第60話 勇者side 勇者パーティーの歪み

「アスミナもルエナもどこに行った?!」

「知らん!」


アルトとルークは王城に攻め込んできた敵と戦闘していた。


「クソがっ!屍兵を始め魔物の攻め入りが多すぎる」

「指揮官を探し……アルト」

「なんだ?!」

「クロムだ」


魔物に揉まれながら死闘を繰り広げているアルトとルークを見下ろすクロム。


「元気そうだな」

「グぅロムぅぅぅ!」


アルトが魔物を無視してクロムに襲いかかる。

王城内にも関わらず斬撃を放ったが城が壊れただけだった。


「やっぱりルエナ同様、血炎術式の影響は強そうだな」

「死ねぇ。お前さえ殺せれば」

「勇者様、僕は魔王じゃないよ?魔王様はこちらに」


クロムのニヤついた顔が非常に憎たらしい。

あえてそうしているのも含めて憎たらしい。


「な、」


頭部のたくましい双角に全身の筋肉に更にはち切れんばかりの魔装鎧、そして膨大な魔力を纏う体長3メートルを超えるミノタウロス。


「勇者というには禍々しいな。儂の代わりに魔王でも引き受けてもらいたいくらいだ」


魔王サタンの登場に魔物たちは跪いている。


「サタン、勇者の相手してもらっていい?僕はちょっとルークに話がある」

「それはよいが、早く終わらせるのだぞ?勇者なぞ相手していても儂には意味が無いからな」

「舐めてんじゃねぇ!」


超高速で迫るアルトの聖剣をサタンはどこからともなく召喚した魔剣で軽々と受け止めた。


「僕たちも行こうか、ルーク」

「っがっ!」


不意に聞こえたクロムの声と同士にルークは強烈な蹴りで吹き飛ばされた。


「このくらいで死なないよね?」

「せ、聖騎士である私がお前の攻撃で、死ぬことはない」

「たかが蹴りひとつで鎧を血だらけにしてても説得力はないな」


とっさに盾で防御したにも関わらず左腕の骨にヒビが入った。


「クロム、ルエナとアスミナ様は、どうした?」

「ルーク、仲間より自分の心配をした方が今は良いと思うけれどな?」

「聖騎士が仲間を心配するのは、当然だ」

「その言葉を元仲間の回復術師に言うとか、本当に酷いね」

「お前は仲間ではない」


クロムを殺す勢いで睨みつけるルークの身体に呪詛が絡み付いていく。

聖なる魔力と黒く淀んだ魔力が混ざり、ルークの心が歪んでいく。


「死ね」


ルークの横なぎの1振りが民家共々クロムを切り裂いていく。

周りにいた魔物や兵士、逃げ遅れた住民まで巻き込み断末魔の悲鳴をあげる。


「ルエナもそうだったがルーク、お前も哀れだな。人々を救うという勇者パーティーとしての志はもう無いじゃないか?」


空中に浮いたまま見下ろすクロム。


「ルエナは、どうした」

「アスミナの事も聞かないのか?さっきは聞いたのに?」


ルークもクロムも睨み合ったまま動かない。

するとクロムは不意に笑いだした。


「ああそうかルーク、お前はルエナに惚れていたのか?」

「うるさい」


斬撃を悠々躱すクロム。


「お父様からはアスミナと結婚させようとされ、想いを寄せていたルエナは勇者アルトしか見ていない。狂っていくアルトを見て悲しむルエナに、お前はどんな気持ちだったのか……」

「うるさい!」


ルークがどれだけ剣を奮ってもクロムには当たらない。

そればかりかどんどん街に被害が及ぶだけ。


「この勇者パーティーはよどんでいるし、歪んでる。国も人も」


ルークの身体が着々と呪詛に蝕まれていく。

次第に痛みも苦しみも無くなっていく。


「ワダジハ……オレハ……」

「獣に堕ちるか?聖騎士ルーク?」

「憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」

「……怖っ!」


そう言いながら指をさして笑うクロム。

生きている兵士がルークを見て戦闘を放棄して逃げ出した。

兵士だけじゃない。魔物も住民も悲鳴をあげて逃げていく。


「ルーク、お前も人間をやめたか。なんなら僕よりも酷いよ。ははっ!」

「ワダジハ、ニンゲン、ダ」


それを聞いてクロムはさらに笑った。

地面に這いつくばって手を叩いて笑った。

目じりに涙を浮かべて狂ったように笑った。


「全身に真っ黒な魔力を纏わせて、眼から血を流しているじゃないか。蛇の頭の尻尾がうねり、皮膚が呪詛で爛れているし、山羊の角だって生えているぞ?それでヒトだと?」


勇者パーティーの盾、聖騎士ルーク。

変わり果てたそれを、もはや誰も人であると口に出して言う事はできないような醜い姿。


「キャンベル!」


呼ばれて現れたキャンベル・スクワートと屍兵が、人質を連れてきてクロムは叫んだ。


「さぁ!見てみろエスティアナ家の貴族達よ!お前たちの希望!聖騎士ルークだ!」


ルークの眼には、自分を見て怯える家族の姿が写っていた。


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