿になったウーウェンに駆け寄り、ぬいぐるみを抱きしめるかのように、その胸に抱き寄せるのだった。
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