視界編4:失明作戦


俺達は一度東海支部に戻り、対策会議に参加した。

「こちらは今回の55研究者の岡部さん」

すらっと細い、ちゃんと食べてるのか不安になりそうな女性が握手を求めてきた。

「岡部、よろしく。」

こちらこそ宜しくと、握手を交わす。


「55の病気だけど、そもそも、一体何なのか。それについて、解説する。」

岡部さんが資料を配った

色々難しそうな資料、その中身を説明し始めた


「人間は物質が、反射した光が、ないと物を見る事ができないのはわかってると、思う。この反射した光を、見た時、光には反射した物質の、固有情報となる"波長"も、含まれている。固有の波長を、捉えて初めて、確認、つまり視認と認識が、できるようになる。」


「この55の病気は、この波長を、変えてしまう病気。だから、普段とは違う、常識ではない"なにか"が、見えるようになる。」


姫川は質問をした

「でもそこに置いてある物は変わらないんですよね?」

「物も人も、変わらない。だけど今まてまリンゴを、リンゴだと見て、認識できた物が、リンゴを見てもみかんにしか、認識できなくなります。これが波長を、変えるって事。」


つまり……

「見えているけど作られた波長の物しか理解できない」

…………

「この病気に視界を、乗っ取られるって事」

岡部さんはお茶を飲みながら一言。

「お茶をお茶だと、認識できるのは、幸せな事。」

空気が重い、それもそうだろう。

まさか視界を乗っ取られるとは。


共通した幻覚でもなく、皆がそろって夢みてるのでもなく。

感染者は当たり前を当たり前と認識できなくなるなんて。

「しかし俺と姫川が感染した時、パニックになりました。それも盛大に。何故ここまで静かなんですか?」


岡部さんはため息を吐いた後に

「多分感染者、同士で新しい波長に、ついて話たり、実はコレが、普通だったと、認識しちゃったのかも……確信はないけど。」


「病気はわかりました、対策方法はないんですか?」

姫川が真剣な表情で質問する


「目が見える限り、これは、止められない。」

最も聞きたくなかった答えが返ってきた。

ただ一つ希望があるとすれば。

"目が見えない状態でなら、感染しない"って事だ。

例えば暗闇で薬を投与する。それも感染者一人残らず。

これなら対処可能だ

不可能にしか聞こえないけれど、これしかない


「膨大な地域に、暗闇を作り出す、そしてその中で私達職員が、光を使わずに、薬を投与する。」

不可能だ……聞こえてくる言葉に希望が見えない。

「クーパーさん……」


姫川の弱々しい声が聞こえる

「まず人員がたりません。」


「それなら大丈夫です。55対策として日本全国の支部から人を招集します。」

クーパーさんは自信まんまんに答えてる。可愛い。


「私達はずっと少人数でやってきたけど、大人数いないと対処できない不可思議なんてザラにありますし、今までがラッキーだったのよ。」

人の問題は解決できそうだな。

またみんなに会えるのは嬉しいな

後は……光が入らない空間を用意しなきゃいけない。


そこで岡部さんからとんでもない提案があった。


「目が見えなくなる、化学物質を、この地方にばらまく……例えば水道に混ぜたり、空気中に散布したり。そうして実質暗闇を、作り出す、これが作戦。」

それは……

「全く関係ない人まで巻き込む事になります!賛成できません!」

俺は思わず声を出した。


「先輩と同じ意見です!」


姫川も声を出してくれた


「百歩譲ってその作戦にするとしても、もちろん目はまた見えるようになるんですよね?」


長い間を置いて

「すぐに作る化学物質、それは、保証できない」と岡部さんがお茶を飲みながら答える。


「わかっています、姫川さんの意見も、あなたの意見も!ですが、他に方法がありません!」

クーパーさんも悩みに悩んだ結果なんだろう。


「わかって欲しいの、この病気が世界に広がれば、人類は今までと変わらない世界でみたこともない物に囲まれて生きる事になる。文明が退化するかもしれない、人を人と認識できなくなって種が滅ぶかもしれない。」

「私達は人類を不可思議から守る組織なの、個人を、少数を犠牲にしても人類は守らなきゃいけないの!!」


あんなに声を荒らげたクーパーさんは初めて見た。

少数を犠牲にして人類全体を守る、それは正しいけど、あまりにも過酷。

時間もアイデアもない。

だけど人手はあるし薬もある。


記憶消去剤は注射型だから打ち込まないと効果がない。

それ以外から摂取しても効果が薄いんだ……

新しく開発するには時間がなさすぎる。

……一人一人に対処しても

薬を投薬する間にも感染者が増えるかもしれない。

いたちごっこになる


「なるべく目が、失明状態から、治りやすい物質にする、そこの努力は、惜しまないつもり。だけど時間がない、わかってほしい。」

岡部さんがは真面目に答えてくれてる。

クーパーさんも、姫川も。

「人を救うのいつも人です。ですが人を傷つけるのは人であってはいけないのに……」


泣くな姫川

つらいのは皆同じ……

俺は、俺達は無力なんだな……

「作戦は三日後に行います」

三重、愛知に化学物質を散布し地域の人間の視力を奪う。

前代未聞の作戦が決まった。




私の先輩は変な人。

調子のいい人って表現が正しいのかも。

関西弁風の方言を使うけど、多分出身は関西じゃない

エセっぽい。



クーパーの前だと敬語でかしこまって

ちょっと気持ち悪いけど嫉妬する。


武道が出来る話も聞かないし

射撃もそんなに上手くない。

だけど不可思議に対する思いは本物。

私が不可思議と縁の深い歴史がある家の出身だと話した時、目をキラキラさせながら子供のようにはしゃいで一緒に頑張ろうと言ってくれた。



不可思議は全てが悪い物じゃない

未知の物質で出来た物はいずれ人類に貢献してくれると信じてる。

だけど人類に対して敵対的な物もある

今回の病気もその一つ

絶対に視界は変えさせない

私が、私達が今まで見たもの覚えてるものを守る


あんな視界、絶対に人類をおかしくする。

薬の効果が薄かったのか、体質なのか、

今でも偶に見えるソレは

あまりにも不気味で、見続けると気持ち悪くなる

だけど薬は使わない。

使ってあげない。

私が最後の感染者になった時に使う。

私の手でトドメを差すことにする。

私は不可思議に勝つ。


感染しないためにも先輩とは私が見えてるコレの話をしないようにしなきゃ


私は先輩が好き


私は理想の先輩が好き


私は不可思議に立ち向かう理想の先輩が好き


私は先輩が嫌い


私は上司が好きな先発は嫌い


私は不可思議に負ける先輩は嫌い


私はあの人と共に生きていくって決めてる。


前に死にかけた時も助けてくれた。


今回は私が助けます。


不可思議から先輩を守ってみせます


岡部さんの話だと記憶消去剤にも限界はあるらしい

三回。それ以上は薬は効かないし、感染者として一生を過ごす事になる。


私も先輩も一回。

ここから先はもっともっと先に行かなきゃ。


民間人の目を潰すのはつらい

これは本当につらい。

何人、何万人の人に被害が及ぶのかわからない

中には感染してない人もいるかも

いや感染してない人の方が多い


でも

先輩が先輩じゃなくなるよりは

そう考えてしまう私を過去の私が見たら

どう思うかしら。

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