第64話 男の誇り
全身に癒しの光を纏わせて体の繊維を軋ませる。
ニーナが死んだというのに、頭は思いのほか冷静だ。
悲しいし憎い。それでもやるべき事をひとつひとつ考えられている自分は薄情なのでは?と疑ってしまうほどに。
「クドムゥ、なんばかキラキラじゃだいかぁ?」
「そういうお前はドス黒いんじゃないか?」
どっちが勇者で、どっちが悪なのか。
光があるから闇ができるし、悪の権化が存在するから正義のヒーローがいる。
表裏一体の世の中で、それが入れ替わった僕とアルト。
もはや「正しさ」という概念はない。
「まずはその穢い呪詛を剥がしてやろう」
こんなイカれた奴を殺しても復讐にはなり得ない。
「ぼざけェェェ!」
膨れ上がった真っ黒い拳で大きく振りかぶって近づくアルト。
魔力量や質からして、一発喰らえば僕でもヤバい。けど。
「話にならないよ」
「へ?」
大きく僕も前に出てガラ空きのアルトの腹に手を当てた。
「『ゼクト』」
するとアルトは魔力暴走により爆発した。
「……ガ……」
相手の力を利用する護身術を応用した技、それが『ゼクト』
相手の魔力や魔力の流れ、物理的な力に更に僕の圧縮した魔力を無理やり流し込み魔力暴走を強制的に引き起こす。
「しぶといな」
白目を向きながらも身体から呪詛がまだ発生している。
魂からむしり取った力を呪詛として使われてしまっているようだ。
瀕死ながらも僕に再び襲いかかってきたアルト。
さっきと全く同じモーションで向って来た。
「『ゼクト・ゼロ』」
アルトは膝から崩れ落ちて地面に寝そべった。
「ち、力が……なに、をしたぁ……?」
自力で立ち上がる力もないらしく、眼球だけで僕を威圧しようとしている。
だがとても滑稽だ。
「僕はその辺のお人好しで自慢がしたいだけの小者じゃないんだ。呪詛が抜けて頭も多少マシになっただろ?自分で考えろよ」
僕はそう吐き捨ててアルトの顔を蹴った。
『ゼクト・ゼロ』は簡単だ。
対象者の魔力に干渉して無理やり引き出して霧散させる技。
技を編み出した理由は拷問に使えるからである。
「ああ、そうだ」
僕は冷たくなったルークの死体をアルトに投げつけた。
さっきまで正気ではなかったから、きっとルークが死んでた事にも気づいていなかっただろうという、僕の優しい配慮と言えるだろう。
「ル、ルーク……」
「お前が駆け付けるのが遅かったからルーク殺しちゃったよ」
目を見開いたまま死んでいるルークとガッツリ目が合っているアルト。
「クロム!貴様、仲間まで殺したのか?!このクソ野郎が!」
「僕の仲間じゃない。僕は仲間じゃない」
僕はルークの剣を引き抜いてアルトの四肢を切断した。
「アアアァァァ!」
弱りきったアルトは出血ですぐに死んでしまいかねないので傷口を塞いだ。もちろん手足を再生させてはいない。
「惨めだね、勇者アルト君」
失った手足を元に戻せるのは実質的に僕だけ。
どんなに僕を睨みつけても無駄だ。
「私情でパーティーから追放して、四肢を失って見下ろされる気分はどう?そんなところから見上げるのって大変じゃない?唇に土が付いてても手が無いから取れないよね。ムカつくかな?こんなにコケにされても、やり返せないもんね。僕もそうだったよ?回復術しか使えない僕は君にやり返す力がなかった。今の君はどう?与えられた聖剣を振りかざすこともできない。今ならゴブリンにすら殺されるだろうね。ゴブリンは男も犯したりするかな?試してみる?口と後ろの穴はあるし、存外イけるって喜ぶかもね?どうかなアルト?ねぇ?そんなに睨まないでよ?眼が真っ赤じゃないか?そんな顔してちゃ、勇者様だとはいえモテないよ?もっとニッコリ笑って?ほら?笑顔は大事だろ?基本だ。優しい心で人々の光になるのが勇者じゃない?そんな魔物みたいな醜悪な顔はダメだよ?ねぇ?……」
反抗的な態度を見て僕はアルトの顔を蹴った。
「……よし」
僕はキャンベルの手下に人質を連れてこさせた。
「君の幼馴染、持ってきたよ」
ボロ切れを纏ったルエナ。
眼に光は既にないが、死んでるわけじゃない。
「観客も用意したよ?」
手足を縛ったアスミナを、僕はアルトの近くに座らせた。
アルトもルエナもアスミナも、みんな魔力はかき消してあるから力は振るえない。
ルエナに至っては捕獲してから薬漬けにして媚薬を使って発情させておいた。
「……お、お前、一体なにを……おい、まさかお前……」
艶めかしく舌なめずりをするルエナに、アルトの顔は恐怖に歪んだ。
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