アリエ

「イトリ、ほんとうに好きだねえ。ええと‥」

「ナルミ ケイ!」

「そうその人、まだ高校生らしいじゃん」

「うん、そうなんだけど、でも、だいっ好き」

イトリは、大きなため息をつく。だいすき。彼女はそういうわりに、ほの暗い顔をする。これまでもそうだったなあとアリエは思い返す。

イトリは人を好きになるたびに、苦しそうだった。彼女は単純に同級生を好きになるような、生きやすい性格ではなかった。手の届かない人を好きになる。彼女はこれまでも、倫理的にかなわない人を好きになり続け、告白まで至ったことすらない。

イトリの性格では、これからもないんだろうな、とアリエは思っている。

イトリはかわいい。けれど、何もしなくても男が寄ってくるような類稀な美人というほどではない。ここで好きを恋愛に結びつける鍵が惚れている側の積極性なのだけど、イトリにはそれがなかった。それに、今度は相手が俳優である。しかも、高校生の。

 彼女がどこまで本気に「好き」なのかわからないけれど、今回ものぞみ薄だ。

 世に出ている表現者たちも、おなじ人間なのだと、誰かはいう。

 しかしそれはまったくの間違いだ。生きている世界が違いすぎる。


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