第161話 我儘な素材達①

 糸素材と皮素材は、加工をお願いすることができてひと段落。

 すると、あとは私が錬金術で必要な合金を作る事になる。


 ……今頼まれているのは、フレイムリザードの鱗と溶岩鉱よね。


 マルクから預かった鱗を、ポシェットの中から取り出してみる。


【フレイムリザードの鱗】

 分類:鱗・材料

 品質:高級品

 レア:B

 詳細:金属に取り込むことによって、火耐性を持たせることができる。

 気持ち:あ? 俺? 一人でやる気ねーわ。美味いもんと一緒に混ぜてくんねーと働く気しねー。


 ……はい?


 素材の鱗が、美味いものを要求とはこれいかに。

 ふう。と私はため息をつく。

 なんというか、最近素材達が我儘な要求を言ってくることが増えたわ……。

 高級素材って高確率で我儘さんなことが多いような気がする。


 さて、どうしたものかしら。『美味しいもの』ってことは、鉱物じゃないわよね、きっと。

 こういう時は、図鑑頼みかしら。フレイムリザードの生態を調べれば、何かわかるかもしれないわね。


 私は階段を上がって、リビングの脇にある本棚の前にたつと、丁度ルックと出くわした。

「デイジー様、何かお探しものですか?」

 ルックは、故郷の北部の村から預かって、今はアトリエの居住階に部屋を与えられて下宿中だ。

 口調も、教会の学校で学んだ結果、身分を考えてなのか、私を『様』と呼ぶようになった。

 本当は、『弟子入り』志願だったのだけれど、来年の春に開校する国民学校で錬金術を学んでもらうことにした。

 私やマーカスが教えてもいいのだけれど、教科書を作ってその学校を見守る立場としては、身近な人に通ってもらって、学校で教わっていることの状況を見てみたいというのもある。

 そして、ルック自身がいつか必要な錬金術を修めた暁には、勉学だけでなく、錬金術師として同期のお友達というのが得られるのが大きいのではないかと思うのだ。

 ルックは、いつか一人で寒村に戻る。

 一人で亡くなったお父様のアトリエを引き継いでから、悩むこともあるだろう。

 そうした時に、離れ離れになっても、手紙などで相談ができる仲間が多いに越したことはない。


 そんなルックが、私が本を探しに来た理由を私に尋ねてきた。

「フレイムリザードの鱗がそんな要求をするのですか」

 当然だろう、ルックは不思議そうな顔をした。

「なんでも、彼にとって『美味しいもの』を混ぜてくれないと、やる気がしないんですって」


 そう言いながら、私は本棚からお目当ての『魔獣図鑑』を手に取って、テーブルに向かう。

 椅子に腰を下ろして、ぱらりと目次ページを開く。

「……フレイムリザードっと」

 そして、探し当てたページを開いた。

「私も、だいぶ本を読めるようになってきたので、ご一緒してもよろしいですか?」

 そう、断りを入れてくるから、私はにっこり笑って隣の椅子を勧めた。

 これは子供用なんかじゃなくて、結構しっかりとした難しめの図鑑。だから、それに興味が持てるようになったルックの成長に嬉しくなった。


「どうぞ。一緒に探しましょう」

 二人の丁度真ん中に開いた本を置く。

 そして、二人で中に書かれたフレイムリザードの生態を調べた。

「……なんていうか、エグいですね、この魔獣」

 すると、ある一節を見て、ルックが顔を顰めて言ったのだ。


 ……ん? どういうことだろう?


「ほら、ここですよ。フレイムリザードは自らの炎で、トカゲを丸焦げにして食べることを好むって……」

 そう言うと、ルックが開いた本の一箇所を指し示した。

「これが、どうして『エグい』なの?」

 私は意図するところが分からず首を捻る。

「フレイムリザードも、魔獣とはいえトカゲの一種です。それが、トカゲの丸焼きが好きだなんて。共食いじゃないですか!」

「……なるほど」

 ルックのいうことも尤もだ。しかも丸焼きにするこだわりよう。悪趣味ね。

 私達は、顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。


 と言うわけで、私はリーフをお供に街にでた。

 勿論、お目当ては『トカゲの黒焼き』。

 これを買い求めるのって、錬金術師というより魔術師(それも呪い師みたいな感じ)っぽくない?

 探し当てたお店も、なんか呪い師のための呪術道具の店って感じで薄暗い。


 ……なんか、入るの躊躇うわ。


「いらっしゃい。何かお探しかい?」

 でも、店から出てきて声をかけてくれたのは、優しそうな顔の腰の曲がったおばあさんだった。ちなみに、怪しげなローブなんて着てなくて、普通の商人らしい格好よ。

「トカゲの黒焼きって素材を探しているんですが……」

 私は、おばあさんに尋ねてみた。

「ああ、あるよ。あると言っても、いろんな種類のトカゲで作ったものが揃っているから、中においで」

「お邪魔します」

 私は、恐る恐る、店内を見回しながら店に足を踏み入れるのだった。

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