第126話 黒溶鉱採取②

 行く手を阻むのは、黒狼ブラックウルフ。通常の狼の二倍ほどの体躯を誇る魔獣だ。それが群れで六匹いる。既に警戒態勢で唸り声を上げて牙を剥いている。

「ここいら一帯、掃除だ。安全に採取できるまで。いいな!」

「「「「OK!」」」」

氷の嵐アイスストーム

 私が足止めに、群れの足元に魔法をかける。

 すると、久々に群れの全てを足止めすることが出来た!


「よし!デイジー、腕あがったな!」

 マルクが褒めてくれて嬉しさにちょっぴり頬が赤くなる。

 ……じゃあ、続けて頑張るわよ!

 ふふん、とやる気になって改めて気を引きしめる。


 私が氷の楔アイスエッジを二本生み出し、相手の眉間を貫く。

 アリエルがティリオンを操り、上空から、光の矢を放つ。

 足止めされている黒狼達は、眉間を貫かれ、泡を吹いて倒れていく。

 マルクが斧頭側を凶器にして、ぶんっと大きく振り回す。

 黒狼はクビをへし折られ、その傷跡を氷結させられながら、どうっと倒れていく。

 レティアが駆け、一匹、二匹と的確に黒狼の頸動脈を細身の剣で裂く。


 ……よし、黒狼は居なくなった……と思ったら、一際大きな黒狼(?)が現れた。

 体躯は今までのもの達のふた周りは大きく、目は赤くて血のよう。

 その狼が口を開くと、ごうっと火を吐いて、一人離れて待機していたリィンの体を襲う。

「ちぃっ!」

 思わぬ伏兵に、舌打ちをしながら跳んで後ずさるも、膝から下に重度の火傷を負ってしまうリィン。


「アゾットロッド・ハイポーション!」

 私が水魔法でロッドの中から必要量のハイポーションを取り出して、球体にしたものを、足を抑えて蹲っているリィンの火傷に向かって撃つ。

「バシャッ」

 と、その水球は火傷を負った足に命中し、爛れた足は、瞬時に、健康な外側の皮膚から伸びるように新しいものが覆い、リィンの足が健康を取り戻す。

「デイジー、サンキュ!」

 リィンがこっちを向いて、巨大なハンマーを振り回して感謝する。

「……にしても、ここは火属性の敵はいないはずだったんだが」

 マルクが悔しそうに舌打ちする。この場所の下調べをしたのは彼だ。その事前調査を誤り、仲間に怪我を負わせたのが悔しいのだろう。

「亜種が生まれることはままある。お前のせいじゃない」

 そんな彼を慰めるのはレティア。タンカーらしく、『仲間を守ること』に関してはかなり真面目に考えるマルクの性格をよく知るゆえだろう。


「ねえマルク。あなただけは、氷の継続ダメージ付きの武器があるわ。それで、口元か首を狙えないかしら。そうすれば、吐こうとする火と、追加で生まれる氷で相殺できそうな気がするの」

 私がそう提案すると、マルクが気を取り直して大きく頷く。

「突っ込んでくっから、フォローよろしく!」

 そう言って、ハルバードを構えて駆け出していく。

『相棒のために、俺もひとつ漢を見せてやるか!』

 漢気を見せるマルクの様子に、相棒として『氷地獄の槍斧』もヤル気満々だ。


 亜種の黒狼が炎を吐く度、私は氷の障壁をマルクの前に展開してダメージを和らげる。

 アリエルは光の矢を物質化して放ち、黒狼の脚四本を地につなぎとめる。

 私が生む氷壁と黒狼の生む炎との連撃戦に私が負け、のがした炎が、マルクの顔を含めた露出した肌を焼く。甲冑部分で覆われた部分も、きっと熱いだろう。それでもお構い無しに、マルクは黒狼に向かって駆ける。

 そして、マルクは黒狼の前までたどり着いた。


「おりゃああああああ!」

 ぶんっと大きく振るう斧頭で、黒狼の上顎と下顎の間に刃を叩きつけ、喉奥の炎を生む器官にまで刃をめり込ませる。すると、付加効果で生まれた氷が、通常より低温で『焼いて』行く。

『よくも俺の相棒の顔を焼いてくれたなあ。俺の冷気を浴び続けやがれ!この犬っころォ!』

 本来なら、継続ダメージは通常攻撃の半分程度の性能のはずだった。だけど、『魔剣』であり、『意思』を持つ『氷地獄の槍斧』には、相棒を傷つけられた『怒り』による効果増幅があるのだろうか?

 本来の性能以上の氷で黒狼の顎を責め続け、『炎を生む器官』を『冷気で焼き』潰していく。


「……お前、最っ高だわ!」

『おうよ!』

 マルクが満面の笑顔でハルバードを黒狼の首に向かって振り下ろす。

 ミシリ、ミシリと音がして首周辺を凍らせながら首の骨をへし折っていく。そして、バキン!と音がして、黒狼の首が胴体にぶらりとぶら下がり、そして、倒れた。


「アゾットロッド・ハイポーション、ミスト!」

 ハイポーションを霧状にしてマルクの周りを覆い、露出面上の火傷を癒すと共に、鎧の隙間からハイポーションの粒子が中に入り込み、マルクの鎧から伝わった熱でできた火傷も治す。


「これで、終了かな」

 みんなで辺りを見回すと、ひとまず近場に魔獣らしき気配はないようだ。


 鑑定の目で黒い石を見て回る(一見同じに見えてそうじゃない)。これが、私がわざわざ自分で採取に来る理由だ。

 ……お転婆したいだけじゃないよ!

「うーん。火山でできた石だからかな、純粋なものは無いのね。品質に響くかしら?」

 困ったなあ、と思って、リィンに意見を求める。

「じゃあ、うちの妖精さんにお願いして、成分抽出してもらって採取しようか」

「それは嬉しいわ!」

 私が喜んで答えると、リィンも笑って頷いた。


「さ、みんな。出番だよ!綺麗な『黒溶鉱』を抽出しておくれ!」

 地面からタケノコのように黄色い土の妖精さんがニョキニョキと生えてくる(ほんとに生えたんだって!)。

「鉱石抽出!」

 リィンが指示すると、わー、わーと言いながら小人姿の妖精さんが転がる岩石達に力を注ぐ。

 やがて、たくさんの小さな純粋な『黒溶鉱』が宙に浮き、リィンの手のひらの上に、沢山の拳大の塊が落ちていく。その量は多く、手に乗り切らずにゴロゴロと地面にまでこぼれ落ちた。

「アタシのハンマーにだいぶ量が必要だろうからね。これくらい持って帰ろうか」

 そう言って、私がポシェットの口を開くと、その純粋な鉱石を入れてくれた。

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