第10話 足りないもの

 ハヤトは呆然として飛行機のそばに立ちすくみました。


 それまでハヤトは、飛行機さえあれば空を飛べると思っていました。でも実際にはそうではありませんでした。


 確かに、空を飛ぶためには飛行機が必要です。しかし、それだけでは空を飛ぶことはできません。


 空を飛ぶにはもうひとつ大事なものが必要だったのです。


 もうひとつ大事なもの、それは勇気です。今のハヤトにはその勇気がありませんでした。


「やっと、やっと空を飛べると思ったのに……」


 ハヤトは飛行機のそばでうずくまり、1人で泣いていました。


 するとそのとき、前の方からハヤトを呼ぶ声がしました。


「ハヤト君」

 ハヤトが顔を上げると、そこに村の村長さんが立っていました。


「ハヤト君、とても立派な飛行機ができたようですね」


 ハヤトは涙を拭きながら答えました。

「はい、長老さんがいろいろと親切に教えてくれたおかげです」


「いやいや、わしは知っていることを教えただけじゃよ。それにしても、こんなに素晴らしい飛行機が完成したのに、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているのかな?」


「飛行機はできましたが、空を飛ぶことはできないからです」


「飛べない? それはどうしてかね?」


「私はどうしてもこの飛行機に乗って崖の上から飛び出すことができないのです」


「そうか、それは勇気が足りないのじゃな」


「長老さん、教えて下さい! どうすればもっと勇気を持つことができるのですか?」

 ハヤトは目に涙を浮かべながら言いました。


 すると、長老さんは優しく微笑みながらこう言いました。


「ハヤト君、君の後ろをご覧なさい」


 ハヤトが振り向くと、どういうわけかそこにはたくさんの人々が集まっていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る