第110話 永久凍土の石

 前にみんなで採取してきて、預かりっぱなしのものが幾つかあるのよねえ。

 そう思って、少し素材用の保管庫を漁ってみることにした。


『精霊王の守護石』(残り二個)これは、失敗すると思って余分にくださったのかしら?今はまだ使う予定は無いわね。

『神与の宝石(氷結)』、これは他の属性も揃えた方がいいってことで、まだお預けね。

『癒しの石』は、インゴットを早めに作ってリィンに渡さないといけないわね。

 そして、『永久凍土の石』はっと……、使い方は秘密としか見えなかったのよね。ん〜、ダメもとで見てみようかしら?


【永久凍土の石】

 分類:鉱物・材料

 品質:高級品

 レア:S

 詳細:『永遠なる氷結』属性を持つ。武器にした場合、氷結属性の継続ダメージを与える。

 気持ち:俺はアダマンタイトしか認めない。俺は最強の武器になる以外認めない!そして屈強な漢の腕でその真価を発揮してやるんだ!


 ……あれ?見えた。私のステータスになにか変化があったのかしら?


【デイジー・フォン・プレスラリア】

 子爵家次女

 体力:250/250

 魔力:4550/4550

 職業:錬金術師

 スキル:(鑑定(6/10)、緑魔法(MAX))錬金術(7/10)、水魔法(7/10)、風魔法(6/10)、土魔法(5/10)(隠蔽)

 賞罰:なし

 ギフト:(緑の精霊王の愛し子)なし

 称号:(聖獣の主)王室御用達錬金術師、女性のお肌の救世主、おてんば錬金術師


 あれ?鑑定が上がったんじゃなくて、錬金術のレベルが上がっている。あとはよく使う水魔法かな。あと、称号の『おてんば』は余計なお世話よ!

 それで見えるようになったってことは、……前は技師として力量不足だから見せなかったってことかしら?意外と錬金術のスキルと鑑定のスキルは複雑に関係しあっているみたい。

 でも、そうだとすると、調合する訳でもない『あべこべの種』の効果が見えないのは相変わらずなのかもしれないわね。


 それにしても、『永久凍土の石』の効果はすごいけど、注文も凄いわ。調合相手は最強硬度を誇るアダマンタイト限定、そして使用者は『屈強な漢』……、『男』じゃなくて『漢』。何かこだわりがありそうだわ。うちだとマルクだけってことかしら?

 でも、アダマンタイトは最強硬度を誇る分、きっと私やリィンにとっても加工が難しくなるんだろうなあ。ちょっと相談をしてみましょうか。


 みんなの都合のつく日を見計らって、私のアトリエの二階に集まってもらった。

 メンバーは、いつもの私、リィン、アリエル、マルク、レティアだ。


「……というわけで、以前採取した『永久凍土の石』なんだけど、氷属性の追加ダメージに加えて、継続ダメージも与える凄いものだったのよ」

 私の説明に、集まったみなが目を見開いて驚く。

「氷に弱いドレイクは言うまでもないけれど、氷属性に耐性がなければ、普通の魔獣だって継続ダメージがつくんだろ?そりゃあ凄い」

 マルクが唸っている。

 うん、その貴方をご指名なのよね。

「でね、ちょっと変なこと言うかもしれないけれど、調合相手はアダマンタイト限定、装備者は屈強な男性限定みたいなの」

『屈強な男性』という言葉で、みなの視線がマルクに集まる。重戦士をしているくらいだから、彼の肉体はすごく立派だ。

 何となく、反応あるかなと思って『永久凍土の石』をマルクに寄せてみた。


『おっ!いい漢じゃないか!顔良し、身体良し!俺はこいつのパートナーになりたいねえ!』

 あら。気に入られたみたい。なんだか、石自身もほのかにキラキラと光っている。


「やっぱりマルクと相性がいいみたいね。多分我儘な素材さんだから、言うこと聞いてあげないと、効果が出ないと思うの。マルクのハルバードにするってことでいいかしら?」

「おお!それは嬉しいな!ハルバードってちょっとマニアックな武器だから、魔剣みたいな付加効果の付いたものってなかなかなくて、憧れだったんだ!」

 マルクが嬉しそうに石を撫で、「よろしくな!」と言っている。

 そして、聞こえないだろうが、石も『おう!末長くよろしくな!』と意気投合している。


 他のみなも、「使用者限定じゃあな」と言って、別に反論も上がらない。そういう訳で、『永久凍土の石』は、ハルバードになることになった。

 横で、リィンがマルクに対して、どんな形状にしたいかを聞き取りしていた。ハルバードは、頭斧を持ち、先端に細い突起を持ち、横に刃系かさらに突起をつけるなど、戦い方によって様々な形を持つ。鍛治師としては、最高の素材ならば、最高の形状に鍛え上げたいのだろう。


 さて、みんなが解散したあと、まずは私の調合だ。

 購入してあったアダマンタイトのインゴットと、『永久凍土の石』を錬金釜に入れる。

 ……いくよ、『永久凍土の石』さん!

『おうよ!よろしくな、嬢ちゃん!』


 攪拌棒を持って、魔力を込めて金属を溶かしていく。アダマンタイトは硬く、安定性があるだけあって、溶ける温度は高かった。魔力がごそっと持っていかれる。


【パーマフロスティン?】

 分類:合金・材料

 品質:中級品

 レア:S

 詳細:『永遠なる氷結』属性を持つ。武器にした場合、氷結属性の継続ダメージを与える。だが与えるダメージは弱い。

 気持ち:まだまだだね。俺の力はこんなもんじゃないぜ。


 うん、知ってるわ!まだまだ行くわよ!

 素材は貪欲に私の魔力を奪っていこうとする、その我儘な素材に魔力を惜しみなく注いでいく。

 ……私の魔力量を舐めないでちょうだい!

『お、嬢ちゃんなかなかやるねえ!』

 そう作りかけの合金が私に語りかけると、また魔力を欲しがってきた。

 ……あげるわよ!欲しいだけ持っていきなさい!


 すると、錬金釜の中が激しく光って、中に美しい光沢を持った液体状の金属が出来上がっていた。


【パーマフロスティン】

 分類:合金・材料

 品質:高級品

 レア:S

 詳細:『永遠なる氷結』属性を持つ。武器にした場合、氷属性のダメージ追加0.3倍、一定間隔で最初に与えた基本ダメージの三分の一のダメージを継続して与え続ける。

 気持ち:さあ、次はいい漢に似合う形にしてくれよ!


「うわぁ、凄いわこれ。これがハルバードになったら、私の初めて作った魔剣になるのね!」


 インゴットが冷えた頃合で、急いでリィンの工房へ持っていき、制作を依頼する。……と。

『おっ!そこのドワーフの爺さん、いい漢っぷりじゃねえか!俺はあいつに鍛えられたいな!いい仕事しそうな筋肉持ってやがるぜ!』

 ドラグさんに惚れてしまったようだ。

 ……もう!なんてわがままな子なの!

 そして、その話をすると、ドラグさんが面白そうにカッカと笑う。

「まあ、魔剣になるような代物は、大概どこか癖があるもんだ。どれ、儂が鍛えてやるかね!」

 魔剣を作るぞと意気込んでいたリィンはすっかり肩透かしだ。ちょっと肩を落としながらも、ドラグさんにマルクの希望を伝えていた。


 出来上がったハルバードは、またみんなが集まってのお披露目となった。形状は、慣れたものの方が使い勝手がいいということで、以前使っていたものと変わらない。それを、早速マルクが手にして、その持ち味や重さのバランスを測るために回したりしている。


【氷地獄の槍斧】

 分類:武器

 品質:高級品(+2)

 レア:S+

 詳細:『永遠なる氷結』属性を持つ。基本攻撃のダメージに加えて、氷属性のダメージ追加0.5倍。また、一定間隔で最初に与えた氷属性のダメージを継続して与え続ける。

 気持ち:大満足の出来だね!惚れた相棒と一緒に殺ってやるぜ!爺さんの技も凄かったから、品質も上がったぜ!


 ドラグさんが作ったおかげで、品質も追加ダメージもアップしてるわ!我儘な子は、色んなところで相性を発揮するのね。


「凄いぞこれ!重さも手の馴染みも、長年の相棒みたいだ!」

 マルクは、普段の調整役のような大人ぶりからは想像できないくらい、はしゃいで大興奮している。


 ……だって、武器さんの方があなたに惚れ込んでいるからね!

 あれ?そういえば、あの武器って口調が男性ぽかったわね。マルクは男性よね。ん?まあ、男同士の友情ってことでいいのよね?ね?で、とりあえず黙っとけばいいよね!


 ちなみにちゃんとマルクからは必要経費+制作料(私とドラグさん)を貰ったわよ!

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