第18話 外の世界1

次の日も、4人は 丸壁の前の広場に集まっている。


「プール楽しかったね」

「うん」

「無重力のところが楽しかったよね」

「そうだよね。結局丸壁まで飛んでいけなかったからもっと練習したいよ」

「また連れてってくれるそうだよ」

「楽しみ」

「今日はプールじゃないんだよね」

「そうだね。水着は持ってこなくていいって」


4人は昨日楽しんだプールのことをあれこれ話している。直径20メートルの円筒形のプールで、回転による遠心力で水が円筒の内側に張り付くように溜まっている。プールで泳いだり、円筒の中心部にある飛び込み台で無重力を楽しんだのだ。


「あのプールって、このあたりにあるよね」

そういうとエレナはタブレットを取り出すと絵を描き始める。

円筒形の絵を描き、円の部分に小さな円筒形を付け足す。サイズの違う円筒形をつないだような形だ。


「そう。丸壁のところからエレベータに乗って、この小さな円筒まで登ったよね」

エルネクが昨日プールに行った際に乗ったエレベータを思い出す。


「プールの太陽の壁はこっち側で、回転方向もここと同じ」

エレナがタブレットに描いた絵を指さす。

「あと、このプールの円筒の内側にも小さい円筒があるよね」

カルラがいう。

「飛び込み台!」

プールに向かって突き出している小さな円筒からラグレンが真っ先に飛び込んだのだ。

「うん。無重力楽しかった。体が浮き上がったよね」

「ぐるぐる回転するのも楽しかったよね」

「丸壁から戻ってくるときに使った滑り台も楽しかった」


「ほかにもあるのかな」

「今日行くところが新しいところかも」


自動車が一台丸壁前の円状の道路に入ってきて停車する。中からはアグナスさんとエレナの両親が降りてくる。

「みなさん、おはよう」

「おはようございます」

あいさつする4人。


「こっちだよ」

アグナスさんはそういうと子供たちを建物の中に案内する。プールに行った時と同じエレベーターに乗るようだ。

「プールに行くんですか?」

エレナが。

「今日行くのはプールではないんですよ」

エレナの母がこたえる。

「この前みたいに足を引っかけて手すりをつかんで」

先にエレベータに乗ったアグナスさんがいう。

子供たちはプールに行くときと同じように、エレベーターの床にある手すりのような棒に引っかけ、壁の手すりをつかむ。


「じゃあ動くよ」

エレベーターの扉が閉まりがゆっくりと上昇を始める。

「降りるところはプールよりちょっと上で、ほとんど無重力なんだよ」

アグナスさんが説明する。


「プールの飛び込み台のような感じですか?」

エルネクがアグナスさんの方を見る。

「そうだね。慣れていると思うけど、動くときはゆっくりとね」

「はい」

4人はプールに行った時の飛び込み台を思い出す。


「そろそろ到着だ」

エレベーターの速度が落ちてくるにつれて、床の棒に引っ掛けた足の甲に力がかかってくる。

「体が浮いてきた」

「ほんとだ」


エレベーターが停止する。足は床から離れた状態だが、徐々に床に降りていく。

ドアの窓からはゆっくりと回転している外のようすがみえる。


「回転してる」

「ほんとだ」

「この前プールに行ったときは、こっち側のドアから降りたよね」

ラグレンがドアを指さす。

「そうだね」

アグナスさんがラグレンの方を見る。


「あれ? 扉は開かないの?」

エレベーターの上昇は止まったがドアが開かないのでエルネクが質問する。


「外と回転を合わせてから開くからちょっと待ってね」

エレナの父がそういうと、エレベーターがちょっと振動する。

「そのまま手すりに捕まってるんだよ」

窓から見える外の回転が徐々に遅くなっていく。しばらくすると外の動きが止まりドアが開く。


「ゆっくり外に出て」

アグナスさんはそういうと先に軽く床をけってエレベーターの外に出る。体は浮いたままだ。

「こっちの手すりに捕まって」

子供たちはエレベーターを降りたところに設置された手すりに持ち変える。体がちょっと回転する。

手すりが設置されているところは細長い部屋で、乗ってきたエレベーターの向いの壁にはドアが並んでいる。

「今度はこっちだよ」

アグナスさんが並んだドアの方を腕で示す。


「このドアもエレベーター?」

カルラが質問する。

「こっちはエレベーターじゃないんだ」

アグナスさんがこたえる。

「今度は、上下じゃなくて横方向に動くトレインという乗り物に乗るんだよ」

エレナの父が説明する。


「横? でもここって昨日のプールより上だから円筒の中心あたりですよね」

エルネクがいう。

「うん。円の中心からだと横も上下も同じになるんじゃないの?」

エレナがエルネクの疑問を引き継いで質問する。

「そう思うのも無理はないですね」

エレナの母がこたえる。


「エレベーターは円筒と一緒に回ってるんだけど、今いるここは円筒の外側なんだよ」

アグナスさんはそういうと、広げた左手の手のひらに右手をこぶしにして当て回転させる。

「このこぶしが街のある円筒だとすると、今ぼくらがいるところはこの手のひらの側なんだよ」


「円筒の外!」

エルネクが驚いて大きな声をだす。

「エレベーターの反対側のドアの方が街のある円筒側だったんだね」

エレナがいう。

「もしかして、ほかの円筒に行くの?」

エルネクがアグナスさんに質問する。

「そうだよ」

子供たちはお互いの顔を見る。みんなとても驚いている。


「他に円筒があるなら、円筒が縦につながってると思ってたんだけど、横に行くということはそうじゃないのかな」

エルネクがいう。

「縦?」

アグナスさんがたずねる。

「うん。こんな感じでつながっているのかと思ってた」

エレナは両手でげんこつを作って上下に交互に重ねながら、円筒形がつながっているようすを表す

「街とプール、飛び込み台はみんな中心が同じだったから、ほかに円筒があるならこんな風につながってるかもって」


「うん。太陽の壁の裏側にも何かあるんじゃないかと思ってたんだ」

エルネクもいろいろと考えたことを説明する。


「円筒がつながってるっていうのはおもしろい考え方だね」

アグナスさんがエレナの方を見る。

「この世界の形がわかったら教えてよ」


「あ。何か通ったよ」

カルラがトレインのドアを指さす。

ドアの窓を見ると何かが通り過ぎるのが一瞬見える。

「あれがトレインだよ」

アグナスさんが説明する。

「ここに停車するからちょっと待ってね」


しばらくするとトレインの速度が落ち、ゆっくりと停止するのが見える。

停止すると、ドアが開く。中にはこれまで会ったことのない大人が何人か乗っている。


「じゃあ乗るよ」

アグナスさんはそういうと床を軽くけり、トレインのドアを目指して空中を浮遊する。

トレインの中にも床と天井につながる手すりがいくつか設定されている。壁側に窓を背にして長い椅子も設置されている。座っていた乗客が子供たちに声をかける。

「こんにちは」

4人もあいさつをかえす。

「こんにちは」

4人は初めて会う大人が5人も乗っているのでちょっと緊張する。


アグナスさんがひじ掛けをつかんで体を椅子に押し付ける。

「無重力なのに座るの?」

手すりにつかまり体を床と平行にしたラグレンがたずねる。


「トレインが動き出すと、すぐに遠心力でこっちが下になるんだよ」

エレナの父が床の方を指さす。

「そろそろ動くよ」


ドアが閉まると、ゆっくりとトレインが動き出す。

手すりを持っていた4人の足が進行方向と逆方向に浮き上がる。

しばらくすると、アグナスさんがいったようにゆっくりと浮いていた足が床に向かって落下し始める。


「足がついた」

「ほんとだ」

「椅子に座ろうかな」

ラグレンが窓を背に並ぶ椅子に腰かける。

エルネク、エレナ、カルラも座ることにする。


「窓の外に何か見えた」

カルラが窓を指さす。

「え? なに?」

ラグレンがカルラの方を見る。

「何か通り過ぎたよ」

「何も見えない」

4人はそれぞれトレインの左右にある窓の方を見る。


「そっちの窓はトンネルの壁しか見えないよ」

アグナスさんが椅子に膝をついて窓の方を向いているラグレンに向かっていう。

「見えるのは反対側の窓だよ」

ラグレンは椅子から降りると向かいの座席に向かう。


「あ!」

「見えた」

「トレインとすれ違ったんだ」

「人が乗ってた」

エレナがいう。

「え? 気づかなかったよ」

「気のせいかな」

「窓の中に人の影が見えたように思ったんだけど」

「また来た」

4人は目を凝らして通り過ぎるトレインを見る。

「座ってる人の頭が見えたような気がする」

「速くて見えないよ」


「そろそろ到着するよ」

アグナスさんが子供たちに呼びかける。

トレインの速度が徐々に遅くなってくる。

ちょっと進む方向が横に曲がったような揺れがあり、しばらくすると速度が落ちゆっくりと停車する。


「あれ? 止まったのに無重力じゃない」

立ち上がったエルネクがいう。

「ほんとだ。乗る時は体が浮き上がっていたのに」

ラグレンも床の方を見る。

「そうだね。どうしてこうなるかはみんなで考えてみて」

アグナスさんがいう。

「みんな降りて」

子供たちはトレインのドアに向かう。トレインに乗っていた知らない大人たちは動こうとしない。

外に出ると扉が閉まりトレインが動き始める。見送る4人。


「ひろーい」

「さっきより何倍も広い」

「ベンチもいっぱいある」

「あれはエレベーターかな」

「重力はあるけど、ちょっと軽いね」

「そうだね」

そういうとラグレンが軽く飛び上がる。膝のあたりの高さに達する。

飛び上がったところからちょっと横に着地する。

「こっちにずれたということは、ここはこっち向きに回転してるんだね」

エルネクがいう。


「今度はこっちのエレベーターにのるよ」

エレベーターの扉は6つ並んでいて、右から二番目の扉が開いている。


「足をかけるところがない」

「ほんとだ」

壁側の手すりと、床と天井をつなぐ手すりは3本あるが、これまでに乗ったエレベーターにあった床の棒がない。

「このエレベーターは無重力の場所にはいかないからだよ」

アグナスさんが説明する。


「動くから手すりにつかまって」

アグナスさんがそういうとエレベーターがゆっくりと動き出す。

「下に向かってる」

「なんか重くなってきた」

エレベーターの速度が落ちるにつれて足にかかる体重がちょっと重くなる。


「そろそろ到着するよ」

エレベーターが停止しドアが開く。

外はさっきエレベーターに乗ったところよりもさらに広く、多くの大人がいきかっている。

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