第6話 4つの仕事

 次の日から、ハヤトは、自分の畑の仕事の他に、牛乳配達と、子供の世話と、レストランのウェイターと皿洗いの仕事を始めることにしました。


 ハヤトは朝4時に起きて、まず牛乳屋のマークさんの所に行きます。


 マークさんのお店では、しぼりたての牛乳の入った牛乳瓶を箱一杯に敷き詰め、その箱を何段にも重ねて自転車の荷台に載せます。そして、その自転車に乗って村中を回り、注文を受けた家に牛乳を配ります。


 牛乳配達が終わると、急いで家に戻って畑仕事をします。


 畑仕事が終わると今度はジェニーさんの家に行って、ジェニーさんの子供の世話をします。


 そして、ジェニーさんの家での仕事が終わると、今度はミルコシェフのレストランに行ってウェイターと皿洗いの仕事をします。


 新しく3つの仕事をするようになってから、ハヤトにとって毎日が目のまわるような忙しさでした。


 ある朝、ハヤトが目を覚ますと外は大雨で、しかもものすごい風が吹いていました。


 牛乳屋のマークさんは、こんな嵐の日に牛乳を届けに外にでるのは危険だよ、今日は休みにしようと言いました。


 でもハヤトは、牛乳がないとジェニーさんの赤ちゃんたちがお腹をすかしてしまうし、ミルコシェフのレストランでも料理が作れなくなって困ります。きっと他の村の人たちもみんな牛乳を飲みたいと思っているはずですと言って、嵐の中、自転車に乗って牛乳を配りに行きました。


「こんな嵐に負けてたまるか!」


 ハヤトはそう思いながら全ての牛乳を配り終えました。


 ずぶ濡れになって帰ってきたハヤトをみたマークさんは、いやはや、お前さんはたいしたもんだよ、こんなひどい嵐の中を牛乳配達した者なんていままで見たことも聞いたこともないと言って驚いていました。


 ジェニーさんの夫のカールさんは、村の診療所のお医者さんです。そして、ジェニーさんはそこで看護婦さんをしています。


 村には診療所が一つしかないので、カールさんもジェニーさんも仕事を休むわけにはいきません。お医者さんと看護婦さんがいないと村の人がみんな困ってしまうからです。


 そこで、ジェニーさんは子供の世話を、これまでいろいろな人にお願いしてきました。


 しかし、子供の世話をした人たちはみんな、あまりにも大変だといって、すぐに辞めて長続きしませんでした。


 実は、ジェニーさんの家には、五つ子の赤ちゃんの他に5人の子供がいたのです。


 ハヤトはカールさんとジェニーさんが帰ってくる夕方まで五つ子の赤ちゃんと、他の5人の子供の面倒をみなければなりませんでした。


 あるとき、突然五つ子の赤ちゃんたちが一斉に泣き出し、さらに他の5人の子供たちまで一斉に泣き出してしまったことがありました。


 10人の子供たちは、みんな本当はお母さんのジェニーさんに会いたいのを我慢していました。だから、我慢できずに1人でも泣き出してしまうと、その子につられてみんなが泣いてしまうのです。


 これまで頼んできた人は、こうなるともう手がつけられなくなって、仕方なく診療所からジェニーさんを呼んできていました。


 しかし、ハヤトは、たとえそんな風に子供たちが泣いてしまっても、決してジェニーさんのところには行きませんでした。


 ハヤトはそんなとき、村の人たちの百面相をして楽しそうに踊ります。


「ほーら、ほら、ほら不思議だな。百面相だよ、不思議だな。ここにいるのは、ここにいるのは、村長さん、ほい!」


 ハヤトが歌いながら顔真似をすると、さっきまで泣いていた子供たちが一斉に笑いだします。


「キャハハ!」


 そして五つ子の赤ちゃんたちがうれしそうに手足をバタバタさせ、ハヤトと一緒に踊りだします。


 心配になってこっそり様子を見に来ていたジェニーさんは、子供たちが楽しそうにはしゃいでいるのを見て驚きました。


「一度泣き出したら、私の顔を見るまでは決して泣き止まなかったあの子たちが、ちゃんと泣きやんで、しかもあんなふうに楽しそうにしているのを初めてみたわ」


 ミルコシェフのレストランでのハヤトの仕事は、お客さんから注文をとり、ミルコシェフが作った料理を運び、お客さんが食べ終わった後のお皿を洗うことです。


 ある日、ミルコシェフのレストランに普段の何倍もの数のお客さんがやってきました。


 その日は、村で年に一回開かれる花火大会の日で、隣の町から大勢の人が花火を見にやってきていたのです。


 お客さんたちは、次々にいろいろな料理を注文してきました。


「カレーライスちょうだい!」


「私はオムライス!」


「ぼくはハンバーグとオレンジジュースをお願い」


「わしはチキンカツとナポリタンにしよう」などなど。


 ハヤトはお客さんたちから言われたたくさんの注文を全部頭で覚えました。


 そして、それらの注文を一つも漏らさずミルコシェフに伝え、できた料理を間違えずにお客さんに持っていきました。


 さらに、ハヤトは、注文を聞き終えると、食べ終わったお客さんのお皿を急いで流し台に運んで皿洗いをしました。


 お客さんが多いので、流し台はすぐにお皿で一杯になり、天井に届きそうでした。


 でもハヤトは、なんの、これぐらい! と言って、ものすごいスピードでお皿を洗い、きれいになったお皿をミルコシェフのところに持っていきました。


 そんなハヤトの仕事ぶりを、ミルコシェフは驚きの目で見ていました。

「一度にあんなにたくさんの注文を覚えて、一つも間違えずにお客さんに料理を運んで、しかも、食べた後のたくさんの皿も、こんなに速くきれいに洗ってしまうとは……今までいろいろな人に働きにきてもらったが、こんなにテキパキと仕事をする若者は初めてだ」


 こうしてハヤトは来る日も来る日も忙しく働きつづけました。体が疲れてヘトヘトになることもありましたが、決して弱音をはくことはしませんでした。


 そうして疲れたとき、ハヤトは自分でつくった飛行機で空を自由に飛び回っているところを想像しました。すると不思議なことに体が軽くなり、再び仕事をする力が沸いてきたのです。


 一生懸命に働いたおかげで、ハヤトのもとにはお金がどんどん貯まっていきました。ハヤトが働けば働くほど、お給料がどんどん増えていったからです。


 牛乳屋のマークさんからお給料をもらうときのこと、


「ハヤト君、ご苦労様、はい、これ今月分のお給料だよ」


「ありがとうございます。あれ?マークさん、なんだかお給料がいつもより多くありませんか?」


「そうだよ、君のお給料を増やしたんだ」


「どうしてこんなに頂けるのですか?」


「村の人たちからの注文が増えたからさ。君はたとえどんなに雨が降ろうが、風が吹こうが、いつもきちんと牛乳を届けてくれるからね。村の人たちみんなが私の所から牛乳を買いたいと言ってきたんだ」


 また、ジェニーさんからもらうお給料もいつもの2倍になりました。


「どうしてこんなにたくさん頂けるのですか?」


「あなたが子供たちの面倒をみてくれるようになってから、私は看護婦の仕事に専念できるようになりました。おかげで主人も医者としての仕事がやり易くなり、今まで以上に多くの患者さんを診ることができるようになったのです。私たちはあなたにとても感謝しています」


 ミルコシェフからもらうお給料もどんどん増えていきました。


「こんなにたくさん頂いていいのですか?」


「気にすることはない。君のおかげで、あの花火大会があった日から、隣町からのお客さんが増えたんだよ。君は隣町ではちょっとした有名人らしい。どんなにたくさんの料理を注文しても絶対に間違えないすごいウェイターがいるってね。君を目当てにやってきたお客さんは、とにかく料理をたくさん注文するからね。おかげで商売繁盛というわけさ、もちろん、わしの作る料理がおいしいというのもあるけどな、ガハハハ!」


 こうしてハヤトは飛行機の材料を買うためのお金をどんどん稼いでいきました。

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