第28話 手紙
「はっはっは! そりゃ災難だったな、空蓮!」
「全く……好本さんの暴露には参ったよ……」
「ご、ごめんね、指宿くん……」
「いや、まぁ別にいいんだけどさ……」
木曜日の昼休み、いつものように食卓を囲む四人の姿があった。昨日の図書委員での一幕を共有していた所だ。
「暴露はいいにしても、進捗の方はどうなの、空蓮くん? ゴールデンウィークが明けたらすぐ中間テストよ?」
「あぁ……生物とか歴史とか、あと現代文とかは今の授業にも付いていけてるから何とかなると思うんだけど……問題は古文漢文と地理と公民、あと理系科目全部だな。基礎知識が少なすぎる」
「いや多いわね」
「こればっかりはどうにも……」
有栖からの問いに、自分の状況を冷静に判断する空蓮。自分で知識の少なさを語るのも虚しい話だが、状況が整理できているだけ良い方なのかもしれない。
「あ、あの、指宿くん……わたし、文系は得意だから、何か分からなかったら教えられるかも……」
「ありがとう好本さん。頼りにするよ」
「う、うん!」
空蓮からの返事に、真理はニコッと笑顔になる。
「俺も地理と公民なら教えられそうだけど、理系は自信ねぇな……」
「あー、お前確か社会96点とかだっけ? 憎たらしいことに」
「指宿くん、自分の点数が低いのに
「はい……」
真理の指摘が心に突き刺さる空蓮であった。
「となると、理系は……」
獅子の声を合図に、三人の視線が有栖の方へと集まる。
「なぁ要さん、そういえばこの間のテストってどうだったんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 理系も教えられると思うわよ、全教科90点超えてたし」
「はぁ⁉」
驚きの数字が飛び出し、獅子は勢いよく立ち上がる。空蓮も有栖に顔を詰めて目を見開いていた。
「おいおい、お前のキャラじゃねぇだろ!」
「そうだよ! 有栖は僕の味方だと思ってたのに!」
「どういう意味よ、あんたたち……」
「あ、有栖ちゃん、すごい……!」
「おーよしよしよし! 真理は素直で可愛いねぇ~」
言いながら、真理の頭をわしゃわしゃと撫でる有栖。どちらも気持ちよさそうである。
「まぁそういう訳だから、何か困ったら聞きなさいよね。全力でサポートはするから」
「あ、ありがとう、有栖……!」
「なるほど……よし空蓮! 次の休み、予定変更だ!」
「ん?」
自分の椅子に座りなおしつつ、獅子が告げる。次の休みの予定というと、確か彼とドラファンの続きをやることになっていた。
「空蓮の家で勉強会しようぜ!」
「あぁ、別に僕はいいけど」
「わっ……!」
「えっ、こいつの家で……?」
好印象な反応の真理に対して、非常に不満そうな反応の有栖である。
「いいじゃねーか! こいつん
「はぁ⁉ あんたこいつの家行ったことあるの⁉」
今度は有栖が席を立ち上がる。まるで「聞いてないぞ」と言わんばかりの反応だ。
「お、おう……何だ……?」
「あ、いや……」
「有栖ちゃん……?」
「お前……男にヤキモチはどうかと思うぜ……?」
「違うわ、バカ」
少し赤面して、腰を下ろす有栖であった。
「えっと……私も行っていいのかな……?」
「もちろん! 文系は上城戸だけじゃ不安だから、好本さんも是非来てよ!」
「うん……! 分かった!」
「おい空蓮、発案者にその態度はねぇだろ」
「はは、悪い」
空蓮は全く悪びれた様子を出さずに謝罪する。
「俺は土日とも開けられるけど、お前らどうだ?」
「僕も特に」
「私も……二日とも空いてると思う」
即答する三人に対して、有栖は言い淀む。
「あー……ごめん、私予定確認しなきゃだから、帰ってから連絡でもいい?」
「あぁ、うん。
「そ、そう……」
空蓮のフォローに、再び引っかかるような反応を見せる有栖。何か気になる事があるのだろうか。
「よし! そんじゃ、週末は指宿家勉強会だ!」
「おー!」
拳を高く掲げて宣言する獅子に、元気に同調する真理。空蓮と有栖も、一応腕だけ上げて反応するのであった。
同日夕方。バーチャル世界に戻ってくると、今日も彼女がアイザックを待ち構えている。
「お帰りなさいッス~」
「ああ」
まだアイザックの身体が光っている最中に彼女は声をかける。ただいまこそ言わないものの、素っ気ない挨拶は返すアイザックであった。
「聞いたッスよ~! 今週末、ウチで勉強会ッスね!」
「相変わらず情報が早いな……」
「ウチの組織を舐めないでくださいッス!」
「はいはい……」
「あ、そういえば朝から呼んじゃっても大丈夫ッスよ。こっちでお昼ご飯手配するッス」
「お前……また砂糖まみれにしたりすんなよ?」
「やだなぁ、そんなミス何度もしないッスよ~」
言いながら、彼女は眉をにへっと曲げて見せる。こういう反応をする人間が一番信用ならない。
「まぁでも、上城戸は家の事あるし、流石に午後からなんじゃねーかな」
「ふぅん……ちゃんと友達の事、考えてるッスね?」
彼女は目を輝かせて、嫌らしいにやけ顔でアイザックを覗き込む。
「なっ……何が言いたい……?」
「べっつに~? ただ三年無難に過ごそうとしてた割には、男女四人で勉強会なんて青春しちゃってるな~って思っただけッスよ~」
「無難に過ごすための勉強会だ。他に意味は無い」
「そッスか。ま、こっちは面白いデータが取れればそれでいいッス」
「話は終わりか?」
「はいッス。お気をつけて~」
相変わらず手を上げるだけの返事をして洞窟を後にするアイザックであった。
「ただいま、ナタリー」
「あ、お兄ちゃんお帰り!」
「お腹ぺこぺこだ」
「最近大変そうだね、お兄ちゃん」
「ん、そうか?」
「うん……相変わらず身体はピンピンしてそうだけど、精神的にちょっと辛そう」
「そっか……ナタリーには適わないな」
確かに、こちらの身体はほとんど使っていないので身体的な披露は溜まらないが、あちらの世界での生活は徐々にメンタルを削っているのかもしれない。
「と、いうわけで! そんなお兄ちゃんのために、今日はプリンを作ってみました! 食後のデザートね!」
「おぉ、プリン! 楽しみだな!」
「うん! それじゃ、荷物片づけてきて!」
「ああ」
アイザックは部屋に向かおうとするが、ナタリーが思い出したかのように言葉をかける。
「あっ、そうだお兄ちゃん。フクロウさんがお手紙持ってきてたよ」
「え、フクロウが?」
「うん。部屋に置いといた」
「わかった。ありがとう」
部屋に向かうと、机の上に一通の手紙が置かれている。その封蝋を一目見ただけで、アイザックにはどこから届いた手紙か確認できた。六芒星の上に鳥の翼が乗せられた紋様。セントベルクの王宮が使用する封蝋だ。
すぐさま開封し中身を確認すると、その内容は至ってシンプルであった。
「週末、王宮に参上せよ」
手紙に詳細を記さないという事は、外部に漏れてはいけない話があるという事だ。
先週末の王都での出来事を思い出す。何か吟遊詩人の関連で問題でも発生しただろうか。思考を巡らせながら、魔法で手紙を処分するアイザックであった。
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