第26話 勇者side 堕ちていく勇者

王国の一室、アルト、ルーク、ルエナ、アスミナは話し合いをしていた。

辺りには陰険な雰囲気が漂っていた。


「アルト、貴方がクロムを追い出そうなんて言わなければ」

「ルーク!お前だって賛成してただろうが?追い出した分エスティアナ家からの支援も増やせるってノリノリだったくせに」

「クロムの村を焼いたのは流石に酷いと思う」

「回復術しか使えないないくせに調子にのんなって影で言ってたのはルエナだろ?ちょっとヤキ入れてやろうとか言ってただろ?」

「村の人を皆殺しとかやり過ぎでしょ……」

「なんだよルエナ、今さらいい子ぶってんじゃねぇよ」

「ち、ちがう……」

「……」


勇者パーティーたちはクロムとの戦闘で瀕死だった。


どうにか動けるようになったアスミナが残っていたポーションをみんなに飲ませてどうにか救助まで持ち堪えての今であった。


それぞれ治療を受け、動けるようになって今回改めての話し合いだった。


「責め合いはなにも生みません。クロムさんが敵の手に落ちてしまった以上、こちらの情報などの筒抜け、さらに幹部を倒す事も出来ずに返り討ち。私たちは危機的状況なのです。打開策を考えなければ」

「わかってたんだよ!そんなことは!」


頭を掻きむしっているアルト、手を握りしめながら申し訳なさと怒りで唇を噛んでいるルーク、今にも泣きそうなルエナ。


皆一様にクロムにゴミのように扱われた。

クロムに言われた言葉が心の痛いところを一切の遠慮なく突いてきた。


「回復術師だ。回復術師を入れてもう1回クロムと戦う」

「あの素早さに力、回復術師がいて回復させてくれるとしても、まずクロムさんは回復術師を狙うでしょう。回復術師の役割をなによりも理解されているクロムさんなのです」


治癒術と回復術、その差を大きく感じた戦い。


現に、アルトの内臓はルークの治癒魔法では治すことは出来なかった。王宮回復術師でもアルトを治すのに1週間以上を費やした。

治療中に容体が悪化し、何度も死にかけている。


「それに、王国最高の回復術師と言えど、クロムさんの回復術には届かないのです。現状はほぼ無意味でしょう」


以前、クロムは王宮の兵士の怪我をよく治していた。

失った手足、眼。

完璧に復元していた。

あとにそれを治療院の人に話したアスミナはクロム能力の高さに驚かれたという。


「もう一度、クロムさんに仲間になってもらうしかありません……絶望的ですが」

「……村を焼いたのは王国兵たちだ。俺たちは悪くない」


頭を抱えて下を向いて現実逃避を始めた勇者アルト。


「……だいたい、王国兵に殺されるような弱い村人なんかが悪いんだ……アスミナまで穢しやがって……なんなんだあの力は……吸血鬼にしても強すぎるんだよ……クロムのくせに……田舎者のくせに……」


貧乏ゆすりをしながら床に向かってなにやらブツブツとつぶいている勇者。


少しずつ、アルトの魔力に闇が侵食していっているのをアスミナはどうしようもなく見ていた。


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