伝説的放送事故。
※山市「」二宮『』
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『……耐震工事の終了は年度末となっています。以上で放送を終わ──』
「終わるのはまだ早い!」
『ここからはオレたちカードゲーム部の時間だ!』
『えっ!? なんでここに!? っていうか今放送中だよ!?』
「大丈夫。ちゃんと許可はもらっている」
『オレたちカードゲーム部のおかげで暖房器具の持ち込みが認められた功績を讃えて部活動紹介の時間が与えられたのだ!』
『え!? そんなの部長の私が知らないんだけど!?』
「まあそこは気にすんな。突然だがここでお便りのコーナー!」
『我らが部長、泉ちゃんに宛てられたメッセージをここで紹介するコーナーだぞ』
『突然コーナー始まったんだけど……これ大丈夫? あとで怒られたりしない?』
「安心しろ。大丈夫だ」
『怒られるときはみんな一緒だからな』
『全然大丈夫じゃないよ!?』
『今これを聞いている生徒も、みんなの妹、泉ちゃんに聞きたいことがあったら、ハッシュタグ、泉ちゃんに質問、でつぶやいてくれ』
「ちなみに勉強以外での携帯の使用は許されてないから、先生にバレないようにな!」
『我が部は一切の責任を負いかねるぞっ☆』
『無責任すぎるよ!?』
「それでは、まずは前もって先日、部室棟で募集していたお便りから」
『いつの間に!?』
「いずみんネーム、泉たんまじ天使、からのメッセージだな」
『いずみんネームって何!?』
「“泉たん、こんにちは!”」
『こ、こんにちは……』
「“僕は泉たんのフォロワー、通称いずみんの一人です”」
『初めて聞くよ!? 何、いずみんって!?』
「“僕たちいずみんは、泉たんの澄み渡った声とその笑顔を支えに学校へ登校しています”」
『笑顔!? どこで見てるの!?』
「“スピーカーからです”」
『予知!?』
「“これからも、是非、校内のおにーちゃんたちにその声で呼びかけてくださると嬉しいです”」
『あ、ありがと……意外にまともな内容で──』
「“色々なところが元気になります”」
『サイテーだよ!』
『続いてのお便りだ。いずみんネーム、泉ちゃんは俺の教え子』
「おいそれ大丈夫か」
『“僕は純真無垢な生徒です”』
「それ自分で言う奴いねえよ」
『“泉ちゃんにちょっとした質問があります”』
『な、なに?』
『“好きな先生は誰ですか?”』
「アウトオォオオ!!」
『えっと、二宮先生と佐藤先生かな』
「いや待てよ!? これどう考えてもアウトだろ!? ……まあいいや、募集したSNSのメッセージはどんな感じだ?」
『そうだな……えっと、いずみんネーム、先生の監視をかいくぐった猛者、から』
『ほんとにやったんだ……』
『“泉ちゃんと更科さらちゃんは、同一人物ということでよろしいですか!?”』
「これはどうなんだ? リク兄としてはどういうのが公式見解なんだ?」
『泉ちゃんはこの特別棟3階の放送室のみに宿る妖精みたいなものだからな。その妖精が1年1組の更科さらの姿を借りて放送室の外に出ているんだ』
「つまり、泉ちゃんが本体で更科さらは世を忍ぶ、かりそめの姿……ということか!」
『逆だよ! 私が本体!』
『他にもこんな声が来ている。いずみんネーム、1年1組の女子、から』
「お、更科が孤立してるでお馴染みのクラスメイトだな」
「うるさいよっ!」
『“普段の更科さんとはイメージが違いすぎてやばいです!! いい意味でイメージ崩壊しました!”』
『いい意味なのかな……? それならよかった──』
『“これからも、距離を置いて温かく見守ろうと思います”』
「よかったな」
『全然よくないっ!』
『えーと、他にもこんな声が来ているな、いずみんネームはないが……“男子たちからのセクハラに負けないでください。私はずっと前から泉ちゃんを応援していました!”』
『あ、ありがと……ちゃんとした人もいるんだね』
『“泉ちゃんイコール金髪幼女説を推していた自分にとって、今日の放送は驚きの連続です!”』
「これちゃんとしてなくね?」
『“ですがたった一つ! どうしても納得いかないことがあります!”』
『な、なに……?』
『“泉ちゃんにその胸は余計です。出直してきてください”』
『……』
「ちゃんとしてるどころかとんでもないやつだったな」
『続いて、いずみんネーム、部室棟の住人、から』
「次はまともな人だといいが」
『“カードゲーム部がまともじゃなさすぎてやばいです”』
『……否定はできないかも』
『“先日、我が泉高校で勃発したこたつ闘争において部室棟全体に悪名を轟かせた二宮氏、山市氏の両名に隠れて、実は部長の方も、おぶっ飛びになられていたんですね”』
「初めて聞く敬語だな」
『“実際にカードゲーム部らしい活動をしているのか心配です”』
「俺たちは入部したのが先週の水曜だから詳しくは分からないな』
『確かに。そうすると初めての部活動があのこたつ争奪戦争だったわけか』
「実戦経験を積むにはちょうどいいチュートリアルだったよな」
『何の話してるの!? うちはカードゲーム部だよね!?』
「じゃあ二宮、お前は最近何かカードゲームした?」
『そうだな……ゲームという広いくくりでいえば昨日、部室の隅に放置されていた古いPCで……』
『ああ、あれ、ソリティアとかやってたんだ?』
『妹モノのエ──』
『やめて! それ以上は絶対やめて! 放送コード引っかかっちゃうから!!』
「校内放送に放送コードとかないから大丈夫じゃね?」
『そういう問題じゃないから!?』
『おお、これは気になるいずみんネーム、お兄様は私のもの、からの質問だ』
「リク兄好みの妹像だな」
『“先日、とある筋から泉ちゃんと二宮君が抱き合う写真を手に入れたのですが”』
『どこの筋から!?』
『“カードゲーム部ではこれが普通なんでしょうか?”……これは驚いたな──よくある兄妹のスキンシップではないのか?』
『驚くとこ、そこ!? 写真が流出してる方じゃなくて!?』
『まだ質問が続いているぞ。“山市君から見て泉ちゃんはどういう女性ですか?”……やけに具体的な質問だな』
「そうだな、なんというか幼い子供を見ているみたいで面倒を見てあげないと危なっかしい、これが正直な印象だな」
『それは同感だな。なんというか親しみやすいというか──」
「そうそう」
『つい、妹にしたくなるというか』
「そこまでの親近感はねえよ」
『私、年上なんだけどな……』
『おっと! いずみんネーム、実名OK、東奈央、これは知り合いか?』
『おおーナオっちじゃん! 久しぶり! 去年同じクラスだったの!』
『“サラがクラスで孤立してると聞いて驚きです! サラ……何かまたバカをやらかしたの?”』
「また……?」
『“1年1組の皆さん聞いてください。サラはバカの子なんです。でも! 心の優しい純粋な子なんです!”』
『ちょっと!?』
『“去年の4月早々、まだ誰も今のクラスに馴染んでいない頃に、サラが皆の緊張をほぐしてくれたんです”』
「いい話じゃないか」
『“朝イチの授業で先生にあてられた時に、先生のことを寝ぼけてお母さんと呼んだあの伝説の事件は今でも私たち2年の語り草に……”』
『やめてっ! それは忘れてっ! いまだに夢に見るもんそれ!!』
『“1組のみなさん、ふつつかな子ですが、やさしく見守ってやってください” だってよ。フッ、いい友達を持ったな……』
『全然よくない! 友達なら私の恥を全校生徒に広めないもん!』
「違うぞ更科。この行いはまさに親友と呼べるものだ。俺にはこんな真似はできない」
『どこがよっ!? ただ私の恥を暴露しただけじゃん!』
「現在進行形で、このナオっちも校内に恥を広めているからな」
『……えっ、どういうこと?』
「いやだって、東奈央って実名だろ?」
『そうだけど?』
「これ先生も聞いてるからな? 実名で送ったら先生が携帯没収しに向かうに決まってんだろ」
『……ナオっち。これでおあいこだねっ☆』
『“あ、ほんとだ……”、“え、やばいよね?”、“これやばくない!?”……ナオっちが矢継ぎ早につぶやいて──たった今交信が途絶えた』
「合掌。」
『ちなみに、オレたちは放送室のPCを使用しているので携帯の不適切利用には当たりません』
「当然の対策だな」
『時間的に次がラストじゃない?』
『そうだな……いずみんネームはなし。“泉ちゃんの公式設定では将来はリクおにーちゃんと結婚するとなっていますが”』
『初めて聞いたんだけど!?』
『“何歳までおにーちゃんと一緒にお風呂に入っていましたか?”』
『何その質問』
「まあ確か、リアルで兄がいたよな。何歳ぐらいまで入ってたんだ?」
『え? 今でも入ってるよ?』
『……』
「……」
『ん? どうしたの?』
『い、いや……その……』
「と、とりあえず……放送を終了するか……」
『え、なにこの空気……もしかして変なこと言っちゃった!? ねえ!? 私また変なこと言っちゃったの!?』
『……』
「……」
『なんか言ってよ!!』
『……以上でカードゲーム部の放送を終わります』
「最後の発言が健全な情操教育上、不適切な発言であったことを深くお詫び申し上げます。他意はなかったと思うので、1組の皆さんはそこには触れずに接していただけると幸いです」
『公式に謝罪されたっ!?』
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