第67話 精霊王様へのプレゼント①

「そういう訳でね、精霊王様たちになにかお礼をしたいと思うのよね」

 私は今、ドラグさんとリィンの工房に出向いて、リィンと向かい合ってテーブル向かいに座っている。そして、今日もドラグさんは出かけているとの事で、遠慮なく精霊王様のことを話題にしているのだ。


「ん〜。精霊王様、ここから先はしばらく覗き禁止っ!」

 ブンブンと頭上をリィンが腕を振り回している。効果あるのかしら?

「ダメですよ~!サプライズなんですからねっ!」

 私も頭上に向かって叫んでみた。うん、聞いてくださってるといいな。


「さて、本題に入ろうか!」

 リィンが私の方に体を向けた。

「うん!」

 私は大きく頷いた。喜んでいただけるものを頑張って考えなくちゃ!


「まずは、デイジーとアタシの手が両方加わってるってことが大事だよな」

 うんうん、と私は同意する。

「そうねえ、私が作った合金で、リィンが細工して、協力したものがいいわね」

 すると、同じようにリィンがうんうん、と頷く。


 デザインはっと……。

「やっぱりお揃いが喜びそうな気がする……」

 私がぼそっと呟く。

「そうだよね。作る素材が違うんだったら、せめてデザインは同じにしたいね」

 うんうん、とリィンも同意して頷いてくれた。

「絶対喜ぶよー!照れそうだけどね」

 と言って、想像して二人で顔を近づけてクスクス笑う。


「採取に行くのはちょっと急だから、素材屋さんで物色したいんだけれど、付き合ってもらっていいかな?」

 私はリィンに頼んでみる。すると、オッケーっと気持ちよく返事をくれた。


 ◆


 素材屋さんが集まる通りにやってきた。

 街路樹が初夏の濃い色合いになり、私たちに降り注ぐ日差しは少し汗ばむ陽気だ。

 宝石や魔法石を取り扱う店のうち、一軒の店に目が止まって、そこで物色することにした。なんて言うか、ここにあるって気がしたのよね。

「「こんにちは」」

「いらっしゃい!お嬢さんたちは何をお探しかな?」

 子供相手と侮ることも無く、気さくに用件を尋ねてきてくれる。良かった!


「私、錬金術師で。守護効果のある合金を作りたくて、素材を探しに来たのよ」

 そう説明するも、初めての店で勝手がわからず、店内をキョロキョロ見回す私たち。

 ……沢山ありすぎて分からない!


「こっちのガラスケースの中に飾ってあるのは、宝石として価値が高いか、魔法石として特殊な効果があるものを置いてるよ!あっちの木箱に入れられているやつは、もし掘り出し物を見つけられたらラッキー!って感じかな?木箱のはどれも一個大銅貨五枚でいいよ」

 困っていると、店主は気さくに店内の商品の配置を教えてくれた。


 まず、ざっとガラスケースの中のものを鑑定で見て、ピンとくるものがないかを探す。


 ……なんかイマイチだなあ。ちょっとピンと来ない。


 ダメもとで、木箱に放り込まれている色々な石を順番に手に取って探してみた。

 ……これも違う。

 ……これは綺麗なだけ。

 ……あら?


【幸運の石】

 分類:宝石・材料

 品質:中級品~高級品

 詳細:幸運を呼び込み、災いを退ける不思議な石。そのままでもいいが合金にしても効果は損なわれない。ある金属と混ぜた場合、効力が倍増する。

 気持ち:僕といれば幸せになれるよ!


 ……『中級品~高級品』っていうのは初めてね。合金化の結果に違いが出るのかしら?実はすごいものだったりするかも?

 それは、手のひらに乗る河原の小石サイズで、柔らかな乳白色の白雲母のような光沢と模様を描く優しい色合いのつるりとした石だった。鑑定の結果もだけれど、なにか惹かれるものがあったのよね。


 私はその石を手に取って、鑑定した結果を説明すると、「お、それいいんじゃない?」と同意してくれた。そんなリィンに耳打ちで相談する。

「ねえリィン。精霊王様にはこれで私たちとお揃いの指輪を作るとして、余った合金でペンダント三個分にしてもらうのって可能かしら?」


「うん、前みたいなインゴットサイズでくれるなら充分だと思うよ」

 ……これなら、ミィナとマーカスにお留守番やお使いを任せても、事件に巻き込まれる可能性は減るわよね。それに、カチュアにも色々店の経営のこと見てもらってるからお礼したいし!


「店主さん、石はこれにするわ。ここのお店には純銀とかのインゴットは置いているかしら?」

 ガラスケース越しにたっている店主に、『幸運の石』を一個差し出して、店主に尋ねた。


「おや、お嬢さんは掘り出しものを見つけたのかな?金属はアクセサリー用ならいくつか揃えているけれど、出してみるかい?」

「お願いします!」

 良かった、あちこち回らずに済みそう!


「純銀だと……『まあ、いいかもね』か」

「金は……『僕とお似合いじゃないの見て分からない?』」

「ミスリルだと……『大人の階段を上がりたいな♡』?ミスリル側は……『一人前にしてあげる♡』」

 ハートがついてるってことは多分、とても相性がいいってことよね。お互い乗り気みたいだし。


「ミスリルが相性良さそうだから、ミスリルのインゴットを一個ちょうだい。あとは、私のこの指輪のような小ぶりの宝石は扱ってないかしら?」

「それだと、ウチより向かいの店の方が種類が多いから、色々選べると思うよ!」

 そう言って、店の窓から見える向かいの宝石店を指さして教えてくれた。


 私たちは、その店で、『幸運の石』とミスリルのインゴットの会計を済ませ、向かいの店へ移った。

 向かいの店主が言っていた通り、その店には、同じ緑にしても色んな色合いやサイズ、カットの石が取り揃えられていて、選ぶのに苦労はしたが、『揃い』と言えるような色合いとデザインの石を買い求めることが出来た。

 ……さあ、頑張って作らないと!

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