見え透いたオチ。


 ──放課後の部室でこたつを囲む3人。


「反響はどうだ? クラスに戻ったら色んな人が話しかけてくれただろ?」

「オレたちのプロデュースに感謝するがいい」

「全然しないからね!? 勝手に乱入されたんだよ私! クラスの皆からも「意外とバカだったんですね」とか「ブラコンなんですか?」って誤解されたんだからね!?」

「……それ誤解でもなくね?」

「むしろ事実だと思うが」

「ひどいっ!」


 更科がこたつの机を叩く。


「まあでも、よかったじゃん。クラスに友達が出来そうだろ?」

「おかげさまでそうだけど! もっと穏便な方法他にあったでしょ!?」

「オレたちなりに更科の取扱説明書を提示したつもりなんだが」

「もう……」


 ため息交じりに嘆く更科。

 それでもクラスに友達ができたようで何よりだ。


「まあでも、クラスメイトと話すきっかけになったんなら何よりだ。色々と準備した甲斐があったよな」

「そうだな、周りの目を気にしてフードや眼鏡をする妹を見て──」

「え、どういうこと?」


 訳が分からないといった様子の更科。


「いやだってお前、悪目立ちしないように登下校でフードを被って、クラスじゃ眼鏡してたんだろ?」

 

「……は?」

「おいおい、何を今さら……」

「コートのフードを被るのはあったかいからで、眼鏡はコンタクトを忘れた日にしてるだけだよ?」

「……」

「……」

「どうしたの? 二人とも黙って」


 え、まじで?

 強がりとかじゃなくて……?


「?」


 不思議そうに首をかしげる更科。


(つーことは……俺たちの──)

(早とちりだった……ということか……?)


「……ふざけんなよ! 紛らわしいわ!」

「そうだぞ! オレたちを騙すとは卑怯だぞ!」

「え、なんで私が怒られなきゃいけないの!?」


 くそっ、騙されたじゃねえか!?


「お前の勘違いのせいだぞ! 二宮!!」

「そういうお前も頷いていただろう!?」

「え、もしかして二人とも、私が気を遣って目立たないようにしてると思って、あんなことしたの?……えーなに、可愛いとこあるじゃん!」


 俺たちを交互に見て、ニタァーと笑う更科。


「はあ? うっざお前、何勘違いしちゃってんの?」

「オ、オレたちがそんなことするわけないだろ?」

「あれあれぇー、どうしたのぉー? そんなにムキに否定しちゃって」

「はあ? 別にムキじゃねえし。だよな?」

「あ、当たり前だろ」

「あ、ちょっと顔赤い! 照れてる! 写真撮って残さないと!」


 いそいそとブレザーのポケットから携帯を取り出す。


「ハイ二人ともこっち見て!」 

「別に照れてねえし……」

「肖像権というものがあってだな……」

「ほら! 恥ずかしがらないで! はいチーズ!」


 カシャ、というシャッター音が響く。


「おーよく撮れてる! いい感じ! 可愛い!」

「ほら、もういいだろ」

「勘弁してくれ……」

「じゃあ次は3人で撮ろうよ!──こら! そこ逃げない! 逃げたらこの写真をSNSにばらまくからね!」

「「……」」


 この後、めちゃくちゃ写真撮られた。



 ◇



 私はクラスに馴染めていなかった。

 ある意味厄介だったのは、馴染めていなかったというのは、クラスでいじめられていたとか、いない人扱いされていたとか、そういうことではなかったこと。

 必要最低限の人間関係は成立していて、学校生活に支障をきたすことはない程度の孤立っぷり。

 担任の先生が腰を上げて動くような大きな問題でもなかったということ。


 だから、私が絶望するほどの孤独を感じていたかというと、そこまでではなかった、というのが本音かも。


 けど、必要最低限の交流しかない高校生活なんて退屈だった。中途半端に上級生と繋がりがあるという意味では最も寂しさを感じていたのかも。



「入部希望の1年が二人いるんだが、どうだ?」


 二宮先生から突然そう聞かされた時は驚いた。


 だって時期は12月、そもそも存在ほとんどが知られていないカードゲーム部に入部希望の生徒がいること自体が不思議だった。


 ろくに同級生と交流がない私が上手くやれるだろうか……という不安が顔に出たのかもしれない。


「そう心配するな。二人ともバカだがいい奴だ。自然体でいればいい」

「そ、そうですか……」


 ……結果として色々と記憶に残る顔合わせとなったけど、後悔はしてない!……多分。


 二人とも快く部活に入ってくれ──山市君に限っては違うかもしれないけど、本当に嬉しかった。


 記念すべき部活動初日に勃発したこたつ争奪戦争は二人の行動に度肝を抜かれてひやひやしたけど、とても忘れられない思い出になった。昨日発覚した二宮君のつぶやき以外は本当に最高だった。あれは許さないから。絶対に。


 放送に乱入してきた時は最初、本当に心臓が止まるかと思うくらい焦ったけど、


『オレら任せとけ!』


 と、大きく書かれた紙を得意げに掲げて、サムズアップを決める二人を見て、


 ──面白そう!


 と思って、即座に親指を立てるくらいには二人のことを信頼してたんだと、その時気付いた。


 ……結局、二人に任せた結果、とんでもない目に遭ったのは軽く恨んでるけど、クラスに戻ると予想以上の大反響があった。


『あの男二人やばそう』

「想像の3倍はやばいよ」

『同じ部活で大丈夫?』

「不安しかない」


 二人のことをあれこれ勝手に言うことで、クラスの人とちょっと仲良くなれたので、今回のことは大目に見てあげよう。

 でも、放送室にPCなんてないし、二宮君は思いっきり携帯を使っていたように見えたのは気のせいかな?

 ナオっちが浮かばれない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る