第17話 遠足3
「また泳いできてもいい? ここを一周するんだ」
ラグレンが立ち上がる。
「その前に、みんな高いところは大丈夫かな」
アグナスさんが子供たちに質問する。
「高いところ?」
カルラが質問する。
「木に登ったことあるよ」
ラグレンがいう。
「泳ぐ前にこの飛び込み台に行ってみないかな」
アグナスさんが真上を指さす。4人は上を見上げる。ここに来た時に説明された小さな円筒形の飛び込み台が見える。
「おもしろそう」
エレナが見上げながらいう。
「じゃあ行こうか。らせん階段を登るんだ」
そういうとアグナスさんは立ち上がり、らせん階段に向かう。
4人は後をついていく。
「楽しみ」
「高いね」
「怖くないかな」
アグナスさんについてらせん階段を上り始める4人。
「あれ? 体が軽い」
「ほんとだ」
「真ん中に近づくからだ」
「手すりを放さないようにね」
アグナスさんは注意する。
「足をつかないで手すりだけで登っていけるよ」
ラグレンが膝を曲げて足を浮かせ、手すりをつかむ手だけで登っていく。
「これおもしろいね」
3人のラグレンをまねて足を浮かせ手すりだけで登っていく。
先頭を進むアグナスさんが円筒形の中に入る。4人は何があるんだろうと期待しながら中に入っていく。
中は小さな円筒形で、柔らかいクッションでおおわれている。登ってきたらせん階段は壁側の端にあり、円筒形への入口には扉がある。アグナスさんは4人全員が円筒の中に入ったことを確認してから扉を閉じる。
「階段に落ちないように閉めておかないとね」
扉の表面も柔らかいクッションだ。プールの方にはネットがあってふさがれている。
「体が浮き上がる!」
「ほんとだ」
「ここは無重力エリアなんだ。円筒の中心近くは遠心力が弱いから体浮き上がるんだよ」
そういうとアグナスさんは床を軽くけると体が回転し始める。
「ぼくもやってみる」
ラグレンはそういうと床を蹴って回転し始める。
「すごい」
「わたしも」
4人は回転したり壁にぶつかって跳ね返ったりと、体が浮き上がるのを楽しんでいる。
「中心のあたりに留まると浮いたままだよ」
そういうとアグナスさんが壁にぶつかって戻ってくるカルラをつかんで動きを止める。ちょうど円筒の真ん中あたりでそのまま浮いている。
「楽しそう」
「なんか変な感じ」
カルラが手足をバタバタ動かすとゆっくりと壁に近づいていく。
「ぼくもやってみる」
エルネクがかるく床を蹴る。
「あれ? 真ん中に向かって蹴ったはずなのに横にずれる」
「ここも回転しているからね。公園でボールを真上に投げた時と同じで横にずれるんだよ」
「あ、そうか」
公園でいろいろと試したことを思い出す。
「それじゃあみんな、ここからプールに飛び込んでみるか」
「え? ここから?」
「うん。このネットの向こう側からプールに飛び込めるんだ」
アグナスさんがネットの端っこをつかんで引っ張ると、カーテンのようにネットがめくれて向こう側に入れるようになる。
「ここから入っておいで」
先にネットの向こう側に入ったアグナスさんが4人に呼びかける。
「高いね」
「ここから飛び込むの?」
「ちょっと怖い」
「高さは10メートルだから怖いのも無理はないかな」
「ぼくはこれくらい平気だよ」
ラグレンがプールの方をのぞき込みながらいう。
「それはすごいな」
「飛び込むときは、この手すりをもって、この台を足で蹴って飛び込むんだ」
「へー」
「ここはプールの上までせり出しているから、真下に飛び降りてもプールの深いところだから大丈夫だよ」
4人はプールをのぞき込む。
「10メートルかあ」
「高いよね」
「でもこのあたりは無重力だし、ゆっくり落ちてくんじゃないかな」
「ここからだとどっちの方に飛び込むの?」
ラグレンが手すりをつかんで飛び込む準備をしながらプールを見回す
「どの方向にも飛び込めそうだよね」
エルネクも周りを取り囲むプールを見ながらいう。
「この台を蹴って飛ぶと、ここから見て左の方向に飛んでいくんだ。プールのあのあたりに落ちるんだよ」
アグナスさんが左の方を指さす。
「そっか。ここも回転してるから」
「そうだね。その左のあたりにはプールのスタート台がないことに気づいたかな?」
「どこで泳げばここから飛び込んでくる人とぶつからないかわかるようにしてるんだ」
「今はプールで誰も泳いでないけど、この飛び込み台に人がいる時は、プールのスタート台のあるあたりで泳ぐんだよ」
「はい」
「飛び込んでみる」
早速ラグレンが手すりをつかみ足を台に乗せる。体が前傾姿勢になる。
「そう。で、真うしろにけるとより遠くまで飛んでいける」
「あ、丸壁の壁が柔らかいのは、ここから飛んで丸壁にぶつかっても大丈夫なようにしてるんだ」
「そうだね。でも丸壁まではそう簡単には飛べないよ」
「そうなんですか」
「うん。ぼくは何度か壁まで飛んだことあるけどね」
「へー」
「そろそろ、いくよ」
膝を曲げて飛び込む体勢でラグレンがいう。
「だいじょうぶ? すごく高いけど」
カルラが心配そうに声をかける。
「ゆっくり落ちるから大丈夫だよ」
「よし、じゃあ飛ぶよー」
そういうとラグレンは台を蹴ってプールに向かって飛んでいく。
「わあ、遠くまで飛んでく」
「あれ、曲がってるよね」
「うずまきのように回ってる」
「すごい。どうやったんだろ」
3人は先に飛び込んだラグレンを目で追う。ラグレンが渦を描くように曲がりながら飛んでいく。
「あれは、実はまっすぐ飛んでるんだよ」
「え?」
「あ、そうか。こっちが回転してるんだ」
「なんかふしぎ」
「プールに近づいている」
「飛び込んだ」
大きな水しぶきが上がる。しばらくするとラグレンが水面から顔を出す。50メートルのプールの真ん中あたりまで飛んでいる。
「すごかったー」
飛び込み台の方に向かって手を振っている。
「だいじょうぶ?」
カルラが大声で呼びかける。
「楽しいよー」
ラグレンも大声で返事する。
「滑り台で戻ってもう一回やる!」
そういうとラグレンは丸壁に向かって泳ぎだす。
「プールの真ん中くらいに飛び込んだから、25メートルは飛んだよね」
「最初は丸壁まで飛んでいくのかと思ったのに」
「今度はぼくがいくよ」
エルネクがそういうと手すりをつかみ飛び込み用の踏切台に足をのせる。
「遠くまで飛ぶには、できるだけ中心部を蹴るんだよ」
エルネクは手すりを持ち、足を真後ろの方にもっていく。体がほとんど平行になる。
「こんな感じ?」
「そんな感じかな」
前を見ると水に囲まれた円筒形が見える。高さは10メートル。高いな。ちょっと怖い気もするが、先に飛んだラグレンはゆっくり落ちていったし、楽しいって言ってたし。そんなことを考えながらエルネクは膝を曲げて力をためる。そして、蹴る。
プールの水で満たされた円筒形の内側に飛び出す。視界が一気に広がる。
「わあ」
思わず声がでるエルネク。
前を見ると、左上の方に丸壁に向かって泳いでいるラグレンが見える。丸壁といっしょに回転している。最初は円筒形の中心部をまっすぐ進んでいたように思ったが、徐々にプールの水面に向かい始めた。丸壁までは届きそうにない。
水面が近づいてくる。できれば体の正面を下にして飛び込みたいが、体の向きを変えるのが難しい。腕を頭の方に上げ、手から先にプールに飛び込む体勢にする。体の向きはうまく変えることができず、背中を下にして水面に対し斜めにプールに飛び込む。
水の中でどっちが上なのか一瞬わからなくなるが、体が浮き上がる方向が上だと気づく。急いで腕と足を動かして水面まで上昇する。重力が軽いこともあって、水面から上半身が飛び出す。丸壁の方を向いていたので、丸壁に到着しプールからあがっているラグレンに向かって手を振る。
エルネクの方を見ていたラグレンも手を振り返す。
エルネクは振り返り、飛び込み台の方に手を振る。エレナ、カルラ、アグナスさんも手を振っている。
飛び込み台よりも丸壁の方が近く見えるような気がする。ラグレンよりも遠くまで飛べたようだ。エルネクは丸壁に向かって泳ぎだす。ラグレンがエルネクが待っている。
丸壁に到着すると、ラグレンがエルネクを引っ張り上げる。
「すごいよね」
「うん」
「エレナ達も飛び込むのかな」
「どうだろう」
二人は飛び込み台の方を眺める。
「あ、エレナが先に飛び込むみたいだ」
エレナが飛び込み台のところに出てきた。下をのぞき込んでいる。
「高いから怖がってるんじゃないかな」
ラグレンがエルネクに向かっていう。
「そうだね」
二人が話しながら飛び込み台を見ていると、飛び込み台に立っていたエレナが飛び込む。
「あれ、そのまま足から飛び込んだ」
「飛び込むというか飛び降りたって感じだね」
「確かに。飛び降りてる」
最初はゆっくり落下し、エルネクとラグランがいる丸壁側から見ると右の方に曲がりながら落下していく。
水しぶきが大きく上がる。カルラが飛び込み台から覗きこんでいる。浮き上がってきたエレナにカルラが何か話しかけてるようだが丸壁からは遠くてよく聞こえない。
エレナがプールから上がっても、カルラが飛び込み台のところに立ってプールをのぞき込んでいる。
「飛び込むかな」
「どうかな。カルラは怖がりだから」
「エレナも飛び込んだし、カルラも飛び込むんじゃないかな」
「あ、飛び込むよ」
飛び込み台を見ると、カルラが今にも飛び込みそうな体制で下をのぞき込んでいる。
「カルラも足からかな」
「飛んだ」
カルラもエレナと同じように真下に飛び降りる。今度も右の方にカーブを描きながら落下していく。
大きな水しぶきが上がる。
「アグナスさんが飛び込むみたいだ」
2人が見ていると、アグナスさんが飛び出す。
「あれ、ゆっくり動いてる」
「踏切台を軽くけったんだね」
「すごい。ゆっくり飛んでる」
「ぼくも今度軽くけってみるよ」
「うん。おもしろそうだね」
アグナスさんが腕と足を泳いでいるみたいに動かす。
「ははは。空中を泳いでる」
「あれやると進むのが早くなるのかな」
「そうは見えないけど。今度試してみようよ」
ゆっくりと円筒の中心部を丸壁に進むアグナスさんを目で追う2人。
「丸壁まで飛びそうだよ」
「ほんとだ」
プールに落下することなく丸壁にゆっくり近づいてくるアグナスさん。
「ぶつかった後どうするんだろ」
「壁をつたって降りてくるのかな」
丸壁に近づくアグナスさん。ちょっとプールの方に近づいてきたようにみえるが、丸壁まで到達しそうだ。
丸壁に手をつくと腰を曲げて足を丸壁につける。そして壁を蹴ってプールに向かって斜めに壁を蹴る。
「あ、プールに飛び込むんだ」
「すごいな。これやってみたい」
プールに飛び込んだアグナスさんが浮き上がると、丸壁に向かって泳いでくる。
「丸壁まで飛べたよ。だいたい10回やって3回くらいしか成功しないんだ」
プールからあがりながら2人に話しかける。
「ぼくもやってみる」
「慣れればできるようになるよ」
それからエルネクとラグレンは5回飛び込み台から飛び込んだ。
丸壁まではもうちょっとというところまでだったが、2人とも一度も到達できない。カルラとエレナも真下じゃなくて丸壁に向かって飛んでみたが、真ん中あたりまでしか飛べなかった。
「丸壁まで飛ぶのは難しいね」
「うん。さっきはもうちょっとだったのに」
「なんとなくコツをつかんだから、もう後何回かやれば丸壁まで行けそうな気がする」
4人は飛び込み台の無重力エリアのところで話している。
「あと1回飛び込んだらそろそろ帰ろうか」
下からエルネクの父親が飛び込み台にいる4人に呼びかける。
「はーい」
「ここって広いからもっと多くの人がいっしょに使えそうだよね」
プールをのぞき込みながらエレナがいう。
「うん。スタート台も10台あるし、10人で競争できる」
「更衣室のロッカーもいっぱいあったよね」
「私たちが住んでるところもだれも住んでない家がいっぱいある。以前はもっと人がいたのかな」
「そうなのかも」
「どこかいったのかな」
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