第8話 ポーションを作ろう③

 今日は、出来上がった苦いポーションを持って、実験室を出ることにした。

 そして、居間に居そうなお母様の元へ行った。


「お母様」

 居間のテラス席に居たお母様の側へよって行き、「お母様とお父様に内緒のお話があるの」とお願いした。すると、その日の夕方、お父様がお仕事から帰ってきた時に時間を作ってくださることになった。


「それで、内緒のお話ってなんだい?」

 私はお父様とお母様と三人、お父様の執務室のソファに腰掛け話すことになった。


 私は手に握っていたガラス瓶を見せる。

「これは、私が作ったポーションです。品質は普通ですが、苦いものです」

 お父様とお母様が顔を見合わせる。


「自分で飲んで確かめたのかい?」

 お父様が私に問いかける。

 私はふるふると首を振って否定する。


「それじゃあ、どうしてそれが普通のポーションで苦いってわかるのかしら?」

 お母様から質問がやってくる。


「私、お花たちの相手を沢山していたら、【鑑定】っていうスキルが身についたんです。だから、見ればそれがどういうものかわかるんです」

「「ええっ!」」

 お父様とお母様が驚いて再び顔を見合せた。


「人の事も【鑑定】できてしまうので、嫌がられるかと思って内緒にしていました。ただ、見ようと思わなければ見れません」


「じゃあ、試しに父様のことを見てくれるかい?」

 そう言われたので、私は見ようと思ってお父様をじっとみた。

 ……あれ、少し項目が増えてる?


【ヘンリー・フォン・プレスラリア】

 子爵

 体力:550/550

 魔力:1360/1360

 職業:魔導師団・副魔導師長

 スキル:火魔法(8/10)、風魔法(7/10)、土魔法(6/10)、魔法耐性(5/10)

 賞罰:なし


「……という感じです」

 お父様に言われたとおり、お父様の鑑定結果を読み上げた。


「……使える属性もあっている。それに私でも知らなかった魔法耐性のスキルがあるぞ。本当に見えるのか……」

 お父様は口元を押さえて唸っている。

 お母様も頬に手を当てて思案げだ。

「公言はしない方がいいでしょうね。まだ小さいし、そのスキルを目当てに誘拐でもされたら大変だわ」

「そうだな、信頼出来る相手だけに伝えることにした方がいいね」


 でもね、と私の肩を優しく掴んでお父様が言う。

「それは天がくださった素晴らしいスキルだ。誇りに思うことはあっても、卑屈に思うことは無いからね」

 私は、お父様に肯定されたことで、固かった表情が笑顔になった。そして大きく頷く。


 そんな時に、大きな泣き声をあげて二つ年上のお兄様のレームスが帰ってきた。

「どうしたんでしょう?」

 三人で顔を見合せ、声の主の元へ移動した。


 お兄様は侍女に付き添われて、居間にいた。

 なんでも、馬車から降りた後、つまずいて転んでしまったのだそうだ。

 侍女の手により洗浄はしたらしいが、酷く擦りむけた膝と手のひらが痛そうだ。


「……あなた、デイジーのポーション、使ってみます?ポーションを使うほどの傷じゃありませんけど、痛そうで……」

 お母様がお父様に聞いてみた。

「……デイジーの能力が本物なら、苦いだけだから外用には問題ないはずだな」

 うん、と頷くお父様。


「デイジー、レームスのために、君のポーションを貰えないかい?」

 私は、うん、とうなずいて、握っていたポーション瓶をお父様に渡した。


 お父様が、瓶の蓋を開け、まずは擦りむいた膝にパシャっとかける。するとあっという間に膝は綺麗になった。

 次に、転んだ時に手をついてしまった方の手のひらにもうひと振りかける。すると、こちらも何事も無かったかのように怪我は消えてしまった。


「え、なにこれ、凄い!デイジーのポーションってどういうこと?」

 泣いていたお兄様が目をぱちくりとさせている。

 試してみた父母も、レームスの世話をしていた侍女も驚いていた。


「これはね、デイジーが初めて作ったポーションなんだよ」

 お父様が瓶に蓋をしながら、レームスに答えた。


「僕より小さいのに、ポーション作れるの?僕なんか治癒魔法使えないのに!怪我治せるなんてすごい!」

 お兄様は大興奮で、まだ涙のあとの残るキラキラした目で私を見つめた。


 ……が。

「うわ、苦い!」

 ぺろっとポーションをかけられた手のひらを舐めてみて、眉間に壮大なシワを寄せる。


「これだったら、病気の時は絶対飲まないからね!それまでに苦いの直して!」

 そう言って、厨房に水を求めて走っていってしまった。


「おやおや。注文が入ったようだね」

 お父様もお母様も侍女も私も、みんなしてレームスの言い草に笑っている。


 瓶の中にまだ少し残っているのを見て、お父様は侍女の指先を見た。

「手が荒れて切れてしまっているね、残りですまないけれど、使いなさい」

 そう言って、恐縮する侍女に渡すと、侍女がその場で残りのポーションを両手にかけた。すると、あかぎれも治り、綺麗になった手を嬉しそうに眺めてから、「ありがとうございました」と言って私に空き瓶を返してくれた。


 そして、そのあと、ポーション代だよと言って、お父様が銅貨十枚をくれた。なんだか初仕事っぽくて嬉しくて、その銅貨は私の部屋の宝箱にしまって置くことにした。

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