第8話 双子の鍛冶屋

 ハヤトは、自分の村だけでなく、隣の町も駆け回って、飛行機づくりを手伝ってくれる鍛冶屋さんを探しました。


 しかし、どの鍛冶屋さんも、「飛行機の部品だって?そんなもの今まで作ったことがないよ。こっちは忙しいんだ。他をあたってくれ」と言って相手にしてくれませんでした。


(村や隣町に住んでいる全ての加治屋さんにも頼んでみたけど、みんなに断られてしまった。どうしよう)


 ハヤトが困り果てていると、道の向こうから村の長老さんが歩いてくるのが見えました。


「こんにちは、ハヤトくん、とうしたんだい? 何か困っているようだね?」


 ハヤトは、やっとお金がたまり、材料を買い揃えたこと、しかし、その材料から部品を作ることのできる鍛冶屋さんが見つからないことを話ました。


「うーん、鍛冶屋さんねえ……おっそうだ! あの双子の兄弟なら君を助けてくれるかもしれないな」


「双子の兄弟?」


「そうじや、今、村の東の浜辺の方にいるはずじゃ」


 ハヤトは長老さんの言う浜辺に行ってみました。


 するとそこには、長老さんの言う通り、見た目がそっくりの2人の男の人が、浜辺に打ち上げられている船のそばにいました。


 ハヤトは彼らのところに行って話しかけました。


「こんにちは、私はむこうの村に住むハヤトという者です」


「こんにちはハヤトさん、私の名前はアベルです。向こうにいるのが双子の弟のルキアです。私たちに何かご用ですか?」


「ここで何をしているのですか?」


「私たちが乗ってきた船の修理をしているのです」


「船? 船でやってきたということは、あなたたちは外国の方ですか?」


「そうです。私たちの家はこの海の向こうのカストーナという国にあります。私たち兄弟はそこで鍛冶屋をしています」


「鍛冶屋ですって!?」


 ハヤトは長老さんの言葉を思い出しました。


(長老さんは、この人たちが僕を助けてくれるかもしれないと言っていた。長老さんはこの人たちが鍛冶屋だということ知っていたに違いない。でもこの人たちが飛行機づくりを手伝ってくれるだろうか?)


 ハヤトはアベルに聞きました。


「どうしてカストーナを離れてここにいるのですか?」


「私たちは船に乗ってカストーナのずっと北にあるヘランという国に行ってきたのです。そしてヘランからカストーナに帰る途中で嵐に会い、船が壊れてしまい、なんとかこの村の海岸にたどり着いたのです」


「なるほど、それで船の修理をしていたんですね」


「そうです。とにかく私たちは一刻もはやくカストーナに帰らなくてはならないのです」


「何かあるのですか?」


 ハヤトが尋ねると、アベルはポケットから小さな小瓶を取り出しました。


「これはヘランで手に入れた心臓の病気を治す薬です。私たちはこの薬を早く私たちの母の元に届けなければなりません。母は心臓の病気にかかっていて、その病気を治すためにはこの薬が必要なのです。この薬はヘランにしかないので、私とルキアが船でヘランに行って、やっとこの薬を手に入れたのです。カストーナでは、私たちの妹が母の看病をしながら、私たちの帰りを待っています」


 それを聞いたハヤトは、すぐにアベルに言いました。


「アベルさん、そういうことなら私も船の修理をお手伝いましょう」


「本当ですか? それはとてもありがたい! ありがとう、ハヤトさん」


 アベルは大変喜びました。


 そのとき、船の中からルキアの声が聞こえました。


「アベル兄さん、大変だ、ちょっと来てくれ!」


 アベルとハヤトは船の中に入ってルキアのいる船底に降りて行きました。


「どうした? ルキア、何をそんなに慌てているんだ?」


「兄さん、これを見てくれ」


 アベルがルキアの指さす方向をみると、船底に大きな穴がいくつもあいているのが見えました。


「これはひどい」


「兄さん、これじゃ直すのに何ヵ月もかかってしまうよ」


「それでは間に合わない、母さんは今すぐにでもこの薬が必要なんだ」


「じゃあ、どうするんだよ、兄さん!」


 アベルがハヤトに尋ねました。


「ハヤトさん、この村にカストーナまで行くことのできる大型の船はありませんか?」


 しかしハヤトは、この村にそんな大きな船があるなんて聞いたことがありませんでした。


「アベルさん、残念ですが、この村にはそのような船はないと思います」


 ハヤトがそう言うと、アベルとルキアは肩を落とし、その場に座り込んで頭を抱えてしまいました。


 そんな2人の姿を見ていたハヤトに、あるアイデアが浮かびました。


「アベルさんとルキアさん、私と一緒に飛行機をつくりませんか?」


「ヒコウキ? 何ですかそれは?」


「空を飛ぶための乗り物です」


「空を飛ぶだって?」


「そうです。飛行機があればどこにでも自由に行くことができます」


「その飛行機を作って何をしようというのですか?」


「もしもあなたたちが飛行機づくりを手伝ってくれたのなら、私がその飛行機に乗ってカストーナに行き、その薬をあなたたちのお母さんに届けましょう」


 アベルとルキアは互いに顔を見合せました。


「どうしょう、兄さん?」


「ふーむ」


 アベルとルキアは迷いました。アベルがハヤトに聞きました。


「人間が空を飛ぶなんて本当にそんなことができるものかな?」


「僕とポール博士が設計した飛行機なら大丈夫です」


 今度はルキアが聞きました。

「その飛行機を作るための材料はあるのかい?」


「もちろんです、必要な材料は全て揃っています」


 再びアベルが聞きました。

「そもそも私たちは飛行機の部品なんてこれまで作ったことがないのだが」


「このあたりに住む鍛冶屋さんもみんな作ったことはありません。だからみんなに断わられました。でも、飛行機を作るためにはどうしても鍛冶屋さんの力が必要なのです」


 アベルは少し考えて答えました。

「分かりました。ハヤトさん、あなたに協力しましょう」


「本当ですか!」


「ええ、ただし一度だけです。一度やってもし失敗したら、私たちはまた船の修理に戻りますが、いいですか?」


「はい、それで構いません!」


「よしっ! そうと決まれば、今からすぐに取り掛かりましょう!」


 ハヤトは、アベルとルキアを連れてポール博士の家に行きました。


 アベルとルキアの兄弟は、ポール博士と挨拶を交わしたあと、まず、ポール博士の家の庭に小さな炉を組み立てました。


 そして兄弟は、その炉で材料を溶かし、ハヤトが設計した飛行機のさまざまな部品を次々に作って行きました。


 実は、アベルとルキアの兄弟はカストーナで一番の鍛冶屋さんだったのです。彼らの手にかかれば作れない物はないと言われるぐらいの腕前でした。


 アベルとルキアの兄弟は、ハヤトが設計した部品を寸分の狂いもなく、正確に作りました。


「すごいぞ、どの部品もきちんと寸法通りにできている。これなら大丈夫だ」


 ハヤトとポール博士は、それらの部品を一つ一つ組み立てていきました。

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