第7話 魔王とヴィナト、そしてクロム
「ここが魔王軍の本拠地か」
「そうじゃ。いかにも禍々しいじゃろ?」
「ああ。流石は魔界だな。光という光がない。普通の人間なら3日ともたず精神を病む」
負のオーラ漂う世界。
瘴気に満ちていて、人類の干渉を避けるように世界に広がっていた。
「妾も元は人間じゃったからの。分かるぞ。人が来ては行けない領域だというのは」
「ヴィナトも人間だったのか」
「そうじゃよ。その昔はそれはもう可憐な乙女じゃったのじゃよ?」
「……それは今も変わらないんじゃないのか?見た目幼いけど」
「クロムよ、今妾の胸を見たじゃろ?一瞥しおったじゃろ?これでも少しは膨らんでおるわ!」
ヴィナトと出会ってから3日。
最初は殺されると思った。
ヒトとはかけ離れた存在。
ヒトを模しているだけで、想像の埒外な化け物を前に死を覚悟した。
それなのに、話してみれば割と子供のような態度であったり、永い時を生きた高貴な雰囲気を纏ったりと訳がわからない。
「それより魔王と会うんだろ、早く案内してくれよ」
「それより、なんて……妾はそんなに魅力かないのか。これでも魔界では引く手あまただと言うのに……」
「というか、僕をいきなり魔王に会わせていいのか?仮にも僕は元勇者パーティーの1人、潜入する為の裏切りの可能性だってあるだろ?」
「大丈夫じゃ。妾の権力をもってすれば問題ない」
どういう事だろうか。
ヴィナトは魔王軍幹部の1人だと話しているから、それなりに権力はあるだろうが、それでも他の幹部や部下が黙っていないだろう。
魔王城の門まで来た。
屈強なガーゴイル達が城の周りにいる。
警備はかなり堅い。
サキュバスのメイド達が出迎えた。
僕を見るも嫌な顔ひとつしていない。
「魔王サタンに紹介したい者がおる。伝えておくれ」
ヴィナトはメイドにそう伝えて僕らは中に入った。
案内されるままに歩き、魔王のいる部屋に通された。
赤く綺麗な血の結晶の玉座に座る魔王サタン。
光沢の全くないどこまでも黒いローブ越しでもわかる屈強な肉体。
頭に二本の角は歴戦の猛者の風格を醸し出している。
ときより現れる尻尾は悪魔の象徴。
だが魔王サタンがミノタウロス族だとは知らなかった。
「久しいのう、サタン」
「……お前たちは下がってよい。ヴィナトと連れの者と3名で話したい」
魔王サタンはメイド達を下がらせて僕らだけとなった。
「紹介しよう。元勇者パーティーの回復術師にして妾の眷属のクロムじゃ」
魔王サタンは僕を見て笑った。
「人間を捨てたとはいえ、眼は既にヒトではないな。クロムよ」
「魔物のトップが牛とは思わなかったな」
てっきり醜い顔をした悪魔かと思っていた。
サタンと言えば、女神エリアに仕えていた精霊の変わり果てた姿、それがサタンという悪魔として有名だった。
「儂はこの身体が今は気に入っておる故使っているだけの事よ」
「どうじゃサタンよ、クロムと1戦交えてみんか?」
「いきなりだな」
「よいではないかクロムよ。魔王と1戦なぞ中々出来るものでもなかろうて。それに、お前さんがどこまでできるかも実験したいじゃろ?」
魔王で実験か。
相手としては申し分ない。
魔王を殺せるくらいなら勇者パーティーも余裕で殺せるだろうし。
「魔王サタン、1戦願う」
「よかろう。魔王とて運動のひとつもせねばな」
サタンは不敵に笑っていた。
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