第11話(最終話) 空へ

 そこには、牛乳屋のマークさん、ジェニーさん夫婦とその10人の子供たち、そしてレストランのミルコシェフをはじめとして、ほとんどの村人が集まっているようでした。いいえ、村人だけではありません。隣町の人々もたくさん集まっていました。


 牛乳屋のマークさんが言いました。

「ハヤト、今日は村の人たちみんなで君を応援しにやってきたよ。村の人たちは、君が毎日がんばっている姿をちゃーんと見ていたんだ」


 ハヤトはとても驚きました。


 牛乳屋のマークさんが言いました。

「ハヤト君、君ならきっと飛べるよ。だって君は、ひどい嵐の中でも牛乳を配達したじゃないか。そんなことのできる人をわたしは君以外に知らないよ」


 ジェニーさんが言いました。

「ハヤトさん、あなたならきっとできるわ。なぜなら、あなたは私の10人もの子供を1人も泣かさずにきちんと面倒をみることができたのだから。たった1人でそんなことができる人を初めて見ました」


 ミルコシェフが言いました。

「がははは、ハヤト君、わしも今日は店を休みにして応援にきたよ。君なら大丈夫、きっと飛べる。だって、いっぺんに何十人もの注文を覚えて一つも間違えずにお客さんに料理を出して、さらにお客さんが食べ終わった後のたくさんのお皿を、あっという間に洗ってしまうなんて、わしは本当に驚いたよ」


 そして、みんなが言いました。

「確かにこの村には、今まで空を跳んだことのある人間は一人もいない。でもきっと君ならできる! なぜなら君はこれまで誰もやったことのないことをいくつもやってきたのだから!」


 アベルとルキアがやってきてハヤトに言いました。

「ハヤトさん、私たちもあなたなら必ず飛べると信じます。もう一度やりましょう! 僕たちのお母さんを助けることができるのは、ハヤトさん、あなただけです」

 そう言ってアベルとルキアはハヤトに、ゴーグルと手袋を手渡しました。


 このとき、ハヤトは、自分がこんなにもたくさんの人たちに期待され、応援されていること、そして必要とされていることに初めて気が付きました。


 最後に長老さんが言いました。

「ハヤト君、私がまだ若かったころ、実は君と全く同じことを考えていたんじゃよ。あの空を飛びたいとね。私にはその夢を叶えることはできなかったが、君ならきっとできると私も信じている。ハヤト君、どうか私の夢も一緒に叶えて欲しい」


 みんなの言葉を聞いたハヤトは、胸の鼓動が急に速く、そして力強く高鳴り始めたのを感じました。それはどんどん激しさを増してゆき、ハヤトの体全体を熱く震わせるものになりました。ハヤトの顔からはいつの間にか怯えや迷いの色が消えていました。


「長老さん、マークさん、ジェニーさん、ミルコシェフ、そして他の村の人たちや、隣町の人たちも、応援に来てくれて本当にありがとう! そして、これまで飛行機づくりに協力してくれたポール博士、アベル、ルキアにも心から感謝します!」


 そう言うとハヤトは、急いで飛行機に乗り込みました。ハヤトの目に凛とした光が宿っていました。


 ハヤトは、心の中で、僕ならできる! 必ず飛べる! と自分に何度も言い聞かせながらペダルをこいで丘の頂上へと向かいました。頂上に着いたハヤトは、手袋をもう一度はめ直すと、ゴーグルとヘルメットをちゃんとかぶれているか、緩みがないかどうかを確認しました。


「よしっ、行くぞ!」


 みんなが見守る中、ハヤトは、思い切りペダルを踏み込みました。


 ハヤトは、ぐんぐんスピードを上げて丘を駆け下りて行きました。

 みるみるうちに崖が近づいてきましたが、これまでと違ってハヤトはペダルをこぐ力を決して緩めません、それどころか崖が近づけば近づくほどさらにより力強くペダルを踏み込みました。


「うおおおお!!」


 ハヤトは無我夢中で叫びながら崖に向かって突進し、ものすごい勢いで崖から飛び出しました。


 その瞬間、ハヤトの乗った飛行機は崖の下から吹き上げる風に乗って一気に空に舞い上がったのです。


「わあー!」


 丘の上に集まっていた人たちが、一斉に歓声を上げました。


 ハヤトは、とても信じられない思いでした。


「村の人たちや隣町の人たちがあんなに小さくみえる。ああ、僕は本当に、本当に空を飛んでるんだ! ありがとう、ありがとう、みんな!」


 ハヤトは大勢の人たちに勇気をもらって初めて空を飛ぶことができたのです。


 その後ハヤトは、アベルとルキアとの約束通り、飛行機に乗ってカストーナにわたり、アベルとルキアのお母さんに薬を無事届けました。


                                おしまい

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