第28話 試飲してもらいましょう

 出来上がったワインは三種類。


【ワイン(メロロー)】

 分類:食材・食べ物

 品質:高級品

 詳細:ブラックカラントやプラムなどのよく熟した風味で、果実味豊かなワイン。万人受けし、飲みやすい。


【ワイン(ペノ・ロワール)】

 分類:食材・食べ物

 品質:最高級品

 詳細:熟成し飲み頃のワイン。スミレの花のような香りと、ラズベリーなどの果物の香りに加え、僅かになめした革のような複雑な香りを持つ。開栓は余裕を持って早めにすると良い。


【ワイン(ネッテオーロ)】

 分類:食材・食べ物

 品質:最高級品

 詳細:熟成し飲み頃のワイン。重厚で王者の風格を持った味わい。ベルベットのような滑らかさに力強さを秘めた、香り高く洗練された仕上がり。開栓は余裕を持って早めにすると良い。


 執事のセバスチャンに、ワインの特徴を書いた紙を見せながら、これを夕食の時にお父様とお母様に試飲がてら飲んで欲しいということを伝えた。


「ほう、お嬢様が自らお作りになったワインですか!」

 お父様とお母様が普段食事時に嗜まれるお酒と、それに合わせた食事のバランスを任されているのが彼である。


「国王陛下への献上品にする予定なのだけれど、その前にお父様とお母様に試飲していただく約束をしていて……でも、こういう飲み物って、食事との相性があるのでしょう?いつもそれをセバスが考えてくれているって聞いたことがあって、あなたに相談に来たの」


「なるほどなるほど……。それにしても面白いですな。メロローというのは果実味があって、普段から親しみがある味わいなのが想像できますが……残りのふたつはとても興味深い」

 セバスはあごひげを撫でながら思案をしている。


「……そうですね。お嬢様が書かれた味わいであるとすれば、メロローは豚や強めの味付けの鶏あたりでしょうか。そして、ペノ・ロワールはもっと淡白な……そうですね、鶏や鴨なんかが良さそうです。ネッテオーロは、かなりしっかりした味わいのようですから、うーん、雉や鹿なんかは負けず合いそうですな!」


 セバスは、マリアージュを想像して興奮したのか、かなり盛り上がってきている。


「仕入れは朝になりますから、今日のうちに料理長のボブに伝えます。そして、明日からの三日間のお夕食時に試飲していただきましょう」


 こうして、セバスが張り切って試飲を取りまとめることになった。


 ◆


 一日目


 メロローで作ったワインと、メインは豚肉の香草パン粉焼きだった。

 ワインを口にしたお父様とお母様にも、「美味しい!」と好評だった。

「うん、いつも飲むものも果実味があるけれど、これは安定していて深みもあって美味しい。熟したプラムのような味わいだ」

 お父様は満足気にうなずいている。

「私はこれは毎日でも飲みたいわ!フルーティーで厚みもあるのに飲んでいて飽きないもの!」

 お母様は毎日飲みたいとまで言っている(無理です!)


 ◆


 二日目


 ペノ・ロワールで作ったワインと、メインは鴨肉のコンフィだった。

 ……というか、【鑑定】の忠告通り早目に開栓してもらったのだが、その瞬間、ダイニングにかぐわしい花のような香りが充満して、騒ぎになった。


「なにか良い香りがするけど、これはなんだい?」

 お父様やお母様がやってくる。すると、セバスが両親に頭を下げ答えた。

「お嬢様のお作りになったワインを開栓したところ、香りが部屋に充満したようです」


 呼ばれてダイニングに来た私も、花の香りにびっくりする。

「こんなにかぐわしい香りが広がるワインがあるなんて……」

 お父様とお母様が驚いて顔を見合わせている。


 食事が始まり、両親が口にしてからも、そのワインは絶賛だった。

「すみれのような花の香りにラズベリーかしら、果実味もあるのね。それに何かわからないけれど最後に落ち着いた香りもするわ。本当にロマンティックなワインで私は大好きだわ!」

 お母様が大絶賛する。

「うん、私もおなじ感想だな。酸味もあるのに、それでいて落ち着いている。本当にかぐわしいワインだね」

 お父様にも好評だ。


 ◆


 三日目


 ネッテオーロで作ったワインと、雉のソテーだった。

「これは重厚なワインだ。バラ、タールの香りに加えて、ダークチェリーやハーブ……これは美味しい。私はこれが一番好きだな」

「私はこういった重めのワインは苦手だけれど……これだったら飲みやすいわ。私が一番好きなのは昨日のワインね!」


 ワインの味の分からない(というか飲めない)私は、お父様とお母様の三日間の反応を見て、おそらく大丈夫そう?と思いながらも、両親に尋ねてみる。

「それで、今回のワインは陛下への献上にふさわしいでしょうか?」

「「勿論!」」


 両親のお墨付きを貰って、ほっと胸を撫で下ろすのであった。


 そして、執事のセバスはと言うと、主人への提供前のチェックと称してしっかり味見をしていた。

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