唐突なシリアス展開。
「じゃあ、俺たちそろそろ戻るわ」
俺と二宮は部室を出て、食堂に向かう。
昼ご飯を食べる時間がほとんどなくなってしまった。
食堂前の自販機に売っているカロメで済ますしかなさそうだ。
「それにしても意外だったよな。まさか更科がクラスで浮いているとは」
「あんな妹の姿は確かに予想外だった」
「別にいじめられてるとかじゃなくて、ただ単に周りもどう接していいか分かんないだろうな。金髪碧眼っていう強すぎる容姿が裏目に出たか」
「さらに一つ年上だからな。いくらなんでもあの自己紹介は真面目過ぎたな」
「ちゃんとしなきゃって思ったんだろうなあ……」
せっかくの私の青春が……と、更科は泣いていた。
青春の定義は人それぞれだろうが、どんな奴と一緒に時間を過ごしてバカをやるか、単純な話、これが青春というものだと思う。
そして、年を取って過去を懐かしむとき、この青春の時期を振り返って思い出すのは、大半はクラスの記憶なんじゃないだろうか?
高校で過ごす時間というのはほとんどクラス単位だ。大体の思い出も、教室という場所の中で形成される気がする。
しかし、クラスガチャという言葉が示す通り、俺たち生徒は自分で自分のクラスを選ぶことはできない。
クラス名簿を見るだけでは分からないことも多い。実際にその教室に飛び込んでみないと、そのクラスの雰囲気は分からない。ガチャを回してみるまではどう転ぶかは分からないのだ。
不安と期待が入り混じった春は誰しもが経験すること。とはいえ、そんな不安は十中八九、杞憂に終わる。
皆が皆、クラスに溶け込もうと必死になるのだ。打ち解けるのは時間の問題で、ほとんどの生徒はそんな春特有の感情など、とうに忘れてしまう。俺も正直、自分がどういう感情で初めて教室に入ったかは覚えていない。
そこに10月に更科が1年1組に転入。関係図が完全に構築されてしまったクラスの中に飛び込んだわけだ。
とはいえ、本来ならば問題なく彼女は新たなクラスに馴染めていたはずだ。しかし、十中八九で言うところの、一二を引き当ててしまったわけだ。
何があったのかは俺たちには分からないが、きっとおそらく、そこには何もないのだろう。
ただ、取るに足らない些末なことが積み重なったその延長線上に、今の状況があると思われる。
それは更科の第一印象が少し硬かったのかもしれないし、年が一つ上ということで、周りが必要以上に気を遣いすぎてしまったのかもしれない。
そういった意味ではこうなった原因は誰にもないとも言えるし、全員にあるとも言える。
「二人がいるからいいって、あいつ言ってたけど」
「おそらく妹の空元気だろう……」
事実、更科も去年の入学時は持ち前の明るいキャラクターで皆から慕われていたのだろう。
先日のバス停事件でも、俺の後ろで2年の間では有名だと言っていた生徒がいた。
無意識に言ったのかもしれないが、あの言葉は今の更科の現状を表しているといえる。
学年が違うので接点は限られるが、2年生には友達がたくさんいるようだ。
こたつ争奪戦争のときも俺と二宮は知らない上級生たちと喋っていたのを見た。
さらに二宮先生の、去年までは愛されキャラだったという趣旨の発言もある。
しかし2年の間では有名ということは、裏を返せば1年には彼女を知る人はほとんどいないということだ。
冷静に考えてみれば遠くからでも目立つ容姿の彼女のことを、同学年である俺たちが知らないことの方がおかしい。
10月に戻ってきてこの2か月、直接的な接点がなかったとしても、あの容姿は目立つはずだ。
「更科って経歴とか見た目の割には、意外に知られてねえよな」
「あの様子だと、廊下に出て友達と話すとかしないだろうからな。人目につかないんじゃないか?」
「それでも登下校とかあるだろ? あの金髪碧眼は目立つだろ?」
「……そういえば、いつも帰るときはコートのフード被っているよな」
「……確かに」
「しかも今日は教室で眼鏡してたよな……これはもしかして……」
「……そういうことか」
悪目立ちしないようにあえて隠しているということだろう。
「俺たちが何とか力になってやれねえか?」
「何かいい方法があればな……」
と、俺たちらしくもない真面目な話をしながら食堂前の自販機で昼ご飯を買っている時だった。
「あらあ、あんたら元気しとったかいね」
おばちゃんこと佐藤先生に話しかけれる。
「おばちゃん、こたつ助かってますよ」
「あれがない部活は考えられない」
ほんとにおばちゃん様様だ。
「えーよかったじ、そうや、さらちゃんに、伝えとんなんことあれんて」
「何ですか?」
「来週の月曜、先生の代わりにいつもの放送やってほしいんや」
「……それだっ!」
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