第58話 焼かれた幼い希望
僕とルエナの戦闘は、ルエナが最も分が悪い。
「どうしたルエナ、民家ばかりが焼けているじゃないか?」
「うるさい!」
住民の避難も終えていないのにあちこち火炎魔法を放つルエナ。
一般人たちが火達磨になりながら悲鳴を挙げる。
「勇者パーティーの魔法使いが一般人を焼き殺してるぞ?いいのかそれで?」
「全部あんたのせいだ!」
「八つ当たりもいいところだよな?」
「あんたのせいでアルトがっ!」
ルエナの練り上げる魔力が禍々しい。
以前よりかなり魔力量や威力が上がっているが、澱んでいるからか精度が悪い。
辺りの街がみるみるうちに燃え盛っていく。
これが血炎術式の影響か。
「ルエナさん!やめてください!住民の方々が!」
アスミナが泣きながら訴えても聞く耳をもっていない。
「ルエナ、お前が一般人を焼き殺してるから、お前のお友達も悲しんでるぞ?」
「どうでもいいわよ!」
「本当に?」
「っがぁ!」
ルエナの腹を殴り、地面に蹲った。
僕はルエナの髪を引きずり焼けている肉たちの前に突きつけた。
「なあルエナ、お前はもう僕となにも変わらないよ?人を殺してるんだ。ほら、この家族を見てみろよ」
3人家族の焼けた臭い。
髪も肌も血も服もなにもかもが燃えて鼻を突く酷い臭いだ。
眼球も灰になっているが、生きたまま焼かれて苦しみながら死んだ人間がおぞましい表情を焼き付けていた。
「……ぁぁ」
「目を逸らすなよ。お前がやったんだぞ?」
「……違う……わたしじゃ、ない」
「お前だよ。お前が殺意をもって人を殺したんだ。あっちを見てみろよ?あの焼けた死体なんて、ちょっと小柄じゃないか?なぁ?」
近寄ってルエナに無理やり見せた。
それでも目を背けたのでもう1発お腹を殴ってから突きつけた。
「何才だったんだろうな?可哀想に。人類のヒーローたる勇者パーティーの魔法使い様に殺されるなんてな」
「……違う……違う……」
「将来の夢は『みんなを守る魔法使いになる!』とか言ってたかもしれないのに……」
「……違う……違う……私じゃない……私じゃない……」
徐々に壊れていくルエナを見て、僕は笑うのをこらえるのが辛かった。
そのまま殺してしまいたい。
絶望する顔を見ながら殺したい。
でもまだ我慢だ。用意してあるんだ。
今殺してしまうのはもったいない。
殺害衝動の代わりにルエナの杖を折って踏みつけて投げ捨てた。
「……全部、全部、全部全部全部全部……」
虚ろな目をしたままブツブツと呟くルエナの肌に、変化が起きた。
呪詛のような術式が身体に巻き付いていく。
これはまずいな。
「……なっ」
首元に手刀をいれて気絶させた。
すると呪詛が消えていった。
感情が高ぶるとコントロール出来なくなる、もしくは、精神が弱くなるほど術式に喰われる類いか。
こいつ使ってグラルバニア王国を焼き尽くすのもアリではある。
まあ、それでは面白くない。
勇者パーティーは全員不幸にする。
僕の復讐はこれからなんだ。
簡単に壊れてもらっちゃ困るよ。
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