第33話 クロム容疑者の供述
「あ!あの!私を魔王軍の仲間に入れては頂けないですか?!」
俯いていたアスミナがいきなりそんな事を言いだした。
「クロムさんからすれば裏切り者、それは、承知しております。しかし……」
「勇者たちを信頼できなくなった、か?」
僕がそういうとアスミナは目を背けた。
そして小さく頷いた。
「現在の勇者たちの動き、そして王国の動きをお教えします。私に出来る事はあまり多くはありませんが、少なくとも、今のこの国の為に、私はなにを頑張るべきなのか……」
アスミナの迷いが見える。
魔王を討ち滅ぼす事が王国を、ひいては世界を救う事ができると信じていた。
しかし、勇者の挫折、そして王国の裏の動きなどでも不審に思うところがあったのだろう。
「場所を変えるかのぅ。これ以上はここでは話せぬ。アスミナよ、一緒に来てくれるかの?」
「……はい」
「安心せい。今はクロムに殺させはせぬ」
(クロムよ、こやつはかなり使えるぞ?それも、お前さんの復讐をよりいいものにできるやもしれぬ)
ヴィナトからの念話。
口角を緩やかにつりあげ、なんとも悪い顔をしている。
(聞こう)
(なに、簡単じゃ。アスミナも勇者側を裏切りらせる。という構図を作ればそれだけで復讐として成立する。元々アスミナをクロムから引き離す為の追放だったのじゃろ?)
今の不安定な勇者パーティーから更に結界の聖女の裏切り、確かにこれはかなり精神的に来るだろう。
(加えて、こやつは結界の聖女じゃ。もしかすると、王国を護る結界を弄る事ができるやもしれん)
(いいだろう。乗ってやる)
裏切り者、このカードはとてもいいものになる。
(まあ、結界を考慮すると、しばらくは内通者という立ち位置が適正じゃろう。クロム、お前さんもしっかり口説いておくれよ?)
(ああ)
人生はなかなか面白い。
王国に忍び込んでスイーツ喰ってただけでこんな展開になるなんて誰が想像できようか。
「妾は会計をしてくるでの、しばし待たれよ」
ヴィナトは席を外した。
「アスミナ、お前がそこまで悩み苦しんでいたとは思わなかった。すまない」
ニーナが目を丸くしたが、なにかを察したように小さくため息をついた。
「い、いえ!クロムさんこそ、色々あっての事、ですし……結果的に誰一人死んでいませんし」
頬を赤らめるアスミナをじーっと見つめるニーナ。
そこでヴィナトが帰ってきたので僕らは喫茶店を出た。
帰り際、例の広場の冒険者たちを見て真っ赤になったアスミナだった。
「まだやってたのか」
「クロム、そろそろ解いてもよいのではないか?」
「人間としての尊厳はもうないでしょうし、十分なのでは?」
「あれ、クロムさんがされたんですか?!」
「カッとなってやった。悪気はなかった」
「悪気しかないでしょう!クロムさん!」
「カッとなるどころか、冷静に骨を折っておったがのぅ」
「丁寧に指を1本ずつ折ってましたね……」
そんな愉快な会話をしながらも宿に着いた。
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