第109話 人を育てること②

 マーカスと二人、次に買ってきた石とインゴットを使って、マーカスの練習からやってみることになった。

 溶けた金属がはねたりしたら危ないから、厚手のエプロンと軍手をつけてもらう。

『良縁の石』と銀のインゴットを錬金釜の中に入れる。


「……私の初めての金属調合ですね……!」

 マーカスは、唇をきゅっと引きしめて、緊張しているようだ。

 そして、錬金釜の横に置いてある攪拌棒を手に持って、両手でぎゅっと握りしめる。


「攪拌棒を介して、自分の魔力を通して、錬金釜の中にある金属を溶かすのよ。さあ、イメージしてやってみて!」


【縁結びのインゴット?】

 分類:合金・材料

 品質:普通

 詳細:良縁を呼び込む石。想い人がいる場合には、良い未来へと導く。だがまだ力は弱い。

 気持ち:ん〜まだ混ざってるだけって感じかなぁ。


「今の状態ではまだ足らないのはわかるかしら?」

「……そうですね。まだ、マーブル模様のようになっていますし、そもそもなにか新しいものに『変わった』という感じがしません」

 マーカスは、やはり【鑑定】の気持ちがなくても、錬金術師としての『勘』というものを身につけていたらしい。

「……どうか、よく結合して、母さんの幸せのために力を貸してくれ……!」

 マーカスがさらに魔力と祈りを込めて溶けた金属を撹拌する。すると、その祈りに答えるかのように、錬金釜の中の金属がキラキラと光を発した。

「……できた!錬金釜の中から新しい力を感じます!」

 マーカスが、瞳に強い確信を持って声を上げる。


【縁結びのインゴット】

 分類:合金・材料

 品質:高級品

 詳細:良縁を呼び込む石。想い人がいる場合には、良い未来へと導く。

 気持ち:幸せな縁を結ぶお手伝いをするよ!


「凄いわマーカス!あなたはこんなにも『錬金術師』としてのセンスを高めていたなんて!」

 マーカスは、嬉し恥ずかしといった表情だ。そんな彼に、インゴット型を渡して、底の栓を抜いてまだ溶けている金属を流し込むように促した。マーカスは頷いて、その作業を行う。


 そして、お母さんの分が終わったら、次に弟妹の分だ。

 銀のインゴットと『才能の石』を錬金釜に入れる。

 そして、攪拌棒を通して魔力を注ぐ。金属と石が溶けて、釜の中の溶けた金属はぐるりとマーブル模様を描く。


【才能開花のインゴット?】

 分類:合金・材料

 品質:普通

 詳細:子供の伸ばそうとしている才能が伸びやすくなる。

 気持ち:もっと応援したいな!


「……うん、ここからだね。弟と妹が立派な大人になれますように……力をください!」

 ぎゅっとマーカスが目を瞑ってさらに魔力を込める。

 すると、また錬金釜の中がキラキラと光る。

「うん!金属の力が増した感じがします!」

 マーカスが確信を持った力強い笑みを浮かべる。


【才能開花のインゴット】

 分類:合金・材料

 品質:高級品

 詳細:子供の伸ばそうとしている才能が伸びやすくなる。

 気持ち:立派な大人になれるよう応援するよ!


 ……本当にできてる!凄いわ。あっという間にマスターしちゃった!


「……家族への思いが後押ししてくれたんですかね?上手くいったみたいで嬉しいです!」

 そう言いながら、弟妹用の金属もインゴット型の中に流し込んだ。


 そっか。やっぱり『イメージが大切』な錬金術だから、『贈る人への想い』も大きく影響するのね、きっと。そう考えると、『錬金術』って、なんて優しい技術なのかしら!

 それとあらためて気がついたの。人に教えるということは、私の勉強にもなるって事。こういう時間も大事なのね!


 ……じゃあ、次は私ね!


 エプロンと軍手をマーカスから受けとって身につける。

「私も勉強のために見させてくださいね」

 と、マーカスに言われてしまった。いいんだけれど、ちょっと恥ずかしいわ。


 ミスリルと『体力自慢の石』を錬金釜に入れて、攪拌棒を通して魔力を流し、金属と石を溶かしていく。


【マッチョニウム?】

 分類:合金・材料

 品質:中級品

 詳細:装備品にすれば、装備者の体力を500上げる。

 気持ち:まだあんまり力は湧かないな。


 マーブル模様のそれは、まだまだ、と私に訴えかけてくる。

 ……でも、マッチョニウムって名前がちょっと引っかかるんだけど。ねえ?マッチョになるのはなしよね?


「……みんなが安心できる体力をちょうだい!みんなが安全に冒険できますように……!」

 すると、錬金釜の中身はまたもや強く光って、完成したことを告げてくる。


【マッチョニウム】

 分類:合金・材料

 品質:高級品

 詳細:装備品にすれば、装備者の体力を750上げる。

 気持ち:ミスリルさんのおかげで効果が上がったよ!見た目に変化はないから安心してね!


 ……ありがとう!効果が増えたのもすごい!けど、女の子としては、見た目に変化がないってことがとっても嬉しいわ!


 インゴット型に、出来たての合金を流し込む。


 合計三つできたインゴットは、マーカスのお母さんと、そのお相手の男性用の指輪に、そして、弟妹用のものは、子供サイズのペンダントにすることになった。

 これは、「私からの家族へのプレゼントだから」とマーカスが譲らず、リィンへの代金の支払いは自分ですると聞かなかった。

 私のマッチョニウムは、結局パーティー全員分を指輪で作ってもらうことにした。これは一度私が制作費を支払っておいて、後日それぞれから製品代をもらおうかなぁと思っている。


 数日してリィンの元からアクセサリーたちが戻ってきた。


【縁結びの指輪】

 分類:装備品

 品質:高級品

 詳細:良縁を呼び込む指輪。想い人がいる場合には、良い未来へと導く。

 気持ち:ゴールインしても幸せであるように応援するよ!


【才能開花のペンダント】

 分類:装備品

 品質:高級品

 詳細:子供の伸ばそうとしている才能が伸びやすくなる。

 気持ち:立派な大人になれるように、一緒に頑張ろうね!


 その出来に、マーカスは大感激している。リィンもそれを見て満更でもないらしく、嬉しそうだ。

 早速次の休みの日に実家に渡しに行くと意気込んでいる。

 そして、私の分。


【マッチョリング】

 分類:装備品

 品質:高級品

 詳細:装備者の体力を750上げる。マッチョにはならない。

 気持ち:守ってあげるよ!冒険は気をつけて行こうね!


 マッチョにならないのに、マッチョという名は捨てたくないらしい。

 ……どうしてかしら?

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