第57話 女の勘
先行していたクロムたちに追いついて魔物たちが城壁内に侵入して兵士たちを掻き乱していく。
一般人も死んでいるが問題ない。
子供は生かして奴隷にするため殺さないよう言われているが、大人は要らない。
「2人ともやるなぁ」
リーヤはリザードマンの姿で爪を奮い、エリィナは飛び回って兵士を撹乱しながら弄ぶように殺していた。
「……僕も飛んでみるか」
ふとエリィナが気になった。
サキュバスであるエリィナには羽根があるが、目を凝らして視れば全身を包む魔力でコントロールして飛んでいるように見える。
修行して得たコントロール力なら飛べるかもしれない。羽根はないが。
全身に魔力を纏わせてイメージすればいけるか?
目を閉じてやってみた。
「クロム様?!凄いです!」
目を開けるを浮いていた。
少し気を抜いてしまえば不安定になるが、思ったより簡単だった。
とはいえ魔力量消費は割と多いな。
慣れればもう少し楽にできるだろう。
「エリィナを分析して飛んでみた。案外できるな」
「私は飛べるようになるのに100年掛かりましたが、クロム様は魔力の扱いがケタ違いに凄いですわ!」
魔法による属性攻撃はできないが、魔力量は元々かなりあった。
コントロールできればここまでできる事が増えるのか。
火炎魔法や電撃魔法に憧れていたりもしたが、これはこれで気分がいい。
「エリィナ、リーヤ、ちょっと内通者を拾ってくる」
「クロム殿が飛んでる?!」
「私もご一緒に」
「2人はここの指揮を頼む」
トカゲサムライとストーカーに頑張ってもらおう。
(おいアスミナ、今はどこだ?)
(……すみません、ルエナさんに見つかりました)
(そうか。現在はどこだ?)
(先程の6番街とほぼ変わりません)
(わかった)
6番街は民家が多い。
やや入り組んだ地区に該当し、アスミナであれば大抵の敵は撒けるはず。
にも関わらずルエナに見つかるという事は裏切りがバレていた?
もしくは勘づいていた、くらいか。
急がないとな。
☆☆☆
「アスミナ、どこへ行くの?」
「ルエナさん……」
路地裏の細い道、2人は対峙していた。
箒に乗ったルエナは疑わしいと薄ら笑いを浮かべながらアスミナに問うた。
「薄々分かってたのよ。なんかアスミナの動きがおかしいって」
「なんの事、ですか?ルエナさん」
「クロムに血を吸われてからおかしかった。お忍びで街へ出たり、調べ物もやたらと増えたわ。それに、魔王軍の動きがあまりにも早すぎる」
四方八方から魔物たちが攻めてきているのを発見された時点でアスミナが寝返った事はバレるだろうとは思っていた。
ルエナは同じ魔法を扱う専門職。
結界術と属性魔法とはいえ、ロジックに真っ先に気付くのはルエナか他の優秀な魔法・魔術に特化した者だろうと予測していた。
そのためにアスミナはクロムとの合流を急いでいたというのに。
「結界結晶石のメンテナンスもかなり真剣に、それもこまめにしていたもんね?」
「ですが、それでは疑わしいというだけでしょう?」
「まあそうだけどね。でもわかるわよ。恋する乙女がなんの為に動くか、誰のために動くかなんて……」
自虐のような乾いた笑いを浮かべたルエナ。
「アスミナ、死んでくれない?」
アスミナに杖を向けるルエナ。
アスミナに戦うだけの魔力はもう残っていない。
ルエナの火炎魔法を防ぐ力はないのである。
「アルトの為にも、しんで」
そう言って魔法を放とうとした瞬間、2人の間を割って入るように何かが勢いよく落下してきた。
「やぁやぁルエナ。友情ごっこでもしてたかい?それなら申し訳ないな」
友情ごっこってなんだよ。なんて自分で言っていて笑うクロム。
「な……なんで、こんな所にあんたが……」
「王国を襲いに来てるんだから、居てもしょうがないと思うけど?」
「だいたいどうやって……」
「どうやってって、飛んできた?」
「回復術師のあんたが飛べるわけ……」
「う〜ん、気合い?」
まあそうだよね。飛べるのなんて、風魔法特化の魔法使いか、ルエナみたいに火炎魔法特化の火力で飛ぶくらいしかいないし。
「まあとりあえず、折角ルエナが1人で居るし、お楽しみといきますかね」
クロムは酷く歪んだ笑みを浮かべていた。
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