俺のいとこが清楚でヤンデレすぎる件。
結局、職員室についていくことになった。
ただついていくだけで、もちろん俺の退部は一切了承していない。
「まじか、職員室に姉貴がいない……昼休みに行くと言っておいたんだが」
二宮が職員室を覗き込んでいるが二宮先生はいないようだ。名字同じってまじでややこしい。書きづらいし何より読みづらそう。
(生徒指導室にいるかもしれないな……)
俺たちが通う泉高校は昼休みに質問に向かう勉強熱心な生徒も生徒も少なくない。
生徒の質問対応で時間のかかるものは生徒指導室がよく使われている。
職員室の隣の生徒指導室の扉の前に立つと、中から話し声が聞こえる。
耳を近づけてみると二宮先生の声が聞こえる。
「(ぼそぼそ……)」
「(ぼそぼそ……)」
会話内容は聞き取れないが二宮先生がいるのは間違いないな。
……それにしてもこの声誰だっけな?
声がこもってて分かりづらいが、どっかで聞いたことある気が──
「何をしている? もしかしてここに姉貴がいるのか?」
気付けば隣に二宮が立っていた。
そして生徒指導室の扉をノックもせずに開けてしまう。
──相手が姉だけならそれでもよかっただろうが、少しタイミングが悪すぎた。
「姉貴、頼んでた書類──」
勢いよく開けた扉の先には二宮先生と意外な人物がいた。
「に、兄さん!?」
鷺宮が驚いた様子でこちらを見ていた。
◇
時刻は少し遡る。
山市と二宮が食堂にいた頃、鷺宮凛は古文で理解できないところがあり生徒指導室で二宮愛海に教えてもらっていた。
「ああなるほど、よく分かりました。さすがは二宮先生ですね」
「いや、そこまで完璧な口語訳は高校生レベルでは求められていない。よく勉強しているのが分かる」
「いえ、私は下のクラスですから」
「フッ、よく言う」
愛海は呆れたように笑う。
凛が口にした通り、彼女は古文の進度別授業では下のクラスである。
「全く……そんなに山市と同じクラスがいいのか?」
「先生こそ、色々と策を講じて二宮君と関ろうとしているんじゃないですか?」
「お互い様、ということか」
「私たちは似た者同士、というより同じ穴の
「不思議だな。私も何となくそんな気はしていた。といっても私は、鷺宮と山市の保護者が同じだと書類を見て気付いた時からだがな。お前に私の心の内を見透かされた時は心底驚いたのを覚えている」
「ふふっ、それは簡単ですよ。だって私と全く同じなんですから」
「それはそうだな」
二人は妖しく笑い合う。
そう。
二人はお互いの秘密を共有している。
そして心から相手のことを信用している。
一方は血がつながっていない義理の弟。
もう一方は兄と慕う幼なじみのいとこ。
どちらもあまり声を大にして言えない相手に恋慕を募らせてしまった。
相手に思いを伝えようにも──
もし拒絶されてしまったら……?
という考えが頭を離れない。
そう思うと、自分の気持ちを伝えるのが億劫になってしまう。
「ねえ凛見て! りっくんの子供の頃の写真! 可愛いでしょ!?」
「可愛さなら絶対私のお兄様も負けていません! ほら! どうですか愛海さん!」
……このように、誰にも相談できないような共通の悩みが彼女らを強固な結束で結びつけていた。
「そういえば、愛海さんのおかげで学校でもお兄様に話しかけられるようになりました!」
「そう、それはよかったわ!」
どちらも普段の様子とは明らかに違うが、彼女らの内面は乙女そのものであった。
本来であれば、互いによき理解者を得れたのだから喜ばしいこと。
互いの愛しい人の子供の頃の写真を見せ合う程度なら可愛いものである。
ところで、集団心理というものを知っているだろうか?
学校でのいじめや、行列に並ぶのも、ライブ会場でテンションがハイになるのも、集団心理に大きくよるものである。
そして集団心理の特徴として、一人でいるときに比べて思考の単純化や極端化、倫理観の欠如が見られる。
話を戻して、凛と愛海は小さい頃から誰にも言えない秘めた気持ちを一人で抱えてきた。そしてやっと、自分の気持ちを理解して分かち合うことができる仲間を見つけることができた。
彼女たちは一人ぼっちではなくなったのだ。
つまり……
「凛、アレはどうだったの?」
「ええ、それ聞いちゃうんですね。結局愛海さんも興味津々じゃないですかー? ふふっ、見かけによらずにいやらしいですね」
「そ、それで……ど、どうだったの!?」
「ふふっ、もう、最っ高でした。病みつきになっちゃって、気付いたら朝になっちゃってました」
「そ、そんなに!? いいなあ……。今度私もこっそり借りようかなあ、りっくんのマフラー」
互いに悪影響を及ぼしまくっていた。
「お兄様が結婚できるようになるまであと2年……」
「知ってる? 結婚って紙切れ一枚の契約なのよ?」
「え!? その紙はもしかして!? どうやってそれを書かせたんですか!?」
「そこら辺は上手くやれば問題ないの」
大いに問題があるが、二人の暴走を止める者はいない。
互いに互いの暴走を助長させていく。
「ぜ、ぜひ教えてください!」
と、山市凛空の将来が閉ざされるその瞬間、
「姉貴、頼んでた書類──」
彼にとって救いをもたらす仲裁が入ったのだった。
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