第15話 リベリアという名
熱い熱い熱い!
胃袋が熱い。
アスミナの血が、魔力が、全身に駆け巡り血管の全てから血が破裂しそうだ。
「な、なんなんだ……これは?」
初めての吸血はこんなものなのか?
それとも、ハーフ吸血鬼だからか?
人間としての僕が拒絶している?
わからない。
とにかく苦しくて辛い。
「い、今なら!……クロムを、殺せる!」
「いけません!アルトさん!」
「妾の眷属をそう易々と殺させる訳にはいかんのぅ」
「……ヴィナ、ト」
僕を守るようにして現れたのはヴィナトだった。
いつもよりどこか神々しく、または禍々しく、まるで吸血鬼の王女とでも言わんばかりの風格を纏って姿を現した。
「魔力の暴走じゃな」
ヴィナトはそう呟きながら僕の頭を撫でた。
この場の殺伐とした状況からはかけ離れた母性を発揮するヴィナト。
「おい、そこの王女。名はなんと言う?」
「貴女こそ、どちら様でしょう、か?まず名乗ら、れては?」
「虫の息の割に気高いのぅ。……妾はクロムの吸血鬼にした者。魔王軍幹部の1人、吸血鬼のヴィナトじゃ」
「幹部がもう1人……聞いてない、ぞ。クソがっ」
ルークが悪態を付くが、ヴィナトはどうでもいいと言わんばかりに無視した。
「そう、ですか。私は結界の聖女、第六王女のアスミナ・リベリア・グラルバニア」
「……第六王女のリベリア、か」
ヴィナトは何かを噛みしめるようにその名を呟いた。
なんの関係があるのか全くわからない。
僕の魔力暴走となにか関係でもあるのか?
「アスミナと言ったな。太陽の聖女は知っておるか?」
その質問をすると、アスミナは驚愕した。
「……なぜ、貴女がそれを」
アスミナも何が今起きているのかわからないようだ。
それほどのなにをヴィナトは聞いたのだろう。
太陽の聖女?
そんな聖女がいるのか?聞いた事がない。
「いずれお前の前に太陽の聖女、カルミアが現れるだろう。『ヴィナトに会った』と伝えておいておくれ。それだけ言えばわかるじゃろう」
アスミナはカルミアという名を聞いてさらに驚愕していた。
「貴女は、なにを、どこまで知っておられるのですか?」
「それはカルミアから聞くとよい。聞けるかは分からんがのぅ」
ヴィナトは不敵に笑って誤魔化した。
「レナード、魔界へ帰る故、妾の眷属に手を貸してやってくれんかの?」
……ああ、レナード、まだ居たのか。
「……ま、待て!……まだ、終わっ」
「今日の所は見逃してやろう。お主たちとの決着はクロムにさせなればならんでのぅ。……本当は妾がさくっと殺してしまってもよいのだがのぅ」
ヴィナトから不意に溢れんばかりの魔力を放出した。
なんていう威圧だ……
対峙した魔王サタンの比じゃない。
この場の空気を凍らせる程の圧倒的な殺気。
「……化け物」
「失礼な。妾を見て化け物と呼ぶか。命知らずの勇者じゃのぅ。……まあよい」
ヴィナトは僕の傍に来て、見せつけるように口付けをした。
舌を絡ませる事はせず、ゆっくりと儚く、優しいキスだった。
「……クロム、さん」
アスミナの顔が一瞬だけ目に入った。
どこか切なそうな表情だった。
「では帰ろうぞ」
そして僕の復讐は失敗に終わった。
次、次こそは必ず……
そこで僕の意識は途絶えた。
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