この辺りでタイトル回収。

 ──ある日の昼休み。


「なあ山市、部活動に興味はないか?」


 学校の食堂で二宮と飯を食っていると、二宮が口の前で手を組んで突然そう切り出した。

 確か二宮は部活動に所属していない帰宅部だったはずだ。


「急にどうした?」

「オレ、部活動を作ろうと思う」

「ほう、活動内容は?」

「今のところ未定だ」

「は? え、どゆこと?」

「活動内容なんてオレたちにとって些細な事だろ?」

「部活動にとっては一大事だけどな。それで、わざわざ部活を設立する目的はなんだ?」

「お前、そんな簡単なことも分からないのか?」


 手を組んだまま、美形の二宮がいたって真剣な表情でこちらを睨む。


(部活動を作る理由だと……?)


 急に言われても、そもそも作ろうと思ったことがないので分からない。


「わりい、ちょっとまじで分からん」

「オレのことをお兄ちゃんと慕う妹たちのために決まってるだろ!?」

「分かんねえよ!?」


 いくら何でも論理が飛躍しすぎている。


「おい、今のはオレなりの笑えるジョークだったんだが」

「お前が言うと笑えねえんだよ……」

「まあそれも理由の一つではあるんだが、他の理由もある」

「何だよ?」

「山市──」


 二宮は鋭い眼光で俺を見て、


「“主人公”という響き……お前は憧れないか?」

「──っ!?」


 主人公への羨望──それは思春期の少年が一度は体験する通過儀礼。

 誰しも架空の主人公の様になりたいと思ったことがあるはずだ。


 悪党を倒して世界を救う主人公。

 未知なる冒険を求めて頼もしい仲間と共に大冒険へ繰り出す主人公。

 能ある鷹は爪を隠す──その言葉を地で行き、真の実力をひた隠しにする主人公。

 見た目は普通なのになぜかやたらめったらモテまくる主人公。


 さまざまな主人公像というものはあるが、全てに共通することが一つだけある。


 主人公はかっこいい。


 主人公というものは無条件に愛される何かがあるのだ。


「主人公、いい響きじゃねえか……! 俺はもちろん憧れるぜ?」

「だろう? 4月に入学してもう12月。いい加減高校生活にも飽きてきたんじゃないか?」

「分からなくはないな」

「高校入学して仲間と共に部活を作る。これこそまさに王道の“主人公”って感じがしないか?」


 仲のいい奴らで部活を作って放課後にわいわい騒ぐ。

 確かに憧れるよなあ……。

 それに部活設立とか一度はやってみたい青春イベントだ。


「やっぱりお前も主人公に憧れるのか?」

「つれないこと言うなよ山市。男なら誰だって憧れるだろう?」


 二宮は不敵に笑ってみせる。


「いつの時代でも学生の本分は青春だろう! 青春を楽しむなら主人公に憧れるのは当然の帰結というもの!」


 そうか……。

 やっぱり二宮も妹趣味はともかく中身は夢見る健全な男子だったのか。


「そして主人公ならば妹エンドが用意されているはずだからな!」

「そこに憧れるのかよ! つーかそうでもねえよ!?」

「何を言う!? 主人公以外で実妹ルートに突入する作品が見たことないだろ!? だからオレは主人公になりたいっ!」


 最悪のだ。つーかそれお前のセリフだったのかよ……。

 ここまで読んでくれているそこの君! ありがとな!


「もうその発言がすでに主人公だぞ……」


 ああ……俺もお前みたいなぶっ飛んだ人間だったら主人公に──

 いや普通にこんなヤバい奴になりたくねえわ。


「まあとりあえず話を戻そう」


 一旦間を置く二宮。


「いいか? 部活動には先輩後輩の上下関係がある」

「そうだな」

「来年の4月、オレたちは晴れて2年生に進級する」

「二宮、まさかお前──」

「その通り! 部活を作ってオレのことをお兄ちゃんと呼ぶ後輩を──」

「──お前、俺たちの成績で普通に進級できると思ってるのか!?」

「…………確かに。」


 模試の結果は全国平均で見れば、俺と二宮はそこそこ優秀な部類に入るのだが、校内では底辺をさまよっている。


 俺たちが通ういずみ高校は県内トップの進学校。

 公立高校としては全国的にもトップクラスの進学実績を持つ。

 赤点を取り続けると普通に留年しかねないので、


「次のテストで赤点あったら……やばいよな?」

「……おそらく。」

「……部活作るより勉強の方が先じゃね?」

「……確かに。」


 いつの時代でも学生の本分は勉強だったようだ。


「……まあそれは一旦忘れよう。とにかく! オレのことをお兄ちゃんと呼ぶ後輩と仲良くなるには部活しかないということにオレは気付いた!」


 高らかに宣言する二宮。


「まあ、一理ある、か……」


 妹ができるかはひとまず置いといて、普通の学校生活で部活を除けば先輩後輩と絡む機会は皆無だろう。学生の上下関係とは部活抜きにはなかなか成立しない。


「だろ? というわけで思い立ったが吉日だ! 今から部活動設立の書類を取りに職員室に行くぞ」


 席を立って食器を片付ける。

 そして、食堂を出て職員室へ向かう二宮を見送る。


「おう、がんばってこい」

「何見送ってるんだよ!? お前も行くんだぞ!」

「え? なんでだよ?」

「決まってるだろう? お前もオレの部活入るんだぞ?」

「はあ? お前何言ってんだよ」

「いや待て待て! さっきまで乗り気だっただろ!? 一緒に部活作る流れだろこれ!?」

「いやだって──」


 あれ、言ってなかったっけ?


「俺もう部活に入ってるぞ。弓道部。」

「え、え? まじ……?」

「まじ」

「……」


 すると二宮はふっと一息をついた。


「どした?」

「ちょっとお前……退部してくれないか?」

「ぶっ飛ばすぞ」

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