第4話 測る3
「ここは円筒形だから、真上までの高さってことは円の直径を測ることになるよね」
そういうとエレナがタブレットに円を描いて直径を引く。
「あ、わかった。一周の長さを測って3.14で割るんだ」
カルラも直径と円周率の関係を思い出す。
「でも分度器を使っても測りたいな」
分度器を目の前にもってきて上の地面を眺めながらラグレンがいう。
「じゃあ両方で測って比べてみるのはどうかな」
エルネクが提案する。
「それがいいよ。分度器のほうを先にやろう」
ラグレンが3人に向かっていう。
「円筒を横から見ると長方形になって、この短いほうの長さが高さになるね」
カルラはタブレットに長方形の図を描いて説明した後、斜め上に見える一直線の道路を指さす。
「45度になる場所は、まっすぐ道路で測るのがいいと思うんだ」
「そうだね。ここでまっすぐな道路って、まっすぐ道路だけだからね」
エルネクもなっとくする。この街の道路はどれもくねくねと曲がっているが、長い直線の道路がひとつだけある。円筒の両端を最短距離で結ぶ一直線の道路で、まっすぐ道路と呼んでいる。
「45度になるのは真ん中の交差点のあたりかな」
4人は丸壁の高さと斜め上に見えるまっすぐ道路の長さを見比べる。円筒形の一方は平たく丸い壁になので丸壁、反対側の壁はお椀状にちょっとへこんでいて真ん中に太陽があるので、太陽の壁と呼んでいる。
「そのあたりかな」
まっすぐ道路には交差点が二つあり、そのうちの一つが真ん中あたりにある。
「太陽はずっと見ちゃだめだってお母さんが言ってた」
カルラがみんなに注意する。
「丸壁の方で測るから大丈夫だよ」
エルネクがこたえる。
4人が交差点に向かって歩き始めたところで、アグナスさんが森のほうから自転車を押してやってくるのが見える。
「こんにちは」
4人が挨拶する。
「やあ、みんな」
アグナスさんが立ち止まり4人に話しかける。
「何してるんだい?」
「ここの直径を測るんだ」
ラグレンが真上の地面を指さす。
「それはすごいな。どうやって測るのかな?」
「えーとね、分度器を使うのと、円周率を使う方法の二つで比べるんだ」
ラグレンが早口で説明する。
「なるほど。比べるのはいいやり方だね」
「うん。さっきは木の高さを測ったよ」
「アグナスさんはどうして自転車に乗らずに押してるんですか?」
エルネクがたずねる。
「ちょっと速く走ったら倒れそうになったんで押してるんだよ」
アグナスさんの膝と肘が汚れているのが目に入る。自転車でこけたのかなと思うが4人は何もいわない。
「森で何してたんですか?」
カルラがたずねる。
「それ虫かご?」
ラグレンが自転車のかごの中を指さす。
「そうだよ。バッタを捕まえたんだ」
アグナスさんのとがった耳が震える。大人は嬉しかったり楽しい時に耳を震わせる。
「へー」
虫かごをのぞき込む3人。カルラだけは近づかない。
大きなかごの中にバッタが5匹ほど入っている。
「この前は魚つかまえてた」
ラグレンは前にアグナスさんが水槽に入れた魚を運んでいたことを思い出す.
「ミミズを捕まえてたこともあった」
エルネクも思い出す。
「よく覚えてるね。今度は昆虫を研究しようと思ってね」
虫かごの方を見るアグナスさん。
「昆虫なら他にも蝶々とかカブトムシとかアリとかいっぱいいるよ」
ラグレンが公園や森で見かける虫を紹介する。
「そうだね。今度捕まえてみるよ」
アグナスさんは自転車にまたがる。
「それじゃあ、もう行くよ。直径がわかったら教えてよ」
そういうとみんなに手を振り自転車をこぎだす。
4人は手を振って見送る。
「あ、足ついた」
自転車をこぎだしてすぐに片足を地面につくアグナスさん。
「アグナスさんて自転車に乗れてないよね」
エルネクがいう。
「アグナスさんだけじゃなくて、大人は自転車に乗れないよね」
カルラも他の大人が自転車に乗ろうとしている様子を思いうかべる。
「でもタルカさんは乗れてるよ」
エレナがいう。
「うん。タルカさんだけだよね。自転車にちゃんと乗れる大人は」
エルネクもタルカさんのことを思い出す.
「ねえ、交差点まで競争する?」
ラグレンの言葉にみんな反対の地面までの高さを測るつもりだったことを思い出す。
「いいよ」
カルラはそういうと先に走り出す。
「あ、ずるいよ」
そういうとラグレンもあわてて走り出す。
残されたエルネクとエレナも二人を追いかける。
「いちばーん」
カルラが叫んでいる。ラグレンはカルラに追いつけなかったようだ。
「同時にスタートしてたら勝ってたのに」
ラグレンは悔しそうだ。
「交差点の真ん中に行く?」
カルラが尋ねる。
まっすぐ道路の真ん中のあたりに大きな交差点がある。交差点の中央には丸い小さな広場があって、道路がその周囲を回っている。
「先にこのあたりで角度を測ろうよ」
エルネクが提案する。
「じゃあ、ここで測ってみるよ」
ラグレンはそういうと、糸と分度器を目の前に持ち丸壁の方を見上げる。
「このあたりかな。角度見て」
エルネクが糸に結びつけられたおもりの揺れを抑え、分度器を横から見る。
「45度にちょっと足りないかな。42か43度だ」
「ということは、もうちょっと丸壁に近づかないといけないのかな」
とエレナ。
「そうだね。近づくほど角度は急になるから」
エルネクがこたえる。
「じゃあ、もうちょっと近づくよ」
そういうとラグレンは分度器を目の前に持ったまま、歩道を一歩進んで立ち止まる。
「どうかな」
「一歩じゃあ足りないよ」
エルネクは再度糸の動きをおさえ分度器をのぞき込む。
「じゃあ今度は5歩。いーち、にー、さん、よーん、ごっ」
大股で丸壁の方に歩くラグレン。
「どうかな」
ラグレンに追いつくと、エルネクは糸の揺れを抑え角度を見る。
「44度くらい。もうちょっと前」
ラグレンが一歩前に進む。
「だいたい45度かな」
カルラとエレナも分度器を見てうなずく。
エルネクが持っていた石で歩道に線を引く。
「目の高さを測るからじっとしてて」
そういうとエレナがメジャーを伸ばし、端っこを足で押さえる。
カルラがメジャーのメモリとラグレンの目の位置をのぞき込む。
「142センチ」
「後はここから丸壁までの距離を測るんだけど、このメジャーだと大変だな」
「5メートルだから何十回も測ることになるね」
丸壁まで続く道路を見ながらカルラも同意する。
「時間はかかるけど、測れるよ」
ラグレンは5メートルのメジャーで測る気満々のようだ。
「もっといい方法があるよ」
エレナが3人に向かっていう。
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