第144話 宝石作り

 なんだかんだと女の子の買い物は長い。

 そして、途中で寄ったデザート店も、たっぷりおしゃべりに興じた。

 結局素材店を出る頃には夕方の手前……、と言った時間になっていたので、その日はリーフとともにリリーを実家に送って行って、おしまいにした。


 実家にいたお姉様へのお土産は、髪留めとリボン。

「可愛いわ!ありがとう!」

 そう言って、早速髪に留めてくれた。


 そして、リリーからのケイトへのお土産は、店主さんが可愛らしく袋をリボンで飾ってくれてあった。

「ケイト、いつもありがとう。うけとってね」

 そう言って、リリーがケイトにそのお土産を渡す。

「リリー様……!使用人の私なんかのために、わざわざありがとうございます」

 ケイトがプレゼントを受け取って、目をウルウルさせている。

「開けてみてもよろしいですか?」

「もちろんよ!」

 ケイトが尋ねると、リリーが嬉しそうに答える。

「まあ、可愛らしい栞!しかも名入れまで……!私がよく本を読んでいるから、これを選んでくださったんですか?」

 ケイトの問いに、リリーが、うふふ、と嬉しそうに笑って頷いた。

「ワンちゃんは、ケイトのいろ。ことりは、わたしのいろよ!」

「まあまあ、ケイトは果報者です!大切にしますね」

 そう言って、ケイトは大切そうに栞を胸に抱くのだった。


 そして翌日。

 私は、藍銅鉱と氷晶石をすり鉢で砕き、少量を錬金釜に入れて、インゴットを作る要領で溶かして、冷やしてみたのだ。

 できたのは、『材料をただ混ぜて固めた石ころ』だった。

 完全な失敗だった。

 アナさんに相談しに行ったものの、彼女も宝石は作ったことがないらしく、「解らない」との事だった。


 そうして、数日、私は自宅で本とにらめっこをしていた。

 ……宝石ってどうやって作るのかしら?

 そう、勢いで材料だけは揃えたものの、作り方はインゴットとは違うようで、その方法ではダメだということしか分からない。


 まず、錬金術関連の書物には書かれていなかった。

 次に、素材図鑑を調べると、宝石の自然界でのでき方という説明があって、必要なのは圧力。そして、宝石によって、その時に必要な熱は違うらしいのだ。溶岩のように熱い環境から、ただ圧力を加えるだけ、というものまであるらしい。あら?よく見ると圧力が絶対という訳でもないみたい。宝石の出来方というのは様々らしい。

 ……難しいなあ。


 ちなみに、錬金術の基本定理は『一は全なり、全は一なり』。『第一質料』と呼ばれるひとつの存在から全ては生まれ、だから、全てのものは『第一質料』に通じるという考えだ。

 そして、錬金術とは、『第一質料』から出来た、自然界に存在するものに影響を与え、『変成』を行うこと。元は同じひとつの物質なのだから、『有り様』を変えればいい。もちろん何でもかんでも変えられはしないけれど。

 その『変成』を実践するための力なら、まだ誰も本に書いていなくても、新しい『錬金魔法』で何かしら変成を促すことは可能なんじゃないか?

 だって魔法って、イメージが元になるから。


 ちなみに、今回の『変成』に必要なのは、『圧力』。

 まず思いつくのは、お兄様やリリーが操れる『重力魔法』。

 だけど、重力と圧力は似ているようで違うんじゃないかと思うの。


 私は、コトン、と藍銅鉱を床に落とす。これが重力。大地に向かう一方方向への力。これは、ある錬金術師が発見したこの世に存在する不思議な力だ。これが私たちを大地に繋ぎ止めてくれる。

 正確には、単純に物は大地に引き寄せられるってことじゃなくて、全ての質量おもさを持つ物体が相互に引き合っているって事なんだけどね。そこは、そんなものだと思ってて。


 そして次に、氷晶石を手のひらでぎゅっと握る。これが圧力だと思う。多方向からの力。


 ふと、失敗した石に目をやる。


【藍銅鉱と氷晶石を混ぜた石】

 分類:合金・材料

 品質:低品質

 レア:D

 詳細:名前の通り。ただの混ざりものの石。

 気持ち:君の理論は結論にたどり着いたかな?さあ、僕を宝石にしてご覧。理論の次は実践だろう?


 あ、鑑定さんが優しい。頑張って考えたからかしら?

『僕を宝石にしてご覧』っていうってことは、多分鑑定さんからのヒントだ。ここまでの溶かして固めたことはあっていると言ってくれているのだろう。


 石に両方の手のひらをかざす。

 イメージをする。


 ……石の表面の全方向から圧力、力を与える。


「あっ」

 石はヒビが入って砕けてしまった。力を入れすぎたみたい。

 ……失敗は仕方ない。誰もなしえたことが無いはずの、新しい技術だから。


 まずは、溶かして冷やした『ただの石』をできるだけ作ろう。鑑定さんの言うことが間違っていないなら、これは変成過程としては正しい物質だ。

 その日は、『ただの石』をいくつか作って終わった。


 そして翌日。

 冷えて固まっているただの石たちを前に、呼吸を整えるために深呼吸する。

 ……鑑定さんがサポートしてくれると助かるんだけれど……。

 ちらっと石を見たが、返事はない。自分で試行錯誤しろということだろう。


 その日の半日は、弱い圧力で長時間変成を試みる。石に変化なし。失敗。

 午後は、もう少し圧力のイメージを強くして、変成。石に変化なし。失敗。

 翌日、さらに圧力を強くして加えるが、同じく失敗。

 ……こうなると、ただ単に圧力を与えればいいということではないようだ。


 めげずに今度はイメージを変えてみる。

『圧力により石の組成が変成し、均質な違う物質に生まれ変わる』。

 すると、しばらく圧力をかけた後、急に石が眩しく光って、全く見た目の違う、水色の透明な宝石ができていた。


【冷気の石】

 分類:宝石・材料

 品質:高品質

 レア:B

 詳細:身につけたものに、熱(暑)い環境で涼しさをもたらす。

 気持ち:頑張ったね!新しい『錬金魔法』を発見した気分はどう?


 気分はどう?ですって?

 ……最高に決まっているじゃない!やったぁ!

 私は久々にジャンプしてガッツポーズをする。


 そして、残りの石も同じように変成させて、冷気の石は全部で六個作ることが出来た。

 リィンの元に持って行って宝石を固定して、ネックレスにでもしてもらおう!


 そうだ、この魔法に名前をつけよう!

 キーワードは、錬金術、圧力、変成、結晶、宝石……。

 うーん。

『錬金変成』、これにしよう!

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