第220話 ご主人様の奪い合い
うーん、ちょっとどういうことなのかしら?
お父様の家系図に何か隠し事があるの?
それともお母様の出自に秘密がある?
そういえば、あまりお母様の実家の話って話題に上がったことがないわね……。
今から思えば、不自然なくらい、お母様に関することって聞いた記憶が思い当たらなかった。
頭の中を整理する間も、赤竜が擦り付いて離れない。
私はもう抵抗する気力もなく、されるがままになっている。
「ねえ、どうしよう?」
今後は放置されたと怒らせないよう、赤竜の頭を撫でながら、目線を塔に一緒に登ってきた仲間たちに尋ねた。
「血の味を確認して、赤竜である彼女が断言しているのです。なら、この塔の主人だったグエンリール様はデイジー様のご先祖様だということじゃないですか?」
「そうなのかしら……?」
アリエルは、エルフという長命種ゆえなのか、世界樹と共に生きる中で不可思議に慣れているのか。
素直に考えれば導き出される答えを、受け止めているようだ。
「まあ、その辺りはご両親に確認する必要はありそうだね」
「それは……、リィンの言うとおりだわ」
リィンも割と平然としている。
確か、亡きドワーフ王国の末裔だとかって話だったわね。
だから、こういう事態にも落ち着いて構えられるのかしら?
そして、その横でお約束のようにマルクが頭を抱えてしゃがみ込み、レティアは泰然としているといった感じである。
もちろん、リーフもレオンも……と思ったら。
……あれ、違う?
リーフの様子がなんだかおかしい。
尻尾を後ろ脚の間に丸めて引っ込めて、私に抱きついている赤竜を睨んでいた。
「え? リーフ、どうしたの?」
普段の穏やかな彼とは違う、まるで怒っているかのような様子に、私は驚いて声をかける。
「どうしたも、こうしたもありません! デイジー様を『
リーフが人の言葉でそう主張する。
なるほど。嫉妬、ヤキモチというものなのだろうか?
でも、と、リーフの主張はもっともなのではないかと思いなおした。
だって、リーフは私が八歳の時からずっと守ってきてくれた。
寂しい日には一緒に眠ってくれたりもした。
そんな彼を、ないがしろにしているわけじゃない。
けれど、最初に一度きちんとはっきりさせなければいけないだろう。
「ねえ、赤竜さん」
「ん? なぁに?」
私の声に、擦り付いていた赤竜が顔を上げる。
「あなたが私を『
その言葉に首を傾げる赤竜に示すように、片手をリーフに向ける。
「彼はリーフ。精霊王様から遣わされた聖獣よ。今まで彼が私を守ってきてくれたの。だから、彼はあなたの先輩だわ。彼をたててくれないのだったら、あなたが私を『主人』と呼ぶのも認められない」
キッパリと言い切った私の言葉を聞いて、リーフが喜び溢れんばかりに瞳を輝かせ、尾を持ち上げて大きく振った。
それと対象的に、赤竜は戸惑いと落胆と悲しみの混じったような表情に変わる。
「ええと……デイジー様……だよね。それと、リーフ様。……ボクは、デイジー様に……グエンリール様の血を引くデイジー様に仕えたいんだ。だって、ボクを拾って育ててくれたグエンリール様はもういない。ずっとずっと前からいない。……ボクは……寂しいんだ」
赤竜がそう訴えながら、私から一歩離れ、瞳からあふれる涙を自らの腕で拭う。涙声には、ぐずぐずと鼻を啜る音が混じっていた。
「……もう、ボクは一人は嫌なんだ! やっと、やっと、ご主人様を見つけたと思ったのに……! 会えたと思ったのに……! ちゃんと、序列は守ります。だから、ボクを拒否しないで……!」
ぼろぼろと涙をこぼし、両手をぎゅっと握りしめて訴える赤竜。
そこまで訴えられたら、私も彼女の涙につられて胸が締め付けられるようで、つい、「いいよ」と受け入れてしまいたくなる。
……でも、まずここは、リーフをたてないと。
そう思って、目線をリーフに向けた。
リーフは、泣きじゃくる子供を前にして「仕方ありませんね」とでもいうように、ふっと表情を緩める。そして、赤竜のそばへ歩いていく。
そして、彼女の固く握りしめた拳を、ベロンと舐め上げる。
その感触に驚いたのか、まだ涙でいっぱいの金色の瞳が、ぱちぱちと瞬く。
「精霊王様も、デイジー様を守護するものが増えることは、きっとお喜びになるでしょう。……デイジー様の行く道を、共に支えてくれますか?」
「うん! 喜んで!」
ガシッと赤竜がリーフに抱きつくと、涙で濡れた頬をリーフがぺろぺろと舐めとっていた。
……ん? あれ?
主人のはずの私を放って、勝手に結論づいてない?
それと、『デイジー様の行く道』とか、なんか大袈裟にしないでくれる?
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