”盗み”と三人の弟子の場合

道中では様々な苦労があった。

――城に入ったら、まず落とし穴に落とされた。


俺は風魔法を使って壁面に近づき、蹴り上がった。

”鋼”の人は足からジェットを噴射して飛行した。

”毒”の人は落ちて行ったので”鋼”の人が拾っていた。


うちの銀の師匠はゲラゲラ笑ってた。

”鋼”の方はすっごいドヤ顔してた。

”毒”は悔しがって地団太踏んでた。

どうやら見守る方向にシフトした以上、徹底的に採点していく方向になったようだ。

見世物かな?別にいいですけど。


穴から上がってくれば次は巨大鉄球が坂上から転がってきた。

この城を作った人は頭がおかしいに違いないとここで確信した。


俺が砕こうか、と思って前に出る前に”毒”の人が進み出て手袋を外す。

掌から滴る液体を振って線上に飛ばし、綺麗に真っ二つ。

鉄球は俺たちを避けて転がっていった。

”全部溶かすのは大変そうだったので”とは”毒”の人の言だ。


今度は”毒”の師匠がふふーんって顔してた。みんな弟子が活躍すると嬉しいんだな。

”別に砕くんならうちらでも出来たしー”って言う声が残り二人から聞こえた気がする。

まあそれは否定しませんけどね。


坂道は摩擦がほぼなくて登れなかったので俺は壁を蹴って二、三歩で頂上まで到達。

”鋼”の人はあえて飛ばず、性能実験として足から出した杭を打ち付けて歩き上る。

”毒”の人は指から毒を出して穴を開けつつ壁をよじり上った。


――正直不謹慎だと思うけど。

――こういうタイプの違う、レベルの近い人を見るのはとても楽しいと思った。

師匠の方じゃ全然参考にならないもんな。


その後も大小さまざまな仕掛けは続いた。


広場で大量に襲ってくるチンピラたち。

当然単純に全員ボコボコにして返り討ちにした。

ちょっと蹴っただけで壁にめり込むなんて鍛錬が足りないと思う。

”鋼”の人が出した沢山のビームには驚いたけど。


扉が巨大な金庫みたいになってた所。

一枚目、二枚目は普通に”鋼”の人が解き、三枚目で薄くなったところを”毒”の人が溶かして強引に突破した。俺は何も役に立てなかった。


師匠の悔しそうな顔なんて初めて見た。俺まで悔しい気分になった。


部屋全体が水没した部屋。

”鋼”の人は壊れはしなかったけど明らかに動きが鈍くなってた。

”水中用装備はなかったようです”と言っていた。

俺は師匠に3時間ぶっ続けで水中に放り込まれた経験を生かして難なく突破した。


師匠の偉そうな顔はいつも見てるが、今日のは俺まで誇らしい気分になった。


――そうして、やっと俺たちは”盗み”のいるところまでたどり着き――



「はーっはっはっは!よく来たな貴様ら!歓迎してやろう!」


ものすっっっごい、絵に書いたような悪の親玉がいそうなだだっ広い部屋。

その玉座に座っていた。

…暇なんだろうかこの人。


「悪役の城としてはひねりが無い、0点」これは俺の師匠。

「スペースばっかり空いてて無駄、もっと有効に使え」これは”鋼”の師匠さん。

「壁が遠くて外が見づらいし薄暗い、面白くない!」こっちは”毒”の師匠さん。


「うるせーわどいつもこいつもォ!良いじゃねーかこういう城!イカすだろ!」

「「「ないわー」」」

「ハモってんじゃねェーッ!」


玉座をバンバン叩いて抗議している。

……こう、何というか……


「……意外と仲良し?師匠たちって……」

「「「「それは絶対に無い」」」」

「タイミングバッチリで仲良しに見えますが」

「「「「あっはっは、ないない」」」」

「……そうですか……」


俺はこれ以上質問するのをやめた。


「で、大体予想はついてるけどどうしてこんなことをしでかしたんだい”盗み”の」

俺の師匠が気になっていたことを聞きにかかる。


「ふんっ、決まってるだろう…それはな……」

そして飛び出た言葉は。


「――お前らには勝てなくても、その弟子なら勝てるかもしれないだろ……!」

あんまりにもあんまりな情けない代物だった。


「うっわ、なさけな……心底哀れだよ……」

「向上心を失ったものは馬鹿だ、と古文書にもあるぞ」

「くっだらない」

「うるせーわァーッ!」

当然の如く総スカン。


「って言うかそんなこと気にしてたんだ……知らなかったよ……君がそこまで馬鹿だとは……」

凄まじく呆れかえった顔で俺の師匠が見ている。凄い哀れなものを見る目だ。


「馬鹿とはなんじゃい、馬鹿とはァーッ!」

「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いんだい、ばーか」

べー、と舌を出して挑発する師匠。


「ギギギ……貴ッ様ァ……!」

「まあ、ぶっちゃけ俺様も完全に同意だな、馬鹿だよお前、馬鹿」

「何だとォ……」

”鋼”の師匠さんも呆れかえって言葉もないようだ。


「うーん、これは本当に馬鹿、別の言い方をするならアホ!指さして笑ってあげるゲラゲラ!」

「て、テメエらマジで……テメエ……てめえら……!」

”毒”の師匠さんに至っては本当に指差して笑い始めた。


「ま。理由は主に二つ、だが口で言ってもわかんないだろうし」

「ああ、そうさ」

「うんうん、と言うわけで」


師匠たちは端により、見学の体勢に入る。


「「「――後は任せたぞ、弟子」」」


「――はい」

「了解しました」

「お任せを」


三者三様の答えを返し、構える。


「……いいぜ、そんなに言うならやってやろうじゃねえか」

”盗み”さんはやおら立ち上がると無造作に玉座を掴み、背後の窓から捨てた。

ガシャアン!


「泣いて謝ったら許してやるよォ…!」


その音を皮切りに、師匠と並べられる男と、弟子三人の闘いが幕を開けた。



始めに動いたのは俺だった。

付与エンチャント/加速アクセル/対象・肉体ボディ/1min一分!」


風魔法で俺の身体を加速、初手で有利を取る。

――つもりだった。が。


「んーと、付与エンチャント/加速アクセル/対象・肉体ボディ/1min一分、魔法は大して出来ないみたいだなお前」


――俺の詠唱と全く同時に、同じだけの付与をしている――!?

だが、どのみち俺は突っ込むしか能のない奴だ。

加速した足で踏み込み、跳躍――


――鼻に鈍痛。


「ぐ、がっ…!?」

吹き飛ぶ視界。映る”盗み”の身体。振り抜かれた右膝。


――俺が跳ぶより前に跳び膝蹴りを入れられ、まさしく出鼻をくじかれたのだ。

――と気づくのに二瞬を要した。

そしてその遅れは致命的だった。


「遅い、遅い遅い!」

”盗み”の体勢が一回転、後ろ回し蹴りが来る――


「そうは、させません!食らいなさい…!」

”鋼”の弟子がそこに飛び込む。バシャコン。

右手を変形、そこからパイルバンカーを打ち込み――


「――へえ、使う武装は変わんねぇのな”鋼”の奴」バシャコン。

――そして、同時に。


「な…!?」

驚愕、拮抗は一瞬、そして。


ぐじゅり。”鋼”側のパイルバンカー、その切っ先が――


「あ”っ!!!」ガシャァン!

――そのまま”鋼”の右手を打ち抜く。


「あれは、腐食毒…!?クッ…!」

”毒”の掌からは絶え間なく霧が噴出しているが――


「おおっと、そんな程度の毒霧じゃあ俺には効かねえ、よっと!」

「ぐおっ…!」ドガァン!


――意に介した様子も無く蹴りを入れ、”毒”の身体が転がる。

辛うじてガードはしたみたいだけど…!


「くっそ、これ、どういう事だ…!?」


――なんだこの人は、何がどうなってる。


「へっ、何を驚いてやがるよ。俺の通り名は”盗み”」

ガション。右手を戻し、俺に向きなおってくる。


「どーにも俺には才能がねェからよォ~、他の奴らから盗むしかねェ、それも完全じゃないがな…ムカつくぜ」

歩きながら”盗み”は呼吸をする。

あれは――闘気を回す呼吸……


「――”調息”!?」

つまりは俺の師匠の得意技、って言うかさっきの攻防まだ闘気を使ってなかったってことは――


「ヤバイ…!スゥ…」

――次の攻撃は、さっきより強く、そして速い。

急いで俺も”調息”をしようと――


「判断が遅ェ!」ゴッ!

「ゲッ、は…!」


――右フック、ボディに入れられた。

――息が、吸えない……!不味い……!


「初手の選択を誤ったなァ~加速するより先にこっちをするべきだった!」

更に続けて右膝、左フック。続けざまに入れられる。


――徹底的に腹を狙われてる。一呼吸の間が無い。

このままじゃ不味い、離れなきゃ――


ドンッ。地面を踏み抜く。

残った加速に任せて後ろに跳ぶ。距離にして10mぐらい――


「――ま、そう来るよな」

「――え?」

――離れたと思った、のに気が付いたら目の前に――

俺の動きに合わせて向こうも跳んで――!


「駆け引きが甘ェ、甘すぎるッ!」ドッ、ゴォン!

「グ、ガッ――!!!」


勢いの乗った右サイドキック。深々と俺の身体につき刺さる。これもまた腹に。


成す術も無く俺は吹き飛び二、三回転。壁に叩きつけられる。


「がっ、は…」

膝をつき、何とか倒れるのは防ぐ。だが、これは――


「甘いぜ、甘いぜ。甘すぎるぜお前ら」

ほんの10秒程度で、俺たち三人は満身創痍になっていた。


「――得意分野で上回られる、なんて考えた事も無かったってェ面してやがるぜ。


――何だと?今、この男は何と言った。


「言ったじゃねェか、俺の通り名は”盗み”。色々盗んだが、一番盗んできた物は――」


――才能が無い、と師匠たちは口をそろえて言った。だが――


。俺には無い、沢山の技術」


――弱い、とは一言も言わなかった。言っていなかった。いや、言えなかったのだ。


「上回れはしねえ、完全に”盗み”切れもしてねえ」


――ともすれば、この人は数いる師匠の中でも。

もしかしたら一番強くて、それでいて貪欲に、一番成長するのかもしれない。


「だが組み合わせるぐらいは出来る。”鋼”のパイルバンカーに”毒”の腐食毒を塗り付けたりな。当然対毒コーティングもばっちりだ」


――これが、師匠たちのレベル。

――これが、”盗み”…!


「まあ、ひよっこのお前らが覚えた程度ならこんなもんだ。同じ分野で上回るなんざ造作もねえ」

”盗み”は師匠たちの方を向き、聞く。


「なァおい、これでもまだ”馬鹿”だって言うかオマエら。テメーラの弟子は無様をさらしているぜ」


――歯牙にもかけられてない。


「んー?ああ、言うさ、言うとも」

「そうだなあ、よく見ろよ」

「そうそう」


――ムカついた。

――勝てるか、なんてわからないが。


「あぁん…?」


――舐められたまま、終われるか。


「――僕らの弟子たちは、まだ諦めてないよ」


――そんなわけ、無いじゃないか…!


立ちあがる。

呼吸を整える。

へし折れたあばらを直していく。


――注意を師匠たちに向けてくれた時間で、どうにかカッコはついた。


見ればそれは他の弟子たちも同じなようで。


”鋼”の右手は換装され、身体に不釣り合いなほど大きな右手が付き。

”毒”は霧を噴出するのを止め、目を血走らせていた。


「――へぇ、少しは楽しませてくれそうじゃねェの……」


――わかった事はある。

この人に、俺たちは個人の分野じゃ敵わない。今はまだ。

――だったら。


”鋼”と”毒”の二人と目配せをする。

向こうも同じ腹つもりのようだ。


――俺たち、”三人”で勝つしかない。


「――良いぜ、来いよ。甘ちゃんども」


”盗み”の方は余裕たっぷりに待ち構える。

そうするだけの実力と余裕がある。

――そもそも、恐らく彼は本気を出すつもりもないだろう。


――だからこそ、つけ入るスキがあるはずだ…!



――”盗み”の極意。それは”見る”事。


向きなおった三人の弟子。

それを一人一人、改めて”見て”分析していく。


「おおおお…!」

――”銀”の弟子。


闘気と風魔法、それと体術に絞って教えられてる。

”銀”の奴本人は正しく武芸百般と呼ぶにふさわしいが、こいつはそうでもない。


「シッ、ハッ、フンッ…!」

だが絞られてる分熟達が深い。


体術、拳法、それを活かしきる闘気の練り。

特に徹底的に闘気に関して教えられてるな。量が多く、質が良い。

毎日骨でも折られてるのか?ってぐらいだ。


――この三つに関しては正直に言って、俺の模倣できてる範囲ギリギリだ。

これ以上伸びれば俺じゃ真似しきれなくなる。初手は上手い事スキを突いただけ。

三人の中で一番完成度が高く、面倒なやつだ。


「食らいなさい…!一発位当たれ…!」

――”鋼”の弟子。


全身武器庫、アイツにしては何か武装の乗せが甘いが。

何か理由でもあるのか?

弟子を”造る”としたらアイツならもっと滅茶苦茶やると思ってたが。


「この…!」

現在の武装は換装した右手、ガトリング。

脚部のジェット噴射でホバー移動、間合を保ってくる。

左手にもまだ何か隠してる。この感じだと一発がありそうな武装くさいな。


反面、それ以外はさほどでもない。

体術などした事も無かろう。膂力に任せた動きばかりだ。

一番面倒なのは、三人の中で一番硬いという事。

落としきるには手間がかかる。

向こうもそれをわかってサポートに徹している節がある。

言動に反した冷静さと自らの強みをわかっている動き。

派手さはないが、なかなか厄介だな。


「さてはて、言うだけはありますね…!」

――”毒”の弟子。


毒の特異体質。

身体の汗腺から何処でも毒を噴出でき、恐らく今までに身体に取り込んだ事のある毒を生成できる。


――と言う事は、実質的にこいつだけ”毒”の奴の毒をフルで使えるに等しい。

少なくともその可能性がある。

そう言う意味では絶対に目が離せない。

アイツの毒に本気で来られたら対毒コーティングを抜かれる可能性は大いにある。


だが、それ以外は特に見るべき所はない。

多少の体術と闘気。

この二つは落第点だな、まあ”毒”の奴はそんなもん出来ないから独学だろうが。

だが、上述の事からこいつからは目を離したくない、あるいはさっさと倒すか。


――そうだな、完成度で言えば”毒”が一番未完成だ。

こいつから落としにかかるとするか。


頭の中で優先度を決め、その通りに動く。


「オ、ラァ!」ベキッ、ベキン!

「ぐ、ああ…!」


”毒”の奴をガードごと殴り飛ばす。両手をへし折った感触。

まずは一つ――


「――ッ、これを…!」

吹き飛び際、一滴の雫を飛ばす。何だ…?


「おう!任せろ!」

見ればそれを”銀”の奴が口に――不味い!あれは毒じゃない…薬だ!


「させるか…!付与エンチャント/加速――」

「そう来ると、思っていました…!」


レベルを合わせた詠唱、その最中に”鋼”のが割り込み、左手の兵器。

ドッッッ!!!左腕が跳んでくる。ロケットパンチ…!


「チィ…!」

咄嗟にブリッジ、バク転一回転。

ロケットパンチは俺の腹上を跳びさり、そのまま壁につき刺さり紙のように粉砕した。


「――危ねェーじゃねーか!」ドカン!

「ッぐぅ…!」

言いながら顔に左裏拳。

当てて体勢を崩す、が雫を止めるには間に合わねえ…!

上手いこと時間を稼がれた!


ぱくん。口の中に雫が入っていく。

”銀”の奴に飲ませる、薬、と言う事は即ち。


「う、おおおおおおおお…!なんだこれ…!体が…体が熱い…!」

「ぐはっ…上手く…行きましたか」


この反応、やはり…!

「――肉体強化、いやそれだけじゃない…反応速度もか!」


「ご明察…ゲホッ、後は頼みましたよ…」

そう言って”毒”の弟子は倒れた。

だがこれは…してやられたな。


「良し、何とか通りましたか…」

「――お前が立案したか、”鋼”の弟子ィ…」

「――ええ。”銀”の彼が一番貴方に対抗できそうだったのでね…」


――”毒”が薬を使うチャンスを伺い。

――”鋼”がそのチャンスを拾い。


「――これが、最終局面、って奴です」


――”銀”を強くし、俺にぶつける。


「なるほど、少し甘く見てた」


――甘ちゃんは俺の方だったか。

だが。


「だが、それも全て、貴様が俺に”勝てたら”だ……」

「ええ、勝ちますよ俺は」

「ハッ、言うじゃねェか…!」


「――付与エンチャント/加速アクセル/対象・アームレッグ神経ニューロ/二倍ダブル/10s十秒…!」


普通に使うには考えられないぐらいの負担の大きな詠唱。

ここで決めるつもりか。


「…ハッ、付き合ってやるよ。付与エンチャント/加速アクセル/対象・アームレッグ神経ニューロ/二倍ダブル/10s十秒、ってなァ!」


瞬間、空気がどろりと歪んだ気がする。

高速思考とそれについてこられる手足。

それに置き去りにされる世界と空気がまとわりつく感覚だ。


――まず、俺は距離を取った。

”銀”の奴が驚く。

高速戦闘では漏れる声すらも遅い。

ただ思考だけが流れていく。


俺は左手のガトリングを展開、射撃。

俺はともかく、向こうはそう長くはもたん。

となれば時間を稼ぐ方がいい。


――そう思ったのだが。


ドッッッ!

”銀”の奴は迷うことなく踏み込み。


――ギリギリで銃弾を躱す。躱しきれない物は食らいながら突き進んでくる!

失策に気づいたのは、懐に潜り込まれてからだった。


コンパクトな右アッパー。

避けきれず俺の左手が粉砕される。


――これは覚悟の上だ。必要経費と割り切るしかねえ。

ここからは接近戦クロスレンジの打ち合いになる…!


俺、左足を踏み込む。”銀”の右足を狙う。

”銀”、右を半歩下がり回避。

俺、踏み込んだ体勢から右ストレート。

”銀”、しゃがみこみ頭を掠る位のぎりぎりを踏み込んでくる。

俺、外した右を上から振り下ろす。右肘打ち。当然狙いは脳天。

”銀”、モロに食らう。だが耐えやがった。食らうことを覚悟してたか。

目と目が一瞬合う。”お前には負けない”と言う目だった。

そのまま”銀”の右手が俺の腹に軽く添えられる。


――あ、まずい。

この体勢は腕も無いくせに、いや腕が無いからこそ師匠の”銀”が一番得意としている――


「――――ッ、ら、あ、あああーッ!!!」メ リ ッ 。

「ッ、ぎ、あ、あ――――」


寸勁、即ちワンインチパンチ。

それを俺はモロに食らい。


「あ、ぎ、ゃあああ―――」


ド ガ シ ャ ア ン !!!


加速した世界の中で、窓を貫きながら俺は吹き飛ぶ。

途中で加速が切れ。


「――お、お、覚えてろよぉ~~~ッ!!!」


――忘れずに捨て台詞を吐き、そして空の彼方へ吹き飛んでったのだった。



「――はっ、はっ、はっ、はっ……」


ドッ、っと汗が噴き出る。

呼吸が安定しない。

暫く撃った体制のまま動けなかった。


「……か……勝った……?」

「うむ、よくやったぞ我が弟子」


気づいたら師匠が後ろに立っていた。

未だかつてないほど優しい顔をしていた。


「あ……ししょ、」

一歩歩こうとしたら、がくんと身体が傾く。


「おっと」師匠がそれを肩でキャッチ。

「あ、あれ…上手く、立てません」

「当たり前だ、あれだけ無理を重ねればそうもなる」


そのまま、何故か腕も無いはずなのに撫でられる感覚がする。


「だが、よくやったぞ我が弟子よ」

「……あ、りがとう、ございま……」


そのまま俺は、あっという間に意識を手放した。



「……全く、”盗み”の奴め」

――本当に馬鹿なやつだ。僕の弟子に勝てるとでも思ったのか。

それに、お前は本当に僕らに勝てないとでも思ったのか。


「……本当に、馬鹿なやつだ」

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