アリエ
「じつはね、私も彼が演じているところは、初めて見るの」
地下にある小さな劇場の席でイトリは恥ずかしそうに言った。どういう経緯でイトリがナルミケイのことを知ったのかわからないけれど、観客が少ないこの劇場の中でイトリはよく目立っていて、きっと舞台上に立つナルミケイも彼女に目がいくだろうとアリエは思った。アリエとイトリの他に、観客は6人ほどしかいなかった。
「どんな人なの?」アリエは尋ねる。
「うーん、私よりずうっと年下なのに、とても大人びていて。なにかを諦めちゃってるように見えるの。それがね、なんだか、うん、魅力的で。写真、見たことある?」
「ない」
イトリはスマートフォンの写真フォルダを指先で漁った。
「この子」
イトリが示した写真にはシャツに黒いズボンという出で立ちでこちらに微笑んでいる少年がいた。宣材写真だろうか。前髪は目にかかっているが清潔感がある。優しい印象の目尻が特徴的な、どこにでもいる男の子だった。
「普通の子に見えるけど」
「そうなの、この写真ではね。彼が中学生の時の写真かな。でも、これしか、彼の写真って世に出てなくて」
ふうん。
開演を告げるブザーが鳴った。アリエは腑に落ちないまま、幕が上がるのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます