奇跡編:密室



 


先輩とこの部屋に閉じ込められてから

……多分二週間ぐらいが経ったと思う。


最初こそトランシーバーで連絡が取れたが、今はもう声を吐き出す事はない。

「こんな所、早く出たいですね」


「…………」


「うふふ」


「確かに二人っきりの密室、しかも男性と女性ですからね、ドキドキするのは分かります」


「…………」


「え!酷くないですかぁ?私じゃドキドキしないって!あんまりですよぉ」


「…………」


「姫川ちゃん、けっこー人気あるんだけどなぁ?」


「冗談ですって!私は先輩が一番ですよ、私の過去を全て調べて探って貰っても構いません、私のこの恋は最初で最後、先輩に受け取って欲しいんです。」


「…………」


「嬉しいです!私を選んでくれて!感激です!」


「…………」


「お腹空きましたね、何か食べましょうか」


「あれ?」


私のポーチ、非常袋にも、

先輩のポーチ、非常袋にも。


もう、食料が無かった。

「残念ですけどもうご飯が無いですね」


「…………」


「なら私を食べたいって?もうバカな先輩」


「結婚してから、です」


「もー!こんな所でプロポーズしないで下さいよぉ!時と場所を考えて下さい!」


「ふふ……楽しみにしていますから」


今の手持ちは……

 ・私の刀

 ・記憶処理用針射出銃だと思われる物

 ・水2L

 ・先輩のナイフ2本

 ・ワイヤー

 ・トランシーバー(電池切れ)


「水も少ないんですから、大切に飲んで下さいね」


先輩の前に水を置いた。

さて、これからどうしようかな。

とは言ってもやる事は同じ

この部屋を調べる

床と天井も調べたし、後は……

「ん?いえ、大丈夫ですよ!先輩はそこで休んでて下さいよ」

「ダメ男とか思いませんよ、まあダメ男でも好きですけど」

今日はこの後ろ側を調べましょう。

壁に不審な所は……無い

さて、叩いたり、斬りつけたりしてみますか。


「ッ……ハァハァ…ハァ……ダメですね」

「水くれるんですか!?先輩全然飲んでないですし!もーバカ!」

「ありがとうございます」

私の声は少しだけ反響し、薄れる

それをずっと繰り返す。


最初は違和感を感じた

だって先輩の声は反響しないもん。


「ふー、これからどうしますか?」


「ダメです!私に甘えないで下さい!」


ここに閉じ込められてから先輩は甘えてくるようになった

普段、こんなに甘えてくる事は無い人だけど

……多分、精神的に参っているのだろう

甘やかすより、甘えたい人なんだけどなぁ

「え?何ですか?」


先輩から渡された、先輩の手帳を見るように言われた

手帳を開くと

中から紙切れが一枚落ちてきた

「えっと……先輩、これは?」

紙には………と書かれていた


……は?

いやいや、だからこの紙には……って書いてある

「いや、分かりますよ先輩、……ですよね?」


そんな悲しい顔をしないで下さいよ

彼の笑顔は、悲しそうな感情を孕んでいるように見えた。

手帳にはあの足元まである青髪の少女について書かれていた


いや、書かれているように見えた

何故それが、解ったかは知らない、だけど確信を持って言える、あの少女の話だって。

でも内容はわからない、書かれている文字は私の知ってる文字だし、言葉の意味も多分わかる


なのにソレが理解出来ないって言うか……

見えてるのに、体が拒絶する、そんな感じ。

「先輩、この手帳は全部先輩が書かれたんですか?」


「……そうですか」

「その!良かったら読んで下さい!」

「そりゃ、自分でも読めますけどぉ!姫川ちゃんは音読してる先輩が好きだなぁって」

「ホントですか!姫川ちゃんズポイントを進呈します!」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


音は聞こえる、リズムも

でも、それ以外に何もわからない

「え!?な、何ですか?聞いてますよぉ!」

知らない言語を聞いている気分になってくる。




私を呼ぶ時、私に話しかける時は大丈夫なのに

読上げてる物だけ、変になる。

ああ、もう!どうしたら……

「はい!わかりました!ありがとうございます」

先輩の朗読が終わり、私は壁にもたれかかり


「すいません、少し疲れちゃいました」

先輩も眠そうだ

「寝込みを襲わないでくださいね」

「まぁ……この刀のサビになる覚悟は無さそうですし……大丈夫ですよね!」

コーン、コーン、コーン。

何?この音

コーン、コーン、コーン。


近づいてくる……?

「ええ、聞こえてます」


「救出班でしょうか?」


「確かに、足音は一つですね」


「仮に敵でも味方でも、ここから出られるなら利用しない手はありませんよ」


コーン、コーン、コーン。


コン

この部屋の前に止まった?

「あの!誰かわかりませんが助けて下さい!」

「中からはどうしようもなくて!」

私は出来るだけ大きな声で、音が止まった方向に喋りかけた


「お願いします!」

部屋の入口がノックされる

「はい!ここです!」


私もノックされた場所をノックする

「生きてて良かった、助ける。」

聞き覚えのある声が、金属の壁の向こうから聞こえてきた。

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