そのころの”盗み”

――元・暴走族の住処。

――元・クレーターの刻まれた大地。


そして、現・綺麗に綺麗に、馴らされた何でもない荒野の平地。

――正確には、そう直された大地。


「ウケケケケ…”緩解”ちゃんの仕事が確かなのはよくわかってるからなァ…」


――そこに”盗み”と称号のつけられた男は立っていた。

バンバン。かかとで地面を叩き、その仕事ぶりを確認してから。


「――良し、ここに拠点をぶったてんぞ野郎どもォ~ッ!」

「「「ヒャッホーイ!」」」


背後に居並ぶチンピラどもに宣言をする。

どいつもこいつも”奴ら”に痛い目を見せられた奴らばかりである。

――広義で言えば俺もそうだが。


「でも”盗み”の兄貴ィ、いきなりこんな所で拠点ッたって資材も何も…」

「バァ~カ、テメェ~俺がなんて呼ばれてるかわかってんのかァ~?」


俺はズボンのポケットに手を突っ込み、中から適当にいくつか掴んで――


「んなもん幾らだって盗んで溜めこんでんだよォ~ッ!」


バ ラ ッ。無造作に投げる。

ポケットから出れば巨大化させ、盗み出した大量の資材が散らばる。


「――す、凄ェぜ…!これが…」

「んーと、木はいらん、鉄使え鉄。後は人出だな…確か昔に…」


確かポーチの方にしまっておいたはずだな。”あいつら”関連の物は。

少し漁れば”鋼”とラベリングされたポーチが出てくる。


「えーいしょっと、ほいこらしょっと」ボウンボウン。

その中から小型の機械兵、手先の器用なやつを選んで出しておく。

戦闘に使えるようなもんじゃないが、こういう時は役に立つ。


「よーし、とりあえず設計図通りに組んでけ!工房部分は特に手を抜くんじゃねェ~ぞ!」

「アイアイサー!」『キュー』


トンカントンカン。

マンパワーに任せて組み上がっていく俺の城を見ながらほくそ笑む。


「クッククク…なぁ~にが”列強師伯会”だァ…都合のいいルール作ってくれちゃって…」


――”師匠”側は暴力禁止だとォ…?

――つまりそれは、”奴ら”をぶっ飛ばせるチャンスってわけじゃねェ~か!


「クーックククク…あのくそボケどもがァ…!いつもいつも、『才能ねえんだよボケが』とか言いたい放題言いやがってェ…!お前らがおかしいんだよ…!」


――調べたところによれば、今弟子と言える奴を取ってるのは”銀”、”鋼”、”毒”。

こいつらに対して徹底的に嫌がらせしてやる…!


「あの才能マンの集まりがァ~…!『永く生きてるだけ』とかマジで傷つくんだぞ…!ぜってえ謝らせてやる…!」


――”盗み”。弟子はまだない。

種族、ダークエルフ。長命種。

だがいくら永く生きようが他の”奴ら”と比べると才能はない男。


――特技は盗むこと。

性格、プライドだのなんだのはまるでないドチンピラ。

それ故に他の”奴ら”に牙を向ける男である――

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