第3話 奇襲
「人数は100人少し、そのうち非戦闘員が10人程か……」
「クロムよ、まさか今更怖気付いてはおらぬよな?」
「そんなわけないだろ」
したり顔で僕をジロジロ見るなよ。
「ヴィナト、結界って張れるか?」
「障壁の類いはできんが、霧ならできるぞ。方向感覚を狂わせて元の場所に戻ってくるのじゃ。根絶やしにするのであればそれでも充分じゃろうて」
「それで構わない。逃がさないようにしてくれよ?」
こいつらには逃げられては困る。
それに、仮にも王国兵、伝令を伝えに行かされても面倒だ。
僕自身も、契約によって得た力の使い方や禁術の行使で割と余裕はないだろう。
余裕は心身共に全くない。
今まで仲間を助けるために回復術を使っていた僕が、これからヒトを殺すのだ。
果たして殺せるだろうか。
思い出せ。村のみんなを。
無惨に殺され、犯され、弄ばれたみんなを。
「個人的には妾も参加したいのじゃがのぅ」
美しく佇みながら物欲しそうに見つめている少女の姿は綺麗だが、その瞳に無邪気な光はない。
「行ってくる。観ててくれ」
「うむ。無理はするでないぞ〜」
「わかった」
まあ、無理しないと殲滅出来ないなら無理のひとつもするけどな。
「血を飲めば魔力が回復する。やばかったら飲むと良いぞ。……年老いた男の血は大抵渋くて不味いがの」
「ご忠告ありがと」
☆☆☆
火を囲んで談笑している兵士たち。
肉を食い、酒を浴びて、顔を真っ赤にしているのがなんとも憎らしい。
上空から見ててもそう思うのだ。
間近で見れば吐いてしまいそうだ。
まずは……
「うがぁ?!……」
ブーツ越しに肉の潰れる音がした。
聞こえるのは悲鳴、怒号。
リーダー格らしき奴がすぐさま戦闘に入った。
「何者だ貴様?!よくもメルドをっ!」
まずは禁術なしでどこまでできるのか、それを実験するか。
「うるさい」
背後から迫ってきた兵士数名をまずは回し蹴りで蹴飛ばした。
……上半身がいくつか千切れたな。
ハーフ吸血鬼でこれか。
「『ファイヤーボール!』」
「『アイススピアー!』」
「『エアーカッター!』」
「『ロックショット!』」
全方向から4属性の初級魔法が放たれた。
初級魔法の割には魔力量が多いな。
結構な手練かもしれない。
直後に魔法の炸裂音が響いた。
「やったか?!」
「我ら国王軍を甘く……」
「うん。魔法耐性はあるけど、ベースは人間の強化版くらいか。当たると痛いな」
「クソがッ!」
傷口がどんどん勝手に治っていく。
致命傷はないから問題はないな。
「『ヒーリング』」
常時回復でどこまで無傷でいられるか。
「いくよ」
地面を踏み蹴って次々にヒトを惨殺していく。
四肢を引きちぎり、踏み潰し、首を捻り切る。
1匹1匹に苦しみぬいて死んでほしい。
「ば、化け物だ……」
逃げていく兵士は霧の中に逃げていくも、そのままこちらに戻ってきた。
「僕を殺さないと出られないよ」
敵前逃亡する国王軍兵士ってダメだろ。
そのまま逃げた兵士を捕まえて頭を鷲掴み、顔を何度も地面に打ち付けた。
ぐちゃぐちゃで気持ち悪いな。
「ははははぁぁぁ!」
背後から迫り来る刃に潰れた兵士を盾にして回避。
「貴方、回復術師のクロムよね」
「知らないよ」
もう人間辞めてるし。
「国王軍には女もいるんだな」
「私はこの大隊を率いる隊長、メリル・タナート。女だからと舐められては困るわ」
さっき殺したリーダーっぽい奴が隊長だと思っていたが、こいつか。
「僕の村を陵辱した奴らの隊長の割にはまともそうな隊長だな」
こいつは生け捕りにして拷問しよう。
首謀者を吐かせてゴブリンにでもあげよう。
「メリル隊長!大隊はほぼ壊滅!周囲の謎の霧により脱出も困難であります!」
隊長がなぜ遅れてきたのかは知らないけど、ちょっとは強そうだし、練習相手になってもらうよ。
「おしゃべりが長いよ」
「速い!」
ダッシュで一気に報告していた兵士の顎に膝蹴りを喰らわせると頭が飛んで行った。
「全員下がれ!大規模魔法を展開!私が時間を稼ぐ!」
「してもいいけど、意味ないと思うけどなぁ」
メリルは剣に魔力付与を重ね掛けして、剣先を僕に向けた。
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