第9話 ヴィナトの想いと願い

「『『『レアヒーリング』』』」


まずは上級継続回復魔法を無理矢理に重ね掛け。

全身から光の魔力が溢れてホタルのように纏わせる。


「『解放せよ、リミッター解除』」


闇の魔力が全身から溢れる。

光と闇の相対する魔力が混じり、いびつに揺らめいている。


「いくよ」


一気にサタンの前まで迫り、そのまま渾身の右ストレートを放った。


予測していたのかバックステップするもサタンの顔からは余裕が消えた。


拳に込めた魔力をそのまま解放して直線上に解き放った。


回避が間に合わないと判断したサタンは腕を固めて防御の体制で衝撃を浴びた。


僕の目の前から音が消え、そこから先の地面は消し飛んだ。


「……ふ、ふはっハッハッハァァ!死ぬかと思ったぞクロムよ!」


全身ボロボロのサタンが真っ向から殴りかかって来た。

今にも死にそうなクセに笑ってやがる。


「そのまま死ねぇ!」


両者拳を突き出してぶつかる。


「……く、そがっ」

「ンゥグッ!」


魔力がぶつかり合い次元が割れ始める。

力も魔力も共に負けてない。

だが、僕の身体の半分は人間。押し返そうと力む度に腕が悲鳴を上げている。


上位継続回復魔法を3つ重ね掛けてさらに吸血鬼の再生力を持ってしても徐々に再生が間に合わなくなっていく。


「っ……まだ、だぁ!」


身体を捻り、右肩ごとねじ込むように全身の力を拳に込めた。


「ッヌヮァ!!」


競り勝って魔力が一気に爆発し、互いに吹き飛んだ。


思い切り大岩に全身をぶつけて意識が飛びそうになったが、すぐに復活し体制を立て直した。


「まだっ」

「クロム、もうよい」

「っ!ヴィナト」


ヴィナトが止めに入った。


「まだだ!」

「もう結果は見えておる」


砂埃で辺りは視界が悪い。


「禁術も解いた方がよいぞクロム。お前さんとて身体に悪い」

「……ああ」


サタンが向かってこない。

魔力の流れも今は穏やかになっている。


サタン死んだ?

いや、僅かにだがまだ気配はあるか。


「禁術の影響なのかもしれぬの。全身の力を解放するが、まだ魔力の流れや動かし方に違和感がある。慣れるまで少しかかるじゃろう」


込めた魔力に僅かな漏れや流れのムラがあったのがバレていたのか……


「サタンはまだまだ修行が足りんの。あそこで伸びておるわ」


全身はさらにボロボロ、右腕は違う方向に不自然に捻じ曲がっていた。

吐血したのか自身の口から血が溢れていた。


「……ぅぅ」

「ほれクロム、休むとよい」

「ああ……」


言われるがまま、ヴィナトの膝枕されて意識を失った。

全身の猛烈な疲れに為す術もなかった。




☆☆☆



「起きたか、サタンよ」

「……死ぬかと思ったわ。クロムは、寝ておるのか?」

「そうじゃ。妾の膝でぐっすりじゃの。可愛いじゃろ?」


ヴィナトは自身の太ももで眠るクロムの頭を優しく撫でていた。

サタンは酷く愛おしそうだと思った。


「サタンもそこで座って少し休むとよい。膝枕はせんがの」

「そうさせてもらおう……しかしこれ程とはな。憎き女神エリアの顔が脳裏に浮かぶ程に死を意識したぞ」

「クロムはまだ強くなるぞ?」

「……ヴィナト」

「なんじゃ?」

「やはり魔王はヴィナトが受け継ぐべきだと、儂は思う」

「嫌じゃよ……幹部という肩書きとて渋々じゃというのに」


ヴィナトは撫で続けながら灰色の空を見た。


「妾ではダメなのじゃ。妾は元人間。ましてや王族の血を引く者じゃ。魔王として相対する者はサタン、お前でなければ、女神エリアを討ち滅ぼす事はできん」


大地と呼ぶにはあまりにも凹凸の激しく変化してしまった枯れた大地で、ヴィナトはいつまでもクロムを撫で続けた。



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