このように、彼女の両親とはすっかり打ち解けている。
◇
鷺宮凛の母親──鷺宮
夕食後、鷺宮凛が風呂に入っているすきにリビングでいつもの定時報告が始まる。
「凛空、今日も凛は学校でしっかりやっていたかい?」
「おじさん、もちろんっすよ」
「そうかそれは良かった。うちの子に手を出す輩がいるかもしれないからね」
「……」
二宮先生といい、おじさんといい、俺はなぜ周囲の人間の動向を報告しなければならないのだろうか?
しかし、一方は担任の先生、もう一方は住まわせてもらっている家の主人。どちらも無下にできない。
まあ、おじさんはまだいい。親としてあんな娘を持ったらそれは心配にでもなるだろう。
しかし二宮先生に至っては少々愛が行き過ぎている。さすがにこれ以上は控えてもらいたい。
「しかし困ったな……」
「どしたんすか?」
「明日から僕はしばらく出張で家を空けるんだよ。つまりこのミーティングができない」
「そうなんですか。残念っすね!」
よし! しばらくこれから解放される!
「というわけで、はいこれ」
紙切れを渡される。
そこに書かれたのは11桁の数字……。
「これ僕の電話番号。毎日この時間に電話でミーティングを行うからよろしく。おっと、仕事の電話だ、じゃあ今日の会議は終了だね」
おじさんが席を外す。
おじさんの電話番号を手に入れた!
おじさんに連絡を取れるようになりました!
おじさんの好感度が──
「やめろぉぉ! そのルートは止めてくれぇぇ!」
「どうしたの凛空、そんなに叫んで」
不安げに鷺宮の母がこちらを見ている。おじさんとすれ違いでリビングに入ってきたようだ。
「聞いてくださいよおばさん、おじさんが出張中毎日、娘の動向を報告しろって言うんすよ!?」
「……今なんて言ったかしら?」
「だから! おじさんが出張中──」
「その前。」
「え? 確か……聞いてください──」
「その後。」
「……あ。」
「幻聴かしら、私のことをおばさんって言ったように聞こえたのよね」
おばさ──お姉さんがにっこりを笑いながら俺に視線を浴びせる。
しかし全く目が笑っていない。
「……(ガタガタガタガタ)」
体中が震えだして冷や汗が噴き出す。
「私、凛を生んだのは23で、今は39なのよ……これっておばさんかしら?」
「いえ! まだまだ現役です!」
光の速さで即答する。
鷺宮凛はこの人に似たんだなと誰が見てもわかるぐらい、鷺宮母は美人だ。しっかり化粧をすればおそらく20代半ばにも見えるはず。
しかしどんな名選手においても、寄る年波には勝てぬというもの。つまり何が言いたいかというと(以下略)
「そうよね。いやいいのよ。おそらく聞き間違いだったと思うから。それで?」
「いえ、めぐさんのお手を煩わせることは何も。」
鷺宮母の下の名前は恵。そこからめぐさんと呼ばせていただいている。
機嫌を損ねたエマージェンシーの際には、めぐ姉様、と呼べばvery goodというデータが長年の研究成果として提示されている。
「めぐ姉様、肩が凝っていませんか。不肖、この私めが肩凝りに効くマッサージなるものをやらせていただきたく……」
「あら、ありがたいわね。お願いしようかしら」
素早くめぐさんの後ろに回り全集中でマッサージを行う。
「お加減はいかがでしょうか?」
「ちょうどいいわね」
「それは何よりです」
「ただ、一ついいかしら?」
「何でしょうか? 何でもお申し付けください!」
「一つ簡単な質問に答えてほしいのよ」
「何でしょう?」
と、めぐさんは肩に置いていた俺の手をぐっと掴む。
そして俺に向き直り、微笑を浮かべて──
「どうして私が肩を凝っていると思ったのか知りたいのよね」
「──っ!?」
大失態を演じてしまったことに今さら気付いたが後の祭り。
年相応、という言葉を口にしなかっただけましだっただろう。
「この時期の野宿は冷えるでしょうね……」
「そう、ですね……」
このように、鷺宮父と鷺宮母とはすっかり打ち解けている。
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