この次のお話を描きたくて本作は生まれました。
──夜。自宅にて。
「よし、じゃあこれでいくぞ!」
「ああ、オレが全力で妹をプロデュースしてやるぜ!」
「……やりすぎんなよ」
これで準備は万端だ。あのこたつ闘争も少なからず意味があったのかもしれない──
と、ノートPCを閉じると、その向こうから鷺宮が顔を出す。
「誰と話してたんですか?」
「ああ、ごめんごめん、うるさかったか?」
イヤホンをしながら鷺宮家のリビングで二宮と通話していたのだが、少々うるさかったのかもしれない。
俺の部屋である和室は、ルータがあるリビングから遠くWi-Fiが不安定なので通話するには不向きなので、リビングで通話していた。
今日は、おじさんは出張、めぐさんも仕事が遅くなるそうで、家には俺たち二人しかいないので、リビングで通話しても大きな邪魔になることはない。
「いえ、そんなことはないですけど」
「まあ通話は終わったから、邪魔なら自分の部屋に戻るけど」
「大丈夫ですよ。兄さんの部屋、寒いですよね?」
「そうなんだよなあ……」
エアコンもストーブもないので、寒がりな俺には本当にきつい。
さすがに、いとこの親にねだるわけにもいかないので、こればっかりはどうしようもない。
「私の部屋はエアコンがありますから、もし暖まりたいときは、いつでも私の部屋に──」
「それはやめとく。おじさんに殺されかねない」
おじさんは俺が鷺宮凛の部屋へ入るのを禁止している。いくらなんでも警戒しすぎなんよなあ……。
本当に娘を溺愛しているのが分かる。きっと鷺宮の結婚式では式の最初から最後まで泣いていることだろう。
「ふふっ、そうですか、それは残念です。それで──誰と話してたんですか?」
瞳が隠れて見えなくなるほどの、有無を言わさぬ満面の笑顔……圧がすごい……。
「に、二宮と話してたんだよ」
「そうですか、それはよかったです」
何がよかったのだろうか……。
怖いので触れないでおこう。
「まあちょっとした人助けってところだな」
「人助け?」
鷺宮は不思議そうに繰り返す。
「人助けっていうよりはただ好き放題バカ騒ぎするってだけだけど」
「?」
鷺宮は小首をかしげた。
◇
結局のところ、更科の閉塞した状況を打開するためには何か一つでも取っ掛かりを作ってあげればいい。
大人はどうか知らないが、俺たちみたいなまだ社会に出てない子どもにとって、気付いたら仲良くなっているなんてのは誇張でも何でもなくて、ありふれた話だ。
友人関係の始まりのきっかけを全て覚えている人はいないだろう。
つまりは、何かしらの取っ掛かりさえあれば誰だって仲良くなれる可能性があるということだ。
更科は天真爛漫な健康的美少女。一緒におしゃべりしてみたい女子やお近づきになりたい男子もいるはずだ。
その取っ掛かりぐらいなら俺たちにも簡単に作ることができる。
本来なら部活だとか学校行事だとか委員会とか、そういった共通する体験、もしくは同じ状況を作ってあげるのが一番良いのかもしれないが、そんな都合のいい方法は残念ながら頭の出来がよろしくない俺と二宮では思いつかない。
というわけで、ここは少々強引な手段を取らせてもらおう。更科には、クラスの人がつい、哀れんで話しかけたくなるような、かわいそうな被害者になってもらう。
『旧校舎の耐震工事が来週から始まるので、放課後は立ち入り禁止と……』
更科のアナウンスが校内に響いている。
「首尾はどうだ?」
「ああ、いい感じに集まってきているぞ」
二宮は携帯の画面を見ながら答える。
「まああんたらの好きにしまっし。放送部はもうないから誰も文句言わんさかい、なんしたって問題ないし大丈夫や」
「その発言が一番の問題ですけどね」
おばちゃんが豪快に笑う。
「顧問としては黙認という形で許可を出そう。くれぐれもやり過ぎないように」
「さすが姉貴、懐が深い」
「いや懐が深かったら黙認はしねえよ」
二宮先生はため息混じりにゴーサインを出す。
「よーし、じゃあ始めるか」
俺は勢いよく放送室の扉を開けた。
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