第2話 吸血鬼とハーフ吸血鬼

「本当にこの先に奴らがいるのか?」

「おるぞ。100匹ちょいじゃの」


僕とヴィナトは国王軍の元に向かっていた。

目的はもちろん復讐だ。


「そうじゃクロムよ、妾と契約をせぬか?」

「……契約?」


足を止めて僕はヴィナトを見た。


「妾はお主を仲間にする為に復讐に協力するが、今のお主の実力ではなにもできん」


回復術師である僕は攻撃する術を持っていない。

ただ怒りに身を任せて走ってたので、それを失念していた。


「契約って具体的には?」

「お主には妾の眷属となってもらう。要は妾と同じ吸血鬼じゃな」


吸血鬼は人間よりも身体的にも魔力量的にも遥かに強い。

加えて傷や怪我が治るという固有スキルがある。


「吸血鬼か……」

「無論、完全な吸血鬼という訳ではない。ハーフ吸血鬼くらいじゃ。半分なら太陽を浴びても死なん」


吸血鬼の1番の弱点、それが太陽の光。

それがハーフ吸血鬼なら問題にならないというのはかなりの利点だ。


「しかしハーフ吸血鬼は通常よりも危険を伴う。ヒトと吸血鬼の血を馴染ませるのは相性や遺伝子的な問題もあるのじゃ」

「完全な吸血鬼とハーフ吸血鬼のなにが違うんだ?」


どっちにしろ吸血鬼になることには変わりないんじゃないのか?


「純粋なヒトから吸血鬼にするのは簡単なのじゃよ。塗り替えるだけでよい。しかしハーフはヒトと吸血鬼を己の中に共存させなければならん」

「もしそれができなければどうなる?」

「吸血鬼ですらないただの化け物になるのう。ひたすらに血を求めて凶暴に暴れ回り、理性の欠片もなくなる」


太陽光を克服できる分のリスクと化け物、どちらにしても一生のリスクを伴う。


「ヴィナトはなぜ僕をハーフ吸血鬼にしたい?」

「簡単じゃ、お主の力とヒトとしての利点を活かして人間達を滅ぼす。もちろんお主自身が日中でも活動できる分、復讐もやりやすくなる」


日中で動けるならあらゆる準備ができる。

ハーフ吸血鬼としての強靭な身体能力を駆使しての復讐。

条件としては悪くない。


「それに、お主は仮にも元勇者パーティーの回復術師。お主の回復術を駆使すれば完全な吸血鬼と変わらぬ力を発揮できる禁術を使えるやもしれぬ」


回復術師である僕にしか発揮できない禁術。

やってみる価値はあるかもしれない。


どのみち、もう失うものなんて対して残っていない。

あとは自分の命くらいしかないんだ。

復讐して死ねるなら、それもいいか。


「わかった。頼む」

「うむ。ではまず両の掌を妾に向けよ。少し血が出るが治すでないぞ」


頷いて僕はヴィナトに掌を出した。

するとヴィナトはその掌に鋭い爪で傷を付けた。

なにかの紋章なのか円を描いたり真っ直ぐ切られたりしている。

それを両手にされるのだからジクジクと痛み続ける。


「五芒星の陣じゃ。五芒星は妾達夜の眷属の証じゃ」


そう言ってヴィナトも同じように掌に五芒星の傷を付けた。


「『夜の星に新たな眷属を授からん』」


ヴィナトがそう唱えると、僕とヴィナトを囲むようにしてより複雑な五芒星の魔法陣が白く光り出した。


僕の血と、ヴィナトの血が魔法陣に滴り落ちて赤い光へと変わっていく。


「クロムよ、耐えるのじゃぞ」


ヴィナトは僕の両手に絡めるようにして恋人繋ぎをした。

互いの傷口が触れ合っている。


直後、掌からなにかが入ってくる。


「ッガッ!!」


心臓が痛い。

全身が物凄い勢いで脈打つのがわかる。

あらゆる穴から血が吹き出そうな感覚。


「んぁ……ぅぅん」


ヴィナトも苦しそうだ。

悶えているようにも見えなくはないけど、それに反応する余裕も僕にはない。


目の前がチカチカする。

魔力の淡い光か、それともただの錯覚か。


ヴィナトが僕の中に入ってくる感覚。

入られて、侵されて、闇に呑まれそうになる。


ありえないなにかが身体に入ってきているというのに、僕は不思議と抵抗していないように思う。

ヴィナトの血を受け入れているのだろうか。


次第に魔法陣の輝きが強くなり、僕とヴィナトを包んだ。


時間が止まったようにも感じられて不思議だった。

何時間も経ったような気もする。


「……成功じゃ」


ヴィナトは愛おしそうに僕を見つめていた。

どうしてかとてもヴィナトが綺麗に見えて、動悸がする。


そのまま僕は吸い寄せられるようにしてヴィナトに口付けをした。


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