第125話 黒溶鉱採取①

 叙爵されたからと言って、これからも別にすることは変わらない。

 私たちは、マルクとレティアの仕事がひと段落着いたので、以前話し合った『ドレイク対策』を進めるべく、まずは『黒溶鉱』を採取しに、王都から南西にある休火山地帯に行くことになった。

 この休火山では、かつての噴火でできた、火属性を持った鉱石である『黒溶鉱』が採れる。といっても、そこに生息するモンスター達は特に属性持ちということもないので、今の装備で採取に行ける。だから、ドレイク対策を始めるのに丁度良いというわけ。


 そうそう、『慈愛のインゴット』は『慈愛の指輪』として全員に配り、ノーライフキングからの戦利品の『神々の加護の指輪』は、土台を『ガーディニウム』に変えた強化版を、アリエルに装備してもらった。

 そして、出発前に実家に寄って『守護の指輪』をリリーに渡し、出かけることを伝えてきた。納品以降落ち着いたリリーは、以前のように駄々をこねるでもなく、帰ってきたらお勉強の成果を披露するから、実家に寄って欲しいと甘えられただけだった。


 今回も、私、リィン、アリエル、マルク、レティアの五人で、それぞれ馬や聖獣達に乗って、街道を使って南西を目指していた。

 今日は晴天。日差しも強めで、秋に入ったというのに少し汗ばむ陽気だ。私の新作装備、アゾットロッドを陽の光にかざすと、キラキラ光って綺麗。

「早く実戦で使ってみたいわ!」

 そう呟いて、うっとりロッドの容器部分を眺めていたら、マルクに窘められた。


「……おい、物騒なことを言うんじゃない」

 マルクが眉間に皺を寄せている。

「だって、新しいものは使ってみたいじゃない」

 ぷう、と私は口を尖らせる。

「あのなあ、それを使う前提って、誰かが怪我をするってことだろうが」

 はぁ、と溜息をつきながらマルクが答える。

「あ、それもそうね」

 じゃあ、しばらくお預けね。きっとこの過剰戦力パーティーだと、街道沿いに出てくる魔獣くらいじゃ怪我をしそうにないわ……。


 そして、街道が森の中を突き抜ける場所を通り掛かった時、カサカサと葉っぱが擦れる音がした。

 現れたのはたくさんの大きな蜘蛛たち。全体が紫色で、胴体だけでも私の体と同じくらいある。そんな蜘蛛たちに周りを囲まれていた。


「レティア、こんな魔物今まで街道沿いにいたか?」

 マルクが困惑したように尋ねる。

「いや、初めて見るな……何か、警戒して出てくる理由でもあるんだろうか」

 レティアも、首を横に振った。


【ジャイアントスパイダー】

 分類:魔獣

 品質:普通

 レア:C

 詳細:体内に持つ粘液で細い糸を吐き出し獲物を捕える。その粘液を紡いだ糸は良質の布になる。

 気持ち:……絡め取って捕まえる……。人間、敵……。


「これ、内臓の粘液袋が、良い布素材になるみたい!」

 私が叫ぶと、疑問は置いといて、俄然やる気を出すメンバーたち。


氷の嵐アイスストーム!」

 私が、足止めを狙って魔法を唱えると、蜘蛛も糸を吐き出してきて、その糸が凍ってパラパラ散って、足止めはできなかった。

 マルクが『氷地獄の槍斧』を振るって蜘蛛の頭蓋を狙うと、付加効果で吐き出す糸は凍り、そのまま刃は蜘蛛の頭蓋に命中した。

「やっ!」

 ティリオンが木々の間を縫って飛び、不意打ちにアリエルが光の矢を放つ。それは蜘蛛の糸を避けて飛び、蜘蛛の腹を深々と突き刺す。

「はっ!」

 レティアは剣で蜘蛛を一刺しするが、吐き出された糸が剣に付着してしまい、邪魔そうに舌打ちをする。

 そこに、アリエルが火魔法をかける。

火よ燃えよファイアーバーン

 剣を魔法の火が覆い、付着した粘性の糸を焼き切る。

「助かった」

 レティアは嬉しそうに笑う。

「私は、どこまで潰していいか分からないから、やめとくよ」

 リィンとレオンはそう言って休憩中。お目当ての内臓を潰したら意味ないしね。

 ……私はもう一度!

氷の楔アイスエッジ

 蜘蛛は、一直線に粘液を放ってくるから、楔に回転をかけて、軌道に曲線を描かせる。そして、蜘蛛の頭を串刺しにした。


 やがて、残りの蜘蛛も全て倒しきり、レティアがマジックバッグへ死骸を放り込んでいく。

「これをフレイムウルフの体毛を混ぜながら糸つむぎしてもらうと、良い布になりそうな気がするのよね!」

 再び馬達を進ませながら話す。

「そういえば、糸つむぎと機織りに長けた子が職人街に居たなあ」

 リィンが良い知り合いがいるという。

 うーん、糸つむぎと機織りの上手な職人さんかあ。どんな人なんだろう!

 また新しい出会いがありそうでワクワクしちゃう!


 そうしてようやく休火山の裾野の荒地にやってきた。黒っぽい石がゴロゴロ転がっている。このうちの一部が、『火の耐性』を持つ『黒溶鉱』なのだそうだ。

 それを探す前に……。


 魔獣の群れがやってきた。

 さあ、お掃除しましょう!

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