第69話 女たちの仁義なき戦い
精霊王様たちへの贈り物を作るために掘り出し物の石を探していた時、実は、『幸運の石』の他にもうひとつ気になった石を発見していた。そのため、今度はリーフと一緒に一人でもう一度先日訪れた店に足を運んだ。
……そうそう、この石。見た目は灰色の普通の石のようだけれど……。
【夫婦石(夫)】
分類:宝石・材料
品質:低品質~高品質(『妻』との相性次第)
詳細:夫婦間の愛情を深め、子を授かりやすくなる不思議な石。石そのままでもいいが『夫婦石(妻)』と一緒に合金にした方が効果は高い。夫婦の片割れだけだと効果はない。
気持ち:可愛いお嫁さんと一緒になりたいな。
『夫』って書いてあるから、奥さんが必要なのよね……?
そういえば、国王陛下ご夫妻は、第二子以降お子が生まれておらず、それがこの間の毒殺未遂騒動にも繋がっていたはずだ。
……だったら、お子さまが生まれやすくなるこの石の片割れが欲しいわ!
『でも、赤ちゃんってコウノトリが運んでくるか、キャベツ畑からやってくるのよね?『夫婦石』を持っているとコウノトリたちの目印になるのかしら?』
トンチンカンな結論を出しながら掘り出し物の箱の中を探したが、その片割れと思われる石は見つからなかった。
「お嬢さん、なにかお困りかい?」
店主さんが気さくに声をかけてくれた。
「これ、『夫婦石』の旦那さんの方らしいんだけれど、片割れの奥さんの石が見つからなくって」
そう言って、手のひらに乗せた『夫婦石(夫)』を店主に見せた。
「おや、これを見つけたのかい!お嬢さんはほんとに目利きだね。その石はね、片割れの奥さんの方は宝石のように綺麗な石だから見つけやすいんだけれど、夫側はそんな灰色の見た目普通の石だろう?見つけにくいんだよ!……ちょっと待ってな、店の奥に奥さん側の石がいくつかあったはずだよ」
そう言って、店主は店の奥に入っていった。
……いくつか?一人でいいよ?……。まさか、この夫くんを奪い合いになったりは……。
凄く嫌な予感がした。そしてその予感はすぐに現実のものとなって私の前にやってきた。
『夫側の石が見つかったんですって!?』
『こんな機会、なかなかないわ!彼は私のものよ!』
『何言っているの!美しい私こそが結ばれるにふさわしいわ!』
『あんたみたいな主張の強いブス、独り身がお似合いよ!』
店主がガラスケースの上に並べてくれた、色とりどりの華やかな妻側の石達の、【鑑定】の『気持ち』が暴走していて、彼女達の声が頭に直接響いてやかましい。もう、やかましいを通り越しているわ!
……うわぁ。
私も引いたが、ふと手に握っている夫くんを見ると……。
『僕……気の強い人はちょっと……助けて……』
既に逃げ腰だ。
……うん、気持ちはわかるよ。
そんな騒がしい中、ふと見ると大人しく声を出さずにいる、淡いピンク色の石があるのに気がついた。
『……私はお姉様たちより色も目立たないし、大人しくしているべきよね』
そんな小さな声が聞こえた。
なんか、そんな健気な彼女は、夫くんに似合いそうで気になって、夫くんの石を彼女に近づけてみる。
『……優しそうで素敵な人♡』
『……なんて儚げで愛らしい子なんだ♡』
やっぱり!
『『『ちょっと、なんであんな目立たない子がっ!』』』
背後の意地悪姉たち(?)がうるさいけれど、そこはもう無視だ。
私は、このペア石も買い求めることにした。
「金属は……」
金のインゴットに近づけると、柔らかな光が石たちを包んで優しい雰囲気がした。
『金のお姉さんがアナタ達の仲人をしてあげる♡』
『『ありがとう、お姉さん!』』
これで決まりね!
◆
さて、私は実験室に戻って錬金釜の前に立つ。
合金づくりのための、エプロンも手袋もバッチリ装備済み!
さあ、国王陛下ご夫妻に喜んでいただくために、頑張りましょう!
攪拌棒をぎゅっと握りしめて、気合を入れる。
……さあ、夫婦一緒になって、王妃殿下に赤ちゃんを授けてあげて……!
魔力を込めて、うんとうんと熱く……!
そう念じながら暫く攪拌棒を握っていると、素材を入れた釜の中が熱くなって金が溶け始めたので、錬金壺の中でぐるぐると攪拌棒をかき混ぜ始めた。
「さあ、一緒になって……!」
【子宝鉱】
分類:合金・材料
品質:低品質
詳細:夫婦の情愛を深め子を授ける力を秘めた合金。その力は分量によっての変化はない。だが結合度が低く、力を発揮しきれないだろう。
気持ち:まだ夫婦になりきれていない気がする……。
……うん、まだ溶けて混ぜただけだもんね。もっと一緒にしてあげるわよ!
魔力と、王妃殿下への思いを込めて、ぐるぐると撹拌棒を回していく。
【子宝鉱】
分類:合金・材料
品質:高品質
詳細:夫婦の情愛を深め、子を授ける力を秘めた合金。その力は分量によっての変化はない。
気持ち:コウノトリがきっとやってくるよ!
……やった!コウノトリさん、来てくれるって!王妃殿下もきっとお喜びね!
錬金釜の栓を抜いてまだ熱い液体状の合金をインゴット型に注いで、静かに数日待った。そして、冷めたインゴットを元に、国王陛下と王妃殿下分のアクセサリー制作をリィンに依頼したのだった。
【子授けの指輪】
分類:装飾品
品質:高級品
詳細:夫婦仲の良い夫婦の情愛をより深め、子を授ける力を秘めた指輪。
気持ち:きっとコウノトリはくる!
これをお贈りすれば、きっと赤ちゃんがやってくるはず……!
大人の事情に疎いデイジーのために、【鑑定】も、「コウノトリ」という言葉を選んでいる。さて、デイジーが真実を知るのはいつの日か……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。