マー君とボク

神代 哲

第1話

 ボクのクラスにはマー君と言う男の子がいます。


 ボクはマー君が嫌いです。


 マー君もボクが嫌いです。



 マー君は怒ると直ぐに暴力をふるいます。

 マー君は体が大きくて、力が強いからボクは敵いません。


 ボクはマー君が嫌いです。



 マー君はよく嘘を吐きます。

 大きな嘘から、小さな嘘まで、直ぐに分かる嘘を吐きます。

 この前は手のひらより大きなカブトムシを捕まえたと言っていました。

 ボクが「見せて」と言ったら「逃げられた」と言いました。


 ボクはマー君が嫌いです。



 マー君はよく物を盗みます。

 たけし君が大事にしていた、キラキラ光るカードが無くなって大騒ぎ。

 マー君のポケットに入っていました。


 ボクはマー君が嫌いです。



 マー君の家はお金持ち。

 ボクは一度、マー君の家に遊びに行きました。

 マー君の部屋には、たくさんのオモチャがありました。

 ボクが欲しくて、でも高くて買えなかったジープのラジコンも有りました。

 ボクはうらやましいと思いました。

 でも、箱に入ったままのラジコンを見て可哀想だとも思いました。

 

 ボクはマー君が嫌いです。



 マー君もボクも高校生になりました。

 別々の高校に入り久しぶりに会ったら、友達がたくさん出来たと言っていました。

 でも、マー君と同じ学校に通う友達に聞いたら、マー君はいつも一人ぼっちだと言っていました。


 ボクはマー君が嫌いです。



 マー君もボクも大人になりました。

 10年ぶりに会ったマー君は髪を金髪に逆立て、大きな黒いサングラスをかけていました。

 車のディーラーをしている、社長だと言いました。

 でも、ボクはマー君が転職を繰り返している事を知っています。


 ボクはマー君が嫌いです。



 マー君は結婚して、子供が二人いると言っていました。男の子が二人だそうです。

 ボクが「今度会わせて」と言ったら、マー君は笑いながら「良いよ」と言いました。

 それ以来、マー君とは会っていません。


 ボクはマー君が嫌いです。



 それから別の日、街中で偶然マー君を見かけました。

 男の子二人を連れています。

 二人ともマー君に似て、少し乱暴そうな男の子です。

 その隣には可愛らしい女の人がいました。


 ボクはマー君が嫌いです。



 ……でも、ボクが本当に嫌いなのは自分なのかも知れません。






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マー君とボク 神代 哲 @tetsuojudai

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