第3話 測る2

「お絵かき用にタブレット持ってきてるからこれ使って」

カルラはそういうと肩にかけた鞄からタブレットを取り出し、エレナに手渡す。

エレナはタブレットからペンを取り外し絵を描き始める。


「どうやるの?」

カルラがたずねる。どうやれば木や真上の地面までの高さを測ることができるのだろうか。


「それ木の絵? 木に登るの?」

エレナの横にしゃがんだラグレンが聞く。


「登らなくても大丈夫」

エレナがこたえる。タブレットには木の絵のほかに三角形が描かれる。


「あ。わかった。それ、角度を測るよね」

エルネクがエレナに向かっていう。

「うん。メジャーと分度器の両方を使って測る」

「なるほど。三角定規みたいな直角二等辺三角形を作ればいいんだね」

カルラも方法がわかったようで嬉しそうに微笑む。


「なんで思いつかなかったんだろ」

エルネクは悔しそうにいう。


「木のてっぺんが45度の角度で見れるところの木からの距離を測るんだよね」

カルラがエレナに向かっていう。

「そう。もう一つの三角定規、30度と60度の方でもできるけど計算がちょっと難しい」

エレナがこたえる。


「えー? どういうこと?」

ラグレンがみんなを見回しながら質問する。


エルネクがエレナが地面に描いた直角二等辺三角形の図の横に木の絵を描いて説明する。

「木は直角に立っているからここが90度」


「で、ここが45度になる場所がわかれば木のてっぺんとこの線の角度も45度で、ここの長さが高さと同じになる」

「へー」

とラグレン。

「分度器取ってくる!」

ラグレンが家に向かって駆け出す。


「45度は大体このあたりかな」

エルネクが木のてっぺんが45度くらいの角度で見えるあたりまで移動する。


「地面すれすれから木のてっぺんを見るのは難しいかも」

カルラがうつぶせに寝そべり、顔を横に向けて木を見上げる。

「立ったままでも大丈夫だよ」

エルネクがいう。

「そうなの? さっき描いた図だと地面からだったけど」

カルラも不思議そうに尋ねる。


「目の高さを測って、後から足せばいいんだよ」

エレナがタブレットに立った人と木を結んだ線を底辺とした二等辺直角三角形を描く。

「なるほど。三角形の底辺が目の高さになるんだね」

エルネクが納得する。

「持ってきたよー」

ラグレンが分度器を持った手を振りながら走ってくる。


「じゃあ測るよ」

エルネクがラグレンから受け取った分度器を目の前に持ってくる。

「あれ? 地面すれすれで測るんじゃないの?」

ラグレンが尋ねる。

「分度器の高さを後から足すから大丈夫」


手に持った分度器を額の前にもってきて、45度の線を目で追うエルネク。45度の線の先が木のてっぺんになるか確かめるのだ。

「もうちょっと離れないといけないかな。それと、ここ水平になってるかな」

分度器の直線部分が地面と平行になっていないと、45度の角度も正しく測れない。

「水平のように見えるけど、水平かどうかってどうやればわかるんだろ」

横から分度器を見るカルラ。

「うーん」

分度器を目の前に持ち、水平かどうか確かめるように動かすエルネク。


「あ。何か紐というか糸があればわかるかも」

エルネクが思いついたようにいう。

「糸?」

「うん。糸におもりをつけてぶら下げたら真下を向くから地面に対して90度」

「あ、わかった」

エレナも気づいたようだ。


「で、この分度器の縦の線と糸を重ねたら、縦の線と90度で交わるこの横の線が地面と水平になる」

「そうそう」

「糸とってくる」

またラグレンが家に向かって走る。


「分度器を傾けて、糸が45度の線に重なるようにしたら、この分度器の直線のところが45度になるんじゃないかな」

タブレットの木の絵と45度のななめ線に半円の絵を追加する。分度器の直線部分が斜めの線に重なっている図だ。さらに、分度器中心から地面に向かって線を引く。


「ここが45度ってことは、こっち側も45度」

斜めの線と地面が作る角と、分度器の半円の中心と地面と結ぶ線の角を指さす。


「そうなの?」

「そうか。45度が二つある直角三角形になってるね」

「たしかに、分度器を斜めにしてこの直線に沿って木を見るほうが見やすいな」


「糸もってきたよ」

何度も走っているので、ちょっと息が切れている。

手にしているのは糸巻にまかれた白い糸。


「あ、はさみ忘れた」

「はさみはなくても大丈夫だよ」

取りに帰ろうとするラグレンにエルネクが慌てて呼びかける。


「切らずにこの糸巻をおもり代わりにするから。巻いて結べばそれ以上紐はほどけないし」

エルネクが糸を50cmほど伸ばしてから糸巻に結び付け、糸をもって糸巻をぶら下げる。

「こんな感じ」


「分度器のここに糸をもってきて」

半円の分度器をさかさまにし、上になる直線の真ん中に糸を重ねて指で押さえる。

そして分度器を額のあたりに持ちあげ、傾けて分度器の直線に沿って木のてっぺんを見上げる。


「角度見て」

カルラが横から分度器に重なる糸の位置を確認する。

「ちょっと揺れてるけど、60度くらいかな」

「近すぎか。もっと離れないと」

目の前に分度器を持って、木のてっぺんを見ながら後ろ向きに歩く。

「もうちょっと」

分度器を見ながら横を歩くカルラとエレナ。

「このあたりかも」

分度器を見ていたエレナがいう。

エルネク立ち止まる。

エレナが糸巻に軽く手を触れて揺れを抑える。

「もうちょっと前」

エルネクが一歩前に踏み出す。

「だいたい45度かな。木との距離を測ろう」

エレナがそういうのを聞くと、メジャーを持ったラグレンが木に向かって走る。

ラグレンは木の根元のところに到着すると、メジャーを伸ばしながら後ろ向きに歩き始める。

「木のところで押さえてて」

カルラが木まで走り、伸ばしたメジャーの端を木の根元で押さえる。


「ここで5メートル」

ラグレンはそういうと地面に線を引く。

「ちょっと横にそれてる」

エルネクは腕を前に伸ばし、自分のいるところと木を直線で結ぶ方向を見ている。

「右に半歩くらいかな」

エルネクがラグレンに向かって呼びかける。

「右に半歩。ここでいい?」

「そのあたり」

エルネクから見ると左だが、エルネクの方を向いているラグレンにとって右側だ。


「地面に目印の線を引くよ」

靴を地面にこすって線を引くエレナ。

「じゃあここからもう一回測るよ」

ラグレンが印をつけたところから測りはじめる。


「ここで二つ目の5メートル。もうちょっとだ」

「12メートルくらいかな」

「残りは2メートル40センチ」

「高さは13メートル40センチだ!」

ラグレンが大声で叫ぶ

「目の高さを足してないよ」

エレナが指摘する。

「あ、そうだった」とラグレン

「えーと、145センチだから、足すと」

「14メートル85センチ!」

タブレットに長さを書き込むエレナ。


「20メートルくらいあると思ったのに」

思ってたのより低いのでみんな驚いている。

「分度器と5メートルのメジャーで木の高さが測れるって面白い」

「三角定規のおかげだよね」

ラグレンが地面に書かれた三角形を指さす。


「同じやり方で上の地面までの高さも測ろうよ」

カルラが上を見上げながらいう。

全員が上を見上げる。


「分度器を使わなくても測れるよ」

エレナがいう。

「ああ、確かに」

エルネクも方法を思いつく。

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