第145話 『アデプト』
リィンにお願いしていた宝石の加工が終わって、届けに来てくれた。
【冷気のネックレス】
分類:装飾品
品質:高品質
レア:B
詳細:身につけたものに、熱(暑)い環境で涼しさをもたらす。
気持ち:涼しく快適に!
「まさか、あの動機で本当に作り上げるとはね」
「えっ!本当に作っちゃったんですか!」
リィンとマーカスが呆れ驚いている。
「『ずるいじゃない』が動機で、付与効果のある宝石作っちゃうとはねえ」
「そもそも、錬金術で宝石が作れるなんて聞いた事ないですよ!すごい大発見じゃないですか!」
リィンは呆れて肩を竦め、マーカスは、新しい錬金術の手法を編み出した事実に興奮して目を輝かせている。
「予定より多くできたから、一個はミィナに使ってもらおうと思っているのよね」
私は、元々六個できてしまった時に思いついたことを口にする。
パン工房担当のミィナは、あつーいオーブンを毎日相手にしていて、夏場なんて汗だくになりながらオーブンと格闘している。だから、まずは彼女にと思ったのだ。
夏場の業務用オーブンを使用中の時の調理場の暑さと言ったら!
「あと、マーカスもね。夏場に錬金釜を使うのは暑いから」
そう言って、水色の宝石のついたネックレスをマーカスに手渡す。
マーカスは遠慮がちに受け取る。
「頂いてしまっていいんでしょうか?」
おずおずと、ネックレスの美しい小さな石を眺める。
「うちで働く人への必要な支給品よ!気にしない!」
笑って言い切って、ネックレスを持っている方のマーカスの手をぎゅっと握らせる。
「ありがとうございます!」
マーカスは嬉しそうに破顔した。
「あとは、リィンも」
はい、と言って手渡す。
リィンはキョトンとした顔をした。
「いや、あたしは装備品で防げるだろ?」
その言葉に、私は横に首を振る。
「違うわ、普段の仕事用。鍛治は、金属を溶かすから暑いでしょう?」
「あたしは従業員じゃないけどいいのか?」
リィンのその言葉に、私は不思議に思って首を傾ける。
「……だって、私のパートナーじゃない。私の生み出すものは、あなたが最後に安全な使い方しか出来ないように付与をつけて、形にしてくれるのよ。私にはなくてはならない人だわ」
その言葉に、リィンは照れたのか、目を丸くして頬を染める。
「……じゃあ、お言葉に甘えて、貰っておく」
ちょっと目を逸らして、でも口元に笑みを浮かべているところが、照れくささを隠しているんだろうなあ、と感じられて可愛かった。
そして、ミィナは……。
ちょうど調理場にいた。
「ミィナ、熱い時に涼しくしてくれる宝石を作ったのよ。ネックレスにしたから、使ってちょうだい!オーブン作業、熱いでしょう?」
そう言って、私はミィナの首にネックレスをかけてあげる。
「はわわ!頂いてしまっていいんですか?」
目をぱちくりさせながら尋ねるミィナに、うんうん、と首を縦に振って答える。
「ちょっとオーブン前に行って試してきます!」
好奇心でゆらゆらするしっぽを見せながら行ってしまった。
「すごいですぅ!デイジー様、とっても作業が楽です!」
大きな声で結果を伝えてくれた。
うん、良かった。
残りは三つ。
私とマルクの採取用。
それと、残り一個は、リリーがもう少し大きくなって錬金釜が使えるようになったらあげようと思う。ペンダントに、『リリーの分』とメモをつけて、保管庫にしまったのだった。
ああ、なんか「魔法の宝石作りを専業にして、稼げばいいじゃない」ってリィンに言われたけれど、宝石作りはそんなに単純でもないみたいだから、「それは難しそうね」と返しておいた。
そして、アナさんに相談に乗ってもらったし、そもそも私のお師匠様だから、ネックレスを持って結果を報告に行った。
私の報告を聞いて、アナさんは満足そうに頷いた。
「デイジー、あなたには前に『本物の錬金術師』の話をしたね。そして、あなたは今日錬金術の真理と、宝石というものの有り様をもとに、誰もなし得なかった『変成術』を発見した。これからも励んで、『真の
そう、告げられた。
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