第68話 精霊王様へのプレゼント②
さーて!まずは私の番よ!
私は自分のアトリエの実験室に入って、気合を入れる。
合金づくりのための、エプロンも手袋もバッチリ装備済み!
錬金釜にミスリルと『幸運の石』を入れて、攪拌棒をぎゅっと握りしめる。
『みんなを幸せで素敵な笑顔にできる金属になってね……!』
瞼を閉じて、しばらく祈りを込める。
そして、ぱちん、と目を開いた!
「さあ!始めるわよ!」
魔力を込めて、うんとうんと熱く……!
そう念じながら暫く攪拌棒を握っていると、釜の中が熱くなって銀よりも時間がかかったが、ようやくミスリルが溶け始め、錬金壺の中でぐるぐるとかき混ぜ始めた。
「さあ、一緒になって……!」
【フォーチュニウム】
分類:合金・材料
品質:低品質
詳細:幸運を呼び込む力を秘めた合金。その力は分量によっての変化はない。だが結合度が低く、幸運の力を発揮しきれないだろう。
気持ち:ちょっと混ざり合いが少ないかな……もっとそばにいたい。
……うん、まだ溶けて混ぜただけだもんね。もっと一緒にしてあげるわよ!
【フォーチュニウム】
分類:合金・材料
品質:中級品
詳細:幸運を呼び込む力を秘めた合金。その力は分量によっての変化はない。幸運の力を充分発揮できるが、もう一段階上を目指せるはず!
気持ち:ミスリルさんと一緒に大人の階段を上りたい!
……うん、あともう一歩!秘めてる可能性を私にみせて……!
そうしてぐるっと攪拌棒をもうひと回し。
【フォーチュニウム】
分類:合金・材料
品質:高級品
詳細:幸運を呼び込み、不幸を退ける力を秘めた合金。その力は分量によっての変化はない。持ち主に災いが振りかかろうとすると、自然と持ち主を回避行動へと誘導する不思議な合金。
気持ち:僕達といれば悪いものなんて寄せつけないよ!
「やったあ!完成したわ!素材の可能性までちゃんと引き出せたし、バッチリね!」
私は達成感に両腕を腰に当てて仁王立ちする。興奮で少し鼻息が荒く、頬も紅潮している。
錬金釜の栓を抜いてまだ熱い液体状の合金をインゴット型に注いで、静かに数日待った。
◆
インゴットをリィンに渡して二週間。出来上がった品を持ってリィンが私のアトリエを訪ねてきてくれた。
「やあ、デイジー!仕上がったから届けに来たよ!」
そう言って、ドアベルを鳴らしながらアトリエの中に入ってくる。
「じゃあ、二階で見ようか!飲み物持ってくるから、先行って座ってて!」
今日はスモモの果実水。キーンと冷えたそれをグラスにふたつトレーに乗せて二階へ向かった。
二階のダイニングに着くと、グラスをテーブルに乗せて、向かい合って腰を下ろす。
お互い、一口グラスに口をつけて喉を潤す。キーンとした冷たさとスモモの甘酸っぱい感じが口内をスッキリさせてくれる。
「ふう。っとそれでね、こんな感じにしてみたよ」
指輪が石違いでふたつ。私たちのよりも多めに金属を使って、太めのデザインになっている。
「男性向けだからね、揃いだけど少し太めにしたよ」
私は、緑の石の着いた方の指輪を手に取ってみる。違う素材でできているけれど、金属の色合いはほとんど同じだし、掘られたツタのデザインも一緒。私の中指の指輪と並べると、『お揃い』って感じで大満足な仕上がりだった。
【幸運の指輪】
分類:装飾品
品質:高級品
詳細:幸運を呼び込み、不幸を退ける力を秘めた指輪。持ち主に災いが振りかかろうとすると、自然と持ち主を回避行動へと誘導する不思議な指輪。
気持ち:幸せにしてあげる!
「呼ぶ?」
「そうしよっか!せーの!」
「「精霊王様~!」」
声を揃えて呼ぶと、部屋が緑と黄金の光に包まれた。
「デイジー!」
「リィン!」
そして、精霊王様達がお姿を現した。なんだかお二人共、手が中途半端に上がっていて私たちの体の幅ぐらい空いていて、そこでぷるぷる震えている。
……えっと、抱きしめたいけど躊躇い中、かな?
私は、手に持っていたお揃いの指輪を手のひらに乗せて、精霊王様にお見せする。
「私が精霊王様へプレゼントしたいと思って作った指輪です。受け取っていただけますか?」
そう言って、指輪から緑の精霊王様に視線を向ける。精霊王様はそれはそれは幸せそうな笑顔で私を見下ろしていた。
「勿論受け取らせていただくよ、デイジー。与える側の立場の私達が、愛し子から贈り物を貰えるなんて、私はなんて幸せものなんだろう。その指輪は、デイジーがはめてくれるかい?」
こくんと頷いて、精霊王様の差し出された左手を手に取る。
「お揃いなら、同じ中指で揃いがいいですよね」
そう言って、するりと、精霊王様のなめらかな中指に指輪を通して収めた。
「ありがとう、デイジー」
そっと精霊王様の唇がこめかみに触れ、髪の毛を通して伝わるぬくもりに、精霊王様の温かさを感じた。
親愛のキスが済むと、お互いの左手を並べて、お揃いであることを確認する。
ふっと目線をあげると、リィンと土の精霊王様も手を並べあって同じことをしていたので、四人の目が合って、ちょっと気恥しげにみんなで笑った。
ほんのりと幸せな空気に包まれていた。
◆
その後、リィンに指輪とペンダントの制作料と、私が合金に使った材料費と工賃を精算してから、リィンはアトリエをあとにした。
後に残ったのはこの三つ。今日はちょうどカチュアが経理のチェックに来てくれていて、今は食事休憩中でパン工房のテラス席で食事中のはずだ。
【幸運のペンダント】
分類:装飾品
品質:高級品
詳細:幸運を呼び込み、不幸を退ける力を秘めたペンダント。持ち主に災いが振りかかろうとすると、自然と持ち主を回避行動へと誘導する不思議なペンダント。
気持ち:幸せにしてあげる!
こっちのペンダントは小指の第一関節くらいの小さなぷっくりと厚みのある楕円状のペンダントトップになっていて、そこに彫りで流れ星と三日月が描かれた可愛らしいデザインになっている。ペンダントトップの上の丸い金具は少し大きめで、今はチェーンが通っているが、取り外し可能でチョーカーにもブレスレットにもアレンジが可能なようにしてくれてある。
絵柄については、『幸運のペンダント』から、願いを叶える流れ星の絵が浮かんだからって理由らしい。
私たちの年頃の子がつけるなら、男女問わずとても似合いそうだわ!
「ミィナ!マーカス!カチュア!プレゼントを渡したいの!」
客が引いたパン工房に揃っていた三人に声をかけた。
ミィナとマーカスは、目をぱちくりしている。
「えっと、私たちは使用人ですから、そんなお気遣いをしていただく必要は……」
慌ててミィナは両手をぶんぶんしている。
「そうですよ、デイジー様。私たちは相応以上にお給金も頂いておりますし、そこまでしていただく立場ではありません」
マーカスも少し困ったような顔をする。
「あのね、これは災いを遠ざける幸運のペンダントなの。あなた達にお使いやお留守番をお願いした時に何かあったら私が困るの。だから、私のためにもちゃんと身につけておいて欲しいのよ」
「デイジーさまぁ~!ミィナは幸せ者ですぅ~!」
ミィナは感激したのか目がうるうる、鼻をグズグズ言わせながら、素直にペンダントを受け取って、首にかけてくれた。
「私も……よろしいので?」
「何言っているの、あなたも私の大切な仲間よ」
そう言ってマーカスの手に渡すと、マーカスも少し照れた様子でペンダントを身につける。耳元がほんのり赤くなっている。
「そして、カチュア。あなたのおかげでアトリエも始められたし、その後の経営もバッチリよ!幸運のペンダントは、幸運を呼び寄せる力があるから、貴女がやろうとしている事業にもきっと良い結果をもたらすはず!受け取ってちょうだい!」
そう言って、最後の一個になったペンダントをカチュアに差し出す。
「私は専任の従業員という訳でもないし……いただけないわ。ちゃんとこうしたものには代金をお支払いしないと……」
商人の娘らしい言葉を言いかけるカチュアの言葉を制して、私が宣言する。
「あなたは私のお友達で仲間よ!お友達にプレゼントすることの何が悪いの?」
そう言って、ペンダントをカチュアの胸に押し付けた。
「と、友達……。あっ、その、……ありがとうございます」
カチュアは真っ赤になって、それを見せないように顔を背けながら、ペンダントを身につけてくれた。
「友達……友達、そうよね、お友達なのよね。はじ、めて?」
カチュアは赤い顔を伏せたまま、ブツブツ言っている。
実はカチュアは今まで足が不自由だったこともあって家に閉じこもりがちだったため、同年代にあまり友達らしい友達はいない。だから、はっきりと私から友達宣言をされたことに気が大動転してしまっているのだが……。
これで、仲間も安心だわ!
私はそんなカチュアの気持ちも知らず、達成感に満足していた。
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